心で誓う
「拓哉って好きな人いる?」
夏を知らせる蝉の鳴き声をかき消すように南は言う。
「いないかな……」
拓哉は言葉を探しながら言う。
好きな人か……居ないな。多分できることもないだろうな。だって、俺が好きになったとしても結ばれることなんて絶対にないしな。
「そうなんだ」
南は落ち込む。拓哉は南が落ち込んでいるとは思わず更に口を開く。
「俺は好きになる人はできないと思うな」
拓哉は知っていた。人を想うことは大変であることを。結ばれることはほんの一部の人たちだけだ。だからこそ、大変である。それに、拓哉は昔から分かっていた。中学のあの日から、人を助けると誓った日から人を好きになることはないと知っていた。
「どうして?」
南は戸惑いを隠すように言う。
「なんていうのかな、好きになるのは止めにしたんだ」
拓哉の目は完全に違った。
過去を見ているような目であった。その目を南は黙って見つめる。
「昔、友達に裏切られたんだよね」
「裏切られた?」
「うん。親友だと思ってた人が裏で俺の噂を流したり、俺に関するありもしない噂が書かれた紙をありとあらゆる場所に貼ったりしてたんだ」
「え……」
拓哉から出る言葉に南は困惑する。
現実で起こることはないと思っている内容ばかりが出て来て戸惑うことしかできかった。南は静かに拓哉を見つめる。それしか、できることがないように。
「それから――」
それから俺は早百合に話したように、全部話した。何故友達がこんなことをしたのか。人助けをしていることや、自分のありとあらゆることを南に話した。
南は顔色一つ変えずに真剣に聞いてくれた。
「そうだったんだ」
「うん。この出来事があってから人を好きになるのはやめたよ。どうしてかは分からない……っていうのは嘘かな。本当は好きになっても意味がないと思ってるんだよね」
「どうして?」
南の瞳に移る拓哉の姿は高校生の姿ではなかった。高校生では考えられない考えをしていた。高校生では経験しないような経験をしていた。
「結ばれないと思うから」
拓哉は窓から見えるグランドを眺める。グランドは誰も居ないのに逃げるように拓哉はグランドを見つめ続ける。
「って、俺の話はこれまでにして! 次はどうする?」
拓哉は視線を戻し南を見つめる。
南の瞳に映る自分の姿は思ったより疲れた顔をしていた。ってそんなことはどうでもいいな。
「今日はここまでしようかな……」
背もたれにもたれ南は呟く。
南は顔には出していないが悲しんでいた。どうしてこんな思いを背負っているのだろうと、どうしてこんなに強いのだろうと。そんな思いを隠す。でも、一番悲しんでいる理由は負けることが確定していることだ。
拓哉が私のことを好きになることを期待していた……でも、心では分かっていた。
そもそも、南は拓哉と仲は良くない。話す機会だってない。それに好きになったのは最近のことである。
好きじゃないことくらい分かっていた。だが、人を好きにならないというのは知っていなかったし分かっていなかった。
拓哉は普通の高校生らしく恋をしているのだと思っていた。好きにさせるチャンスだとも思っていた。けど、それら全部違った。
拓哉は人を好きになるのはやめた。それは南にとって悲しいことであり負けでもある。
いくらアピールしても意味がない。どんな言葉を想いを伝えたとしても意味が無い。
それを知ってしまった南は悲しんでいるのだ。
「南?」
拓哉は南の顔を見つめながら言う。
どうしたんだ? 先ほどと比べて元気がない。
「考え事をしてただけだよ!」
南は元気よく笑う。悩みを打つ消すように。
南視点。
「考え事をしてただけだよ!」
私は笑みを零した。きっとバレていないのだろう。この胸の騒めきと苦しさは。
私はどうして好きになったのだろう。いつ好きになったか分からない。分からない、でも、これだけは分かる。私の気持ちは本物だ。
南は心で考える。相手も想いながら。そして誓う。
(私が幸せにしてみせる)
――
これで序章は終わりです! 次の話から一章に突入します! そこでお願いがあります! 面白いと思いましたら評価の方をお願いします! めちゃくちゃモチベに繋がります。
そして、最後にいつも読んでくださっている読者様、本当にありがとうございます。
絶対に読みたいと思えるような作品を書いていきますので応援よろしくお願いします。