歓迎会前日
「今日は合同練習をする」
筋肉質な先生が俺たちを見つめながら言う。
「1組と2組で競い合ってもらう」
俺たち1組は2組との合同で練習をしている。
ちなみに今からバレーをしリレーをする。という順番だ。
「それじゃあ、準備開始」
筋肉質な先生がそう言い、準備を始めていく。
拓哉は体育館の端に腰を下ろす。
その隣に成瀬も腰を下ろす。
「バレー勝てるかな?」
成瀬はいつもの声で言う。
「早百合が強いから勝てるよ」
「へー。なんで知ってるの?」
「いや、聞いたから」
「そうなんだ。てか、最近仲が良いよな?」
「まぁ」
「羨ましいな」
成瀬は笑いながら言う。
「俺はお前のイケメンな顔が羨ましいけどな」
「って、もしかして、狙ってるのか?」
「んなわけ」
「おい。そこは、そうだよ、だろ」
成瀬は笑う。そんな成瀬を見て拓哉も笑う。
久しぶりに話した親友はちゃんと親友だな。
そして、試合開始の合図が体育館に鳴り響く。
圧勝で俺たち1組の勝利だった。
バレーを終えたメンバーは近くの壁に腰を下ろす。
圧倒的に差があった。その差は早百合によって生まれていた。
早百合の長所を完全に活かしていた。早百合の身長は周りに比べて高く、それが完全に早百合を優位にさせていた。
凄いな。
早百合の言ってた通りだ。完全に早百合の力で勝っている部分もあった。
「早百合上手いな」
成瀬は足首の体操をしながら言う。
「そうだな。俺らも頑張るか」
「もちのロン」
成瀬はそう言い、体育館の真ん中に向かって走る。
俺もそれを追うように走る。
そして、リレーメンバーが真ん中に集結する。
「これより、練習試合をする」
筋肉質な先生が言い。俺らは位置に着く。
ちなみに、俺がアンカーだ。
昨日の練習によって俺がアンカーになったのだが、不安でしかない。
それに、昨日は加奈からの相談もあって練習があんまりできていない。
だが、言い訳はできないし、するつもりもない。
練習だからって手を抜くつもりはないし。
勝ちにこだわる。
ピーと笛の音が鳴る。それにより、一人目が走り出す。
俺は体操をしながら、目で追う。
やや、俺たちが勝っているがすぐに抜かれそうである。
練習でもあるのにも構わず大きな声援が飛び交う。
体育館は熱狂に包まれる。誰もが走っている人に注目をする。ある人は息を呑む。ある人は好きな人の走っている姿を目に焼き付ける。ある人は興味がなさそうな顔をする。
ある人は緊張で死にそうになっている。
やべー。緊張だ。
てか、俺がアンカー? いやいや、絶対に無理だって。そもそも、バスケって短距離だし。
もちろんアンカーは一周走ることになっている。そのため短距離でない。
拓哉が緊張していく中でリレーは終盤に向って行く。
「ふう」
深いため息を吐く。
目の前に居る成瀬がバトンを貰い走る。綺麗なフォームに目をやられてしまう。
そして、俺は成瀬が居た所に立つ。
「俺ならいける」
小さく呟き自分に言い聞かせる。
その時、走り終わった加奈が拓哉に声をかける。
「拓哉ならいけるよ」
周りに居る人は誰も気付いていなかった。誰もがリレーの行く先に目が離せなかった。だが、加奈は落ち着いてメンバーのことを気にしていた。
「任せろ」
拓哉は覚悟を決める。
俺ならいける。
反対側でバトンが渡る。
その人は勢いよく走る。だがそんなことお構いなしに2組は距離を離していく。
やがて、2組のアンカーにバトンが渡る。
遅れて1組のアンカー拓哉にバトンが渡る。
拓哉は勢いよく走る。絶対に負けない。最後まで諦めない。誰が見ても拓哉は輝いていた。差が縮まっていく。
「拓哉行けー」
声援が上がる。
声援が拓哉の背中を押す。
拓哉は2組のアンカーに並ぶ。
両者譲らない。誰が勝ってもおかしくない。どちらかが負ける。当たり前のことなのに、誰もがどっちとも勝つと思わすほどだった。
白熱する。
声援は天を貫く。
「負けるな」
いろいろな声援が聞こえてくる。
本当にどっちが勝ってもおかしくなかった。だが、ゴールを目の前にしたとき。
行ける。勝てる。
心臓の鼓動は落ち着かない。
目の前にゴールが待っている。
2組のアンカーは最後の力を振り絞り、勢いをつける。
それを、追うように拓哉も力を振り絞ろうとしたとき、どん、とでかい音が体育館に鳴り響く。
拓哉は頭からコケる。
なんとか手でカバーできているが、誰からも見ても痛そうであった。
あ、あれ。
足に力が入らない。
ゴールは目の前なのに。
「拓哉」
成瀬が叫ぶ。
頭を打ったせいか視界がぼやける。
あ、あれ。
拓哉はそのまま倒れる。
「拓哉……」
早百合の声は蝉の鳴き声によってかき消される。