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【超短編小説】AGWP検定準2級

掲載日:2025/12/16

 ドアが開き、中から番号札を胸につけた女性が出ていく。その顔は不安げだった。

「次の方、どうぞ」

 やたらにタイトなスーツを着た巨乳の係員が私に声をかけた。

 オーバルレンズの細い縁が光った気がした。

「はい、ありがとうございます」

 その光は私の希望となり得るか。

 今すぐその巨乳に埋もれて窒息したいと思いながら、私は大きく息を吸ってからドアを三回ノックした。

「失礼します」

 声の張り方に細心の注意を払いながら中に入ると、広々とした会議室の長机に濃い灰色のスーツを着た面接官が5人ほど座っていた。


 私は面接官たちの正面に置かれたベッドの横に立ち

「受験番号4123番、四方天 翔子。よろしくお願いいたします」

 深々と頭を下げた。

 今度こそ、と胸の中で小さく呟く。

 これは復讐なのだ。

 いまだかつてあんな屈辱があっただろうか。

 あの通知書には健闘を祈る言葉すらなく、ただ不合格と書かれているだけだった。

 採点結果すら同封されていない。

 何が足りなかったのかも分からない。

 ただ私が至らなかった結果だけが記されていたのだ。


 それを見た瞬間に自分が上気しているのがわかった。

 血が沸騰したように熱く全身を駆け巡る。

 不合格。

 不合格!

 この私が!


 その日から特訓が始まった。

 専門のコーチを呼んだ。

 映像も撮って自分で幾度となくフォームを確認した。

 あらゆる文献を漁った。

 傾向と対策、流行りも取り入れた。

 禅寺で修行もした。

 侘びと寂び、その落差について考えた。

 恥を承知で道行く人にもアドバイスを求めた。

 客観性が必要だった。


 幾度となく繰り返したその修行の成果を今こそ見せる時だ。


 私は真っ白いベッドに横たわり、真っ白い枕を背中の下に入れる。

 何度か小さい呼吸をして気持ちを作り「いきます」と叫んでから両手でピースを作り顔に添えると白目を向いた。

「んほお!いいの!」

 思い切り叫び、舌を出した。

 目からは涙が溢れていく。涎も垂れていく。

 それでも構わず叫び続ける。

「んんんんん!!いいのぉ!!!」

 もう、どう見られても構わない。

 美しく見られる事も可愛く見られる事も考えない。

 全身全霊、渾身のアへ顔Wピースを見せる。

 ゆっくりと足が開く。

 足の裏が弧を描き、次第に伸びていく。

 体温が上がり呼吸が乱れる。

 自然と歓びが身体に満ちて笑顔が溢れる。

 面接官たちに向けていた意識がゆっくりと離れていく。

 もう、どうにでもなれ。

 あの時に不合格だった悔しさすら今はどうでもいい。



「そこまで」

 面接官たちの一人が声をかけた。

 その後の面接内容は殆ど覚えていない。

 けれど充実感に満ち溢れていた私はそんな事どうでもよかった。

 ただ次に来る封書は合格であると言う自信だけはあった。


 試験会場を出ると、陽が傾きかけていた。

 もう夏と言ってよい季節の午後、柔らかさのある春風が頬を優しく撫でる。

 涙と涎の跡が冷たく感じられた。

 その時、初めて恥ずかしさがこみあげてハンカチで顔を拭った。

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