ダーリン
凜との放課後のデート
「また、放課後来てくれ」
生徒会室には二人の姿がある。一人はため息吐きながら資料を受け取る拓哉と楽しそうに喋っている凜の姿があった。
「本当に……放課後に遊ぶんですか?」
拓哉は恐る恐る訊くが、凜は「うん」と言いながら頷いた。
本当なのかよ。
凜は心配するなと言わんばかりな顔をし、呟いた。
「そう心配するな。なんせ合格祝いだ」
合格祝いってこういうのなのか? 分からないが、まぁ、楽しむか。
「そうですね。楽しみにしときます」
「そうだ、それでいい」
凜は机に腰を下ろし。リボンを外し。だらしない恰好をする。
「あのー」
「ああ。大丈夫だ。まだ授業は始まってはいないしな」
そう言い、リボンを机に置く。
隙間から肌着が見えてしまう。
それを見ないように俺は視線を窓に向ける。
「今日は楽しみだな」
凜はリボンをくるくると指で回し、楽しそうな顔をする。
いつもの凜先輩とは違って、今日の凜先輩はなんていうか、女子高校生の雰囲気がする。
楽しいことが好きで、楽しそうにしている。
しかし、昨日の凜先輩は凜とした姿で真面目で、憧れる存在だった。
やっぱり、疲れるのだろうか。
本当は楽しいことをしたいが、生徒会長という座が邪魔をしている。憧れる存在にならなきゃいけない、ルールを守らないといけない。
きっと、いや、絶対疲れるな。
拓哉はなんとも言えない表情で凜を見つめる。
そして、生徒会室にはなんとも言えない雰囲気が流れる。
放課後。
拓哉は校門前で凜を待っていた。
てか、どこにいくんだろう。
楽しみと言えば楽しみであるが、不安もある。俺なんかが隣に歩いて良いのだろうかと思ってしまう。
てか、なんでデートすることになっているんだ?
俺は昨日の出来事を思い出す。その、一方で時間はどんどん過ぎて行く。
待ち合わせ時間から随分と過ぎていた。
凜先輩って遅刻するような人ではないよな……
拓哉はスマホで時間を確認する。時刻は17時15分。待ち合わせの時間から15分遅れている。
きっと生徒会長の仕事があって忙しいのだろう。
帰るか……いや、探してみるか。
そう思いながら拓哉は再び学校に向かって歩く。
校内に入ってすぐ俺は生徒会室に向かっている。生徒会室に行ったのは、やはりビンゴだったな。
中から凜先輩らしき声が聞こえてくる。
それに、男性らしき声も。
俺はゆっくりとドアを開ける。隙間から見える生徒会室には美男子と凜先輩が居た。美男子は凜に対して何かを言っているようだった。
微かに声が聞こえてくる。
「凛。今日こそ俺と遊んでくれないな!?」
美男子はいかにもというセリフを言う。声も爽やかで本当に美男子である。だが、一方の凛先輩に関しては呆れた顔になっていた。
「今日は用事があるので遠慮します」
凛は美男子に向かって言う。しかし、美男子は一歩も引く様子はない。ましてや、もう一歩踏み出してきていた。
「俺とのデートより大切なことなのかい?」
「はい」
凛は即答する。
美男子は笑みを浮かべる。大丈夫だ、気にするな、と言わんばかりな表情を。
この美男子の相手をしていたから凛先輩は来なかったのか? きっと、そうだな。
見た感じ凛先輩は明らかに困っている様子だし、断っているのに話は進んでいなそうだし。この、美男子のせいだな。
さて、どうするか……。
耳を澄ませながら考える。この状況を覆すことができる内容を。
「てか、俺との婚約の話はどうなったのかな?」
婚約……婚約!?
「ですから、私には彼氏がいますから無理です」
「それってさ、本当なの? 今まで凛の彼氏とか見たことないしさ。嘘でしょ」
「それは……」
凛は視線を泳がす。
まさか、この状況ってあれをやるしかないのか。
拓哉はドアの前で考える。
え……本当にやるしかないのか。
拓哉は立ち上がりドアを開ける。
「凛〜! 帰……る……って誰だよそいつ」
拓哉は明らかに「彼氏」を演じる。
こんな、演技をする日が来るなんて。
入ってきた拓哉に凛は驚く。そして、やはり生徒会長というべきか凛は拓哉の演技に気付く。
「すまんな〜! ダーリン」
凛は笑みを零し、拓哉に向かってダーリンと言う。
ダーリンと言う言葉に美男子は驚く。
「ったく……帰るぞ凛」
拓哉は演じる。それに、乗っかり凛も演じる。
「そうだな。てことで私はダーリンと帰るよ」
凛は鞄を持ち拓哉のところに向かう。
その時美男子は涙を浮かべる。あまりの急展開に美男子は泣いていたのだ。
「振られたのか。こんな、ダサい男に……」
そう言い美男子は生徒会室を出る。
美男子の泣き声が廊下に響く。美男子にとっての恋は見事に散ってしまったのだ。
そして、生徒会室に残った拓哉と凛は気難しい顔を浮かべていた。
「凛先輩って大変ですね」
きっと凛先輩はモテるだろう。常に生徒会長というトップに立ち、生徒の代表という立場でもある。憧れる存在でもあり、目につく機会が多い存在でもある。だから、告白の回数も多いはずだ。それに、凛先輩は容姿端麗だから。
「大変だ。だがもう安心だろうな」
凛は拓哉を見つめる。
「どうしてですか?」
「だって、私にはダーリンが居るからさ」
「へ?」
おかしな声が出てしまう。それに、あれは演技だって凛先輩だって分かっているだろう。それなのにどうして、話が続いているんだ?
「気にするな!」
凛は意地悪そうな浮かべる。そして、口癖のように呟いた。
「合格祝いだ」