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 笑みを零す

 放課後。


 早百合と拓哉、以外はもう教室を出ていた。

 2人しか居ない教室に光が差し込む。光は教室を照らす。

「準備できた?」

 拓哉は早百合に向かって言う。

 早百合は「うん」と頷く。

 それから、2人は鞄を持ち、教室を出た。




 早百合と並んで廊下を歩く。


 先ほどから早百合はそわそわした様子で拓哉を見つめる。

 

「一応どこに行くか訊いても?」

 

「悩んだんだけど、いつものカフェに行こうと思っている」

 

「あのカフェに?」

 

「うん。あの食い逃げがあったカフェに」

 

 俺は冗談を交える。

 それを聞いた早百合はなんとも言えない表情をする。

 あのカフェは二回しか来ていないがいろんな思いを紡いだ。あの場所にカフェが無かったらこうして早百合と話してはいなかっただろう。

 だから、あのカフェは大切な場所でもある。

 そして、早百合の人生を変える場所でもある。

 

「人生が変わるの?」

 

「変わるかな……確定することはできないけど、それなりに変わると思う」

 

「カフェで?」

 

 早百合は質問を続ける。

 それも、そうだよな。

 

 人生が変わるなんて言ってしまったのに、まさかカフェに向かっているって知って焦っているはずだ。

 

「うん」

 

 俺は強く言う。

 

 早百合は「そう」とだけ言い視線を前に向ける。

 

 早百合は不安になりながらも歩く。拓哉ならなんとかしてくれると思いながら。




 いつものカフェに着き、俺らは窓辺に座る。

 

「早百合は何か頼む?」

 

「そうね、カフェラテを頼もうかしら」

 

「おけ。じゃあ、俺もカフェラテを頼もうかな」

 

 俺たちは頼むものを決め、呼び鈴を鳴らしカフェラテを頼む。

 

 沈黙が流れる。

 

 拓哉は覚悟を決める。

 

 俺はスマホを触り、1枚の写真を早百合に見せる。


「なに?」

 

 早百合は拓哉のスマホを受け取る。


「え」

 

 早百合の声がカフェを包んだ。




 早百合視点。

 拓哉が私に向かってスマホを差し出してくる。

 私はスマホを受け取る。


「え?」


 写真には1枚の紙が写っていた。

 

 ・拓哉に裏切られた。

 ・拓哉は騙している。

 ・拓哉は酷い人だ。

 ・拓哉は悪だ。

 ・拓哉は性格が悪い。

 ・拓哉は陽菜が好きだ。

 ・拓哉は人を利用している。



 紙には拓哉に関することばかりが書かれていた。

 それを見てわかる。これは異常じゃないと。

 恨みつらみが書かれている。

 

「これは?」

 

 拓哉は目を泳がす。

 明らかに悲しんでいる。でも、拓哉は逃げようとしなかった。

 私の目を見つめて言う。

 

「中学の時、机の中に入ってた」

 

「え?」

 

 思わず声が出る。

 

「なんていうのかな、俺もっていうのはおかしいけど、友達に裏切られたんだよね」

 

 拓哉は偽りの笑みを零す。

 拓哉が私と同じ?

 

「ある日、机にこれが入っていて驚いたんだ。根の葉もないことが書き綴られていて驚いた。でね、これの噂が広まったんだよ」

 

「噂?」

 

「うん。この紙はいろんなとこに貼られた……」

 

「え」

 

 言葉が出てこない。

 言っている意味が理解できない、この紙が貼られた?

 理解しようとしても理解できない。

 だって、こんなことってあり得るの……

 

「この紙が貼られてからは、俺の印象は大きく変わったよ。友達だと思っていた人が俺の見る目を変えた。態度が変わった」

 

 拓哉は言葉を探すように言う。

 

 言葉には重さと悲しさがあった。

 

「それで、大事になった。そして、ある日犯人が見つかった。でも、驚いたよ。犯人は俺の友達だった」

 

 友達だった……

 衝撃な展開に頭の中が白くなる。

 

 拓哉の友達だった人がこの紙を貼った。そして、拓哉の印象を変えた。拓哉を傷つけた。友達が……

 

