南は踏み出す
「そのね、なんていうのかな……練習したいんだよね」
南は照れながら拓哉の隣を歩く。
「練習?」
拓哉も南の隣に並び並んで歩く。
「そう! 来週告白しようと思ってるの! だからその練習をしたいんだ」
なるほど……ってなるのか。
南はなんともない顔をしながら歩く。一方拓哉は考えながら歩いている。
この練習って俺である意味はあるのだろうか。そもそも、加奈にお願いしたらいいんじゃないか? 拓哉は視線を南に向ける。
「俺じゃなきゃダメなのか?」
「うん。あのね、私って男友達いないんだ」
「なるほど」
南は実際そうであった。クラスで話すのいつも女子であるし、極力男子とは関わらないようにしていたのだ。
南は止まり、頭を下げながら呟いた。
「だからさ、お願いします! 師匠」
いつの間に師匠になったんだよ。
拓哉は自然と笑みを零し言う。
「分かったよ。俺で良いなら」
「ほんと?」
南は拓哉の手を握る。顔を近付けまじまじと目を見つめる。
「う、うん。だから、この手を放してくれ」
「あ……ごめんごめん」
「お、おう」
2人の間になんとも言えない雰囲気が流れる。それから2人は学校に向かって歩いた。
無事に授業を終えた放課後。
教室には南と拓哉の2人の姿があった。
「それで、どんな練習をするの?」
拓哉は椅子にもたれながら前に座っている南に言う。
南は、目をパチパチさせながら考える。
「そうだね。まずは告白……かな」
しどろもどろに言う。
南は照れながらも拓哉の目を見つめる。
「告白か……」
一方拓哉は落ち着いていなかった。
やばい、今更だけど緊張してきた。
今俺の目の前に座っている南はクラスで人気な女子でもあるんだぞ? そんな南が俺なんかと一緒に放課後過ごしても良いのだろうか。
「じゃあ、練習するよ?」
南は首を傾げながら問う。
「あ、うん」
拓哉も気合を入れるため背筋を正す。
2人は見つめ合う。真正面から。
「あなたのことが前から好き……」
「ストップ」
拓哉は南の言葉を遮断する。
これ、やばいぞ……
「どうかな?」
南は優しく微笑みながら訊く。
「待ってよ」
拓哉は胸の鼓動を落ち着かせるため深呼吸をする。
「ちゃんとできていると思うよ」
拓哉は南の顔を見つめながら言う。その言葉を聞き南は喜ぶ。
「ほんと?」
「うん」
「やった!」
南は喜ぶ。その喜びはまるで好きな人から褒められたような様子であった。
「きっとうまくいくよ」
拓哉は言葉を繋ぎながら言う。その言葉は応援を含んでいた。成功してほしいと願っている言葉でもあった。
だが、南にとってその言葉は悲しい言葉であった。だが、そんな南の気持ちはわかることはできないのである。
「そうかな~?」
南は少しだけ体を動かす。音楽に乗るように。
「うん。それにさ、南さんて可愛いしさ」
何を言っているんだ。ついつい言葉が出てしまう。俺からこんなことを言われるのは絶対に嫌だろ。
「あ、ごめん」
拓哉は咄嗟に謝る。南は静かに拓哉の顔を眺めていた。そして、南は一歩踏み出す。
「それは、クラスの評価?」
南は意地悪そうな笑みを隠しながら言う。
「えーと」
ここはなんというのが正解なんだ。
拓哉は逃げるように窓に視線を向ける。
「俺の評価かな」
窓に移っている拓哉の顔は完全に照れているようだった。
それをバレないように拓哉は深く横に視線を向ける。
こんなこと言っていいのは絶対イケメンだけだぞ? それに、窓に移ってる俺の顔キモすぎ。
「ふーん」
南はなんとも言わず、ただ相槌を零す。
「拓哉って好きな人いる?」
南は2歩目を踏み出した。