花咲凜
ある部室には2人の姿がある。1人はペンを走らし、1人はチョコを食べていた。
「なぁ、どうして俺が部長になってるんだ?」
俺は呆れまじりの声で早百合に問う。だが、そんなことお構いなしに早百合は美味しそうにチョコを食べる。
コイツ呑気だな。
あの日から早百合は変わった。もちろん、全部変わったわけじゃない。
俺以外の人には天使を装ってはいる、だけど、俺といる時はありのままでいるようになった。それに、冗談を言うようにもなったし、よく笑うようになった。
けど、まだ不安は消えていないのだろう。人は早々、簡単に変わらない。だから、人生がある。長い人生でいくつも成長をしていき変わっていく。それが人生の意味だろうと思っている。
「私は部長とは程遠い存在よ」
チョコを開け口に入れる。
「どういうこと?」
「そういうことよ……」
美味しそうにチョコ食べている早百合を拓哉は見つめる。
やがて、目が合う。
「何よ!?」
「そのチョコって俺が持ってきたやつなだよな!?」
「そうだわ……」
俺が朝買ってきたチョコは見事に消えていた。ちなみに、一個も食べていない。
「いや……うん。美味しい?」
「ええ。とても」
そして、早百合はラストチョコを口に運んだ。
「てか、俺が部長でいいのか?」
俺は思い出したかのように言う。
そもそも、早百合が作った部活なのになんで俺が部長をやらないといけないんだよ。
それに、明日部長の集まりあるし。
「ええ」
早百合は俺を見つめる。
「わかったよ。貸し1だからな?」
「ええ。それでいいわ」
早百合は優しく微笑んだ。
翌日放課後。
「皆さん、お集まりいただきありがとうございます」
生徒会長――花咲凛が部活動の部長に挨拶をする。部長たちはそれぞれ頭を下げる。
「今日集まってもらったのは話があるからです」
凜は部長たちの顔を伺いながら言う。
挨拶だけじゃないのか? 不思議に思いながら話を聞く。
「由比ガ浜高校の部活数は大変多くあります。ですので――減らします」
減らす? 部活を減らすってことなのか? そもそも部活を減らすってどういうことだよ。
考えてみればそうだな、俺が通っている由比ガ浜高校は部活数が多い。だが、減らすなんて聞いたことがないぞ?
「ですので、まずはそれをお伝えします」
各々の部長たちは顔を歪める。それもそうだろう、だって言っている意味がまだ理解できない。
「あのー質問してもよろしでしょうか?」
茶胴部と書かれた紙の前に座っている人が声をあげる。
「どうぞ」
「えーと、その、減らすって言うのは廃部になるっていうことなんですよね?」
「はい」
何の変哲もない声で凜は応える。
「はぁ、ありがとうございます」
廃部。
つまり、俺たち部長の中から廃部になる部活がでるということだ。
なるほど、ピンチだ。
そもそも、俺と早百合の二名しかい居ないし、相談部とう訳の分からない部活でもある。
真っ先に廃部になるとしたら俺たちの部活だろう。
「それと、みなさまには今ここで、廃部になる部活を決めてもらいます」
数十名の部長たちは顔を歪める。
今ここで廃部になる部活が決める? いやいや、急すぎないか? 流石に無理がある。
部長たちは顔を合わせる。誰もが俺では私ではないと言っているような顔をする。
「すみません。提案してもよろしい?」
文芸部と書かれた紙の前に立っている女子が声をあげる。
声と見た目からしてとてもお姫様という、言葉が似合いそうな人である。
その女子は笑みを浮かべながら俺の方を見る。
「部員の少ない部活が廃部になるべきでは?」
明らかに俺の方を見つめながら言う。
まぁ、普通に考えればこうなるのは想像できる。だが、俺も譲る気はない。
「そうですね」
凜は頷き部長たちの顔を眺める。
「相談部の部長、拓哉さん」
凜は俺の名を言う。
「はい」
俺は立ち上がり凜先輩の顔を見つめる。
「廃部にしても?」
凜は俺の顔を見つめながら言う。
「いえ。無理です」
「では、部員を4名にできますか?」
「保証はないですが、できます」
「ほぉ。ではお座りください」
「失礼します」
不毛な雰囲気が流れ始める。
そもそも、何故部活を減らす必要があるのか。学校にとって部活は利益になる。人気になる部分でもあるはずだ、それなのにどうして減らすんだ。
そもそも、何故部長だけで決めようとしている。
拓哉は考える……
待てよ、昨日早百合が言っていたな。
『この学校の生徒会は特殊なのよ。いつ来るか分からないけど、テストがあるみたいよ。だがら、生徒会になれるのはほんの一部の生徒しかいない』
これって、テストじゃないか?