「当時は驚いたし、たくさん泣いたよ。訳が分からなかった。理解しようとしても理解できない。でね、友達に訊いたんだよ「どうしてそんなことをしたか?」ってそしたら、「人に優しくしているのが気持ち悪いし、自分が世界の中心だと思い込んでいるのが気持ち悪いって」って言われたんだ」

 

 言葉でない。見つからない。なんて言うのが正解か分からない。

 私はただ拓哉を見つめることしかできなかった。

 

「当時は傷ついたよ。でも、ここで俺がやってきたことを辞めたら駄目じゃないかって。だから、俺は決めたんだ、世界中に困っている人が居たら、助けを求めている人が居たら俺は絶対に助けるって」

 

 拓哉は私を見つめる。その目は希望に満ちていた。やる気に満ちていた。誰かを救いたい、助けたいと満ちていた。


 私は何故か泣いていた。


 

 どうして傷ついても前に進み続けるのだろう。傷つくと分かっていて何故みんなを助けようとするのだろう。

 どうして、こんなに優しいのだろう。どうして、こんなに頑張れるのだろう。

 私は、ここまで頑張れるのだろうか。

 拓哉みたいにできるのだろうか。

 

 一度傷ついてしまった心はもう一度やり直せることができるのだろうか。もう一度人を信じることができるのだろうか。

 うんん。できるんだ。

 

 だって、私より拓哉の方が傷ついて、泣いて、悲しんでいる。それなのに、私より頑張っている。誰かに希望を与えよとしている。

 それなに、私は何もしようとしていた。

 

 変われるんだ。違う、変わるしかないんだ。

 私は泣く。

 

 悩みが消えて行くように。

 目の前に居る拓哉が私を変えてくれる。変えようとしてくれる。信じさせてくれる。信じようとしてくれる。手をさし伸ばしてくれる。

 





 拓哉視点。

 

 目の前に居る早百合は泣いていた。

 俺は早百合の気持ちが理解できる。いつも思い出してしまう、あの日の記憶が離れてくれない。

 いくら頑張っても、いくら違うことをしても思い出す。切っても切れな存在になっている。

 だけど、もし、それより楽しい記憶ができたとしたら、きっと忘れられる。

 だから、俺は早百合とともに歩みたいと思ってしまう。助けたいと思ってしまう。

 俺はイケメンでもない、でも、そんなのは関係ない。誰かを救いたいと思う気持ちが大切で一番の存在なる。

 似たような顔を持つ早百合を助けたい。

 

「早百合。俺を信じてくれ」

 

 拓哉の声は強く悲しい声で言う。

 早百合は泣きながら拓哉を見つめる。

 

「馬鹿……」

 

 早百合は泣きながら言う。その言葉は可愛い言葉だった。

 

「信じるしか、ないじゃん……」

 

 早百合は俺を見つめる。涙が頬を流れていく。

 早百合は近くにあるティッシュを取り、涙を拭く。

 数分後落ち着いたら俺たちはカフェラテを飲む。

 

「一つ聞いてもいい?」

 

 早百合は問う。

 

「うん」

 

「成瀬は大丈夫だったの?」

 

「ああ。成瀬は大丈夫だったよ。俺を最初から最後まで信じてた」

 

 実際成瀬は怒っていた。ありもしない噂に怒っていたし俺を庇っていた。本当にありがたい。もし成瀬が居なかったら人を信じることをしなかっただろう。それに、今の俺はいなかったと思う。

 

「そうだったんだ」

 

「もう1個質問しても?」

 

「いいけど」

 

「今、私の顔になんて書いてある?」

 

 早百合は自信に満ちた顔で拓哉を見つめる。

 

「えーと」

 

 早百合の急な質問に戸惑う。

 今この時にこんなことを訊くのか。

 

「分からない」

 

「えー。昨日は分かったのに?」

 

「あれは、冗談でもある」

 

「そうなんだ。答えは―――」

 

「ありがとね」

 

 すると、早百合は笑みを零す。

 今まで笑みを零すことが無かった早百合が笑みを浮かべた。

 綺麗で可愛いと思ってしまう。

 そして、思うし分かってしまう。

 早百合は笑っている方が良いと。

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