東山加奈の悩み
「今日は歓迎会の種目に出る人を決めます!」
東山加奈は黒板の前に立ち、幸せそうな笑みを浮かべながら言う。
加奈の笑みに男子は魅了されていく。
ここ数日で分かった事なのだが、加奈はクラスのリーダー的な存在である。それに、モテている。
男子だけの話であるが、クラスの四代美女とか言われているらしい。
ちなみに、横に座っている早百合もその一人だ。
まぁ、早百合はそんな話どうでもいいと思っていそうだがな。
「でね! 歓迎会の種目なんだけど、リレーとバレーがあります!」
バレーとリレーか。
一応中学の時バスケをしていたから足には自信があるな。
「それじゃあ、数分後にアンケート取ります!」
加奈はこれでもかって言うほど元気な笑みを浮かべる。
それにより、男子たちはより一層元気になる。
横に座っている早百合は拓哉に方に体を向け、声を出す。
「拓哉はどうするの?」
「うーん。正直どっちでも」
「ふーん。運動はできる方なのかしら?」
「まぁ、中学の時にバスケ部だったから」
「へー。意外だわ」
「そうか?」
「ええ」
早百合による俺の評価はどうなっているんだよ?
「てか、早百合こそどうなんだ?」
「そうね。私はバレーをやるかしら」
「バレーできるのか?」
「ええ。中学の時無双していたわ」
「へー」
「だから、私がバレーをすれば1位は確定ね」
「それは頼もしいな」
「ええ。私がチームを勝たせるわ」
早百合は自信な満ちた声で言う。その声は楽しみという想いも含まれていそうであった。
「じゃあ、リレーは任せろ」
「頼んだわ」
そう言い、早百合は体を前に向ける。
正直、高校に入学してから初めてのイベントで楽しみである。だが、それと同時に不安もある。
何か事件が起きるんじゃないかって、勝手に心配している。
まぁ、大丈夫だろ。
「それじゃあ、バレーがいい人~」
続々と手が上がっていく。もちろん隣に居る早百合も手を上げる。
「よし! じゃあ、次はリレーがいい人~」
数人ほど手が上がっていく。
そして、俺も手を上げる。
「おっけ~! メンバー決定!」
加奈は笑みを浮かべる。ちなみに加奈はリレーに手を上げていた。
こうしてチームが決まり、いよいよ、歓迎会が近づいているの感じる。
翌日の水曜日。歓迎会まで残り2日。
拓哉たちは体育の時間を借り、グランドで練習していた。
「拓哉って速いね」
隣に座っている加奈が言う。
加奈も休憩をしている様子だった。
他のメンバーは各々走っている。そんな中2人だけ休憩しているため目立つ。
だが、そんなことお構いなしに加奈は話し続ける。
「拓哉ってさ、好きな人っている?」
加奈の一言で胸がドキと鳴る、これはあくまで質問だ、だから落ち着くんだ。
「いないかな」
「そうなんだ……」
「拓哉って同じクラスの城川南って知ってる?」
「ああ。知ってるな」
城川南。確かいつも加奈と話しているよな。それに、クラスからの人気も高いとか。
でも、南がどうしたんだ?
「南さんがどうしたの?」
「あのね、私恋愛とかよくわからないんだ」
加奈は悲しそうな顔を浮かべる。
「いや、なんていうかね。恋愛をしてこなかったから分からないんだよね。いつも遊ぶことが第一で恋愛とか勉強とかは二の次だったからさ」
「は、はい」
「でね、昨日南から相談されたんだよね」
「相談?」
「うん。恋愛の相談を」
「はぁ。それで、困っているから俺に相談してきたってこと?」
「そう! 恋愛とか、私にはよくわからないから拓哉に相談することにしたんだ」
「でも、残念だけど俺も恋愛なんてしたことないから分からないよ?」
「大丈夫! 拓哉なら大丈夫だよ!」
「え?」
「だって、私の大丈夫センサーが感知したんだもん。それに、早百合と仲が良いじゃん!」
「なる……ほど」
「だから、拓哉手伝って!?」
加奈の声がグランドに響く。
「待って。その声量をもうちょい小さく」
「あっ! その、ごめん」
走っている人たちが俺たちの方をチラチラと見つめる。
「他に頼れる人は居なかったの?」
「うん……センサーが反応しなかった」
なんだよ、さっきから言っている、センサーって。
「そうなんだ」
「だからね。お願い拓哉。手伝ってほしい」
加奈は頭を下げる。
「えっと……」
俺が恋愛相談に乗る? いや、絶対に無理でしょ。そもそも非モテである俺が恋愛相談に乗るなんて許されるか? うん。許されない。
ここは相談部の出番か? いや、違うな。こんなとこで部活など出したら駄目だ。俺に相談してきているんだ。
「お願いします! 拓哉! 私は親友の南を幸せにしたい。だから私と一緒に南の恋愛を手伝おう」
加奈は声を大にして言う。
「声がでかいよ」
「っは。ごめん」
加奈は謝る。
「分かったよ。手伝う」
「ありがとう拓哉! 流石拓哉」
加奈は嬉しそうに言う。
そんな加奈を見て思う。
加奈の人気な理由はこの明るさだな。
「じゃあ、私と走りに行こうか」
そう言い加奈は立ち上がる。
「え? いや、俺はまだ休憩す――」
加奈は俺の腕を掴み走ろうとする。
「まずは、走るぞ~」
そして加奈は拓哉の腕を掴みながら走る。まるで、元気がある子どものように。お茶目で元気で笑顔な子どものように。
俺は、どうなってしまうんだ? 痛い視線を肌で感じながら走った。