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変化

夜が、荒野に静かに降りた。

 星はあるのに、どこか遠く、冷たく見える空だった。

 真白は粗末な小屋の前に座り、膝を抱えていた。

 昼間に起きた出来事が、まだ夢のように胸に残っている。

(クレハ……)

 地面にそっと手を伸ばすと、微かな温もりが返ってきた。

 確かにそこに“いる”。

 ――……おきてる

 ――……ねむれない

「私もだよ」

 真白は小さく笑った。

 荒野は、夜になると一層静まり返る。

 兵士たちは離れた詰所で見張りをしているが、ここまでは来ない。

 真白は一人きりのようで、実は一人ではなかった。

「クレハ……どうして、こんなふうになってしまったの?」

 しばらくして、地の奥から重たい声が響く。

 ――……むかし

 ――……ここには、みどりがあった

 ――……けものも、ひとも、いた

 真白は息をのんだ。


 荒野にも、かつては命が満ちていたのだ。

 ――……ひとは、ほりつづけた

 ――……ほしいものだけ、もっていった

 ――……やくそく、まもらなかった


「……約束」


 ――……そう

 ――……もりと、だいちと、かぜの

 ――……いっしょに、いきる、やくそく

 その言葉は、ティーアの森で真白が交わしてきたものと同じだった。


「それで……あなたは?」


 ――……いたかった

 ――……くるしかった

 ――……だから、ちからを、とじた

 真白は胸が締めつけられるのを感じた。

 怒りや呪いではなく、ただ痛みから閉ざされた存在だったのだ。


「……もう、大丈夫だよ」

 真白は囁く。

「あなたの声、ちゃんと聞いたから」

 ――……ほんとう?

「うん。だからね、明日から少しずつでいい。

 一緒に、この土地を休ませよう」


 ――……やすませる?

「うん。無理に実らせない。

 まずは……息をしてもらうの」

 真白は、ティーアの森で学んだことを思い出していた。

 与えるのではなく、取り戻すこと。

 力を押し付けるのではなく、待つこと。

「まず、水の流れを整えよう。

 それから、土の中の古いものを外に出して……

 芽は、急がなくていい」


 クレハの気配が、ゆっくりと広がる。

 ――……おまえは

 ――……おかしい


「よく言われるよ」

 真白は小さく笑った。

 その夜、荒野にわずかな変化が起きた。

 地面のひび割れが、ほんの少しだけ閉じたのだ。

 誰も気づかないほどの、小さな変化だった。

 



 翌朝。

「……おい」

 詰所の兵士が顔をしかめて、地面を見下ろしていた。

「昨日より……土、柔らかくないか?」

「そんなわけ……」

 別の兵士が足で踏む。

 確かに、硬かったはずの地面が、わずかに沈む。

「気のせいだろ」

 そう言いながらも、兵士たちは落ち着かない様子だった。

 さらに昼過ぎ。

 水路を見回っていた兵士が、声を上げる。

「おい、水……少し澄んでないか?」

 濁っていたはずの水に、光が反射していた。

 完全に澄んだわけではない。

 だが、確実に“変わり始めている”。

「……まさか」

 誰かが呟く。

 


 その変化は、王城にも届いていた。

「荒野の水が……改善している?」

 ガルドリア王は眉をひそめる。

「はい。僅かですが、確実に」

 側近が報告書を差し出した。

「馬鹿な。あれほど手を尽くしても駄目だった土地だぞ」

 王はしばし沈黙し、低く言った。

「……あの女を、もっと厳しく監視しろ」

 その命令は、真白の耳には届かない。

 だが、荒野の奥で、クレハがざわめいた。


 ――……におい

 ――……ちかづいてる

「……兵士?」

 ――……ちがう

 ――……もっと、いやな

 真白は胸騒ぎを覚えた。

 何かが、この土地の変化に気づき始めている。

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