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「私は怖いんだ」

 

 早百合は下を向いたまま口にする。

 一度も見せてこなかった弱みを拓哉に向かって弱みを吐く。前に相談した時とは状況と想いが違った。


 心の奥底から相談をしたい、と早百合は思いながら話を続ける。

 

「中学の時私は裏切られた。転校することになった私は、友達と離れることになったの、その時私は泣いた。友達と離れることが苦しくて悲しくて泣いた。泣いたら変わると思っていたから、どうにかなると思っていたから。けどね……現実はもっと残酷だったんだ。その友達は悲しむどころか、私を嫌ってたいんだ」

 

「そうだったんだ……」

 

 なんて言うのが正解なのだろうか。

 友達だと思っていた人が友達ではなかった。悲しむと思っていたのが嘲笑っていた。

 どれだけ辛い想いなのだろうか。信じていた人に裏切られるという行為は心を傷つける。気にしないようにしても気にしてしまう。

 いくら違うことをしても、いくら違うことを考えても、頭の中では心の中では、考えてしまう。思い出してしまう。

 

「それからね、私は人を信じるのが怖くなったんだ。また裏切られてしまったら、もう、立ち直ることができないと思ったから」

 

「だから、歓迎会は行かなかった。怖くて怖くて行けなかった」

 

 早百合は涙を流す。

 

 弱い自分を見つめるように、悩みを外に出すように。


 泣いている早百合を見て心が痛くなる。どうして、優しい人ばかりが損をするんだ。どうして、悪い人ばかりが得をするんだ。こんなのってありなのかよ。


 まだ、高校生なんだぞ。これから先の人生の方が長いんだぞ。それなのに、どうして、こんな酷い事ばかり早百合に背負わすんだ。

 どうして、こんなに辛い想いさせるんだ。

 

「なんていうのが正解か分からない。でも、俺は決してそんなことはしない」

 

 拓哉は口を開く。想いと怒りと悲しみを交えて。

 

「分かってるよ……」

 

「分かってるよ。でも、でも、怖いんだよ」

 

 早百合はただ泣く。


 不安が溢れる。

 頑張ろうとしても一度体験してしまった経験が恐怖を呼ぶ。前に進もうとしても、頭の中にはトラウマだけがフラッシュバックする。

 それら全部が前に進もうとする早百合を止める。

 

「早百合……」

 

「私は頑張ろうとしてるよ。でも、でも、怖いの」

 

 沈黙が流れる。




 

「明日って時間ある?」

 

 俺は訳の分からないことを口にしていた。


 早百合は顔を上げる。

 目は赤くなっていて、たくさん泣いたのが分かる。

 

「どういうこと?」

 

「そのまま、だよ。明日遊びに行かない?」

 

「分からないよ。言っている意味が分からないよ……」

 

「うん。今は分からないと思う。だけど、信じてほしい」

 

「信じるって?」

 

「明日で早百合の人生は大きく変わる。絶対に保証する。だから明日の放課後一緒に遊んでほしい」

 

「……」

 

 早百合は何を言わなかった。

 きっと、今の俺はおかしなことを言っている。だけど、俺は明日、早百合を変える。

 この世界には希望や光が溢れていることを知ってもらう。楽しさや悲しさ、それらが人生だと、知ってもらう。


「分かった……」

 

 早百合は希望に満ちた声で言う。

 きっと、これが人生の分岐点だと信じるように。




 早百合視点。

 訳の分からないことになってしまった。

 一人で暗い道を歩く。

 どうして、明日の放課後に遊ぶことになってしまったのだろう。

 それに「人生が大きく変わる」ってなんなのよ。

 

 それにしても、私は何をしているんだ。人前で泣くなんて私じゃないわ。我慢して一人でため込むのが私なのに。


 拓哉と出会って私は変わったな。

 

 何でか相談してみたくなった。もしかしたら、拓哉ならこの状況をなんとかしてくれると思ってしまった。だから、私は拓哉に頼った。


 でも、私が裏切ったのよね。

 

 けど、拓哉は最後まで私を見捨てやしなかった。

 こんなに優しい人が私なんかと絡んでいても良いのだろうか。正直、分からない。

 私って本当に何がしたいんだろう。

 

 早百合は空を見上げる。

 輝いている星は綺麗で切なさも伴っている。

 

 「楽しみ……」

 

 早百合の声は天高く上る。どこまでも、どこまでも高く。

 星より希望に満ちた光で切なさは伴っていなかった。

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