テスト勉強
放課後の教室。
机を4つくっつけて、なんとなく自然にできあがった小さな島。
放課後、仲のいいふたりが「一緒に勉強して帰ろうよ」って言い合ってて、
なんとなくその流れで、私もついていくと佐藤くんもいた。
このメンバーで勉強するのははじめて。
佐藤くんとは、クラスで話すことはあるけど、こんなふうに放課後を一緒に過ごすのは、少しだけ特別な気がした。
しっかり者の2人はもう集中モードに入っていて、
私と佐藤くんはそれを横目に、ノートの同じページで手が止まっていた。
「ここ、たぶん公式覚えてればいけると思うけど……」
「うん……でも、あれ……どっちのだったっけ……」
となりで佐藤くんが小声でつぶやく。
ゆっくりした口調で、落ち着いた声。
少しかすれていて、なんとなく眠たそうなトーンなのに、不思議と安心する。
私は少しだけ勇気を出して、
「それ、たぶんこっちのやつだと思う」と言ってみる。
佐藤