早百合は言う
「私は天使なんかじゃないわ……」
早百合の声が教室に響く。
太陽の光によって、なんとも言えない雰囲気が流れる。
昨日の早百合からは想像できない顔をしていた。確実に元気のない顔だ。
「ごめん、その。悪気があって言った訳じゃないんだ」
「うん……」
「本当にごめん。その、なんか奢るからさ」
俺は自然と口が走っていた。気が付くと早百合は元気な顔になっていた。
「じゃあ、パフェで良いわ」
うん。天使じゃなくて悪魔だな。
「ていうのは嘘で、今度こそ私が奢るわ」
「それは、信じても良いのか?」
「ええ」
「そのために待っているんだから」
確かに、なんで早百合がこの時間まで残っているのか不思議だったが、このために残っていたのか。
「分かった。じゃあ、行こう」
俺たちは鞄を持ち、光輝く教室を出た。
前回きた時より人が多いカフェに俺たちは入り、窓辺に座る。
「イチゴパフェで良いのよね?
」
「ああ、うん」
「じゃあ、私はチョコパフェにしようかしら」
「早百合さんってパフェ好きなの?」
「どうかしら、昨日初めて食べたから」
「へー」
ん?
昨日の食い逃げが初めて食べたパフェだって?
「もしかして、昨日のことに怒っているのかしら?」
「それは、まぁ、そうだな」
「でも、安心して。今日は逃げたりしないから」
なんも保証にならないことを言う。てか、自覚あるならやらないでくれよ。
呼び鈴を鳴らし、いちごパフェとチョコパフェを頼む。
「ねぇ、おにぎり君」
「違う。拓哉だ」
「私に対してどんなイメージがある?」
「それは、食い逃げとか?」
拓哉の足に衝撃が走る。
「あれだ、その、天使とかのイメージがあるな」
「やっぱりね……」
天使という言葉を聞き早百合は沈んでいた。
「私は天使なんかじゃないわ……アイドル的存在でもない。普通の人よ」
洒落た音楽も相まって悲しい雰囲気になって行く。
早百合は視線を下に向ける。
「そうなんだ……」
なんていうか、遠い存在だと思っていた。天使だとか言われることに慣れていると思っていた。
嬉しがっていると思っていた。でも、これらは全部理想でしかなかった。
実際、早百合はそんな人ではなかった。天使という言葉が早百合を苦しめていた。ストレスになっていた。偽りの自分を演じていたんだ。
「私が拓哉君のおにぎりを取ったのはきっと助けを求めていたからだと思う……」
「パフェだって、助けを求めたから誘ったの。でも、怖くていちごパフェを急いで食べて逃げた」
「そして、今日何も私に言及してこなかった。だから、奢ろうと思ったの」
早百合は言葉を探すように話す。その言葉は嘘なんてついてないと分かる話し方だった。
早百合は限界を迎えた。入学してすぐに天使だとかアイドルだとか、そんな印象を植え付けられた。だから、その役割を演じることにした。
それを演じて行く中で限界を迎えたんだ。
そして、俺に助けを求めた。おにぎりといちごパフェを盗んで……
「お待たせいたしました〜」
そう言いながら、テーブルにパフェが並ぶ。
パフェが来るとすぐに早百合は楽しそうな顔を浮かべる。
「とりあえず、いただきましょう」
そう言い、早百合はスプーンでチョコパフェを食べ始める。
「そうだな」
拓哉もスプーンでいちごパフェを食べ始める。
いちごパフェはちょっとだけ苦かった。
加奈視点。
私は見てしまっているのです! 楽しそうに2人がパフェを食べている場面を見てしまっているのです!
もう一度言いますよ! 見てしまっているのです!
「あんた、何してるの?」
加奈が拓哉たちに視線を向けていると、城川南が加奈に声をかける。
「うんん! 大丈夫だよ、南は!」
「どいうこと?」
加奈は南に視線を戻し、ため息を吐いた。
「青春してるな〜」
加奈の一言に南はなんとも言い難い表情を浮かべる。南は呆れながらも、加奈の後ろにいる拓哉たちに目を向ける。
「確かに」
加奈は頼んでいたコーヒーをすする。
「あっま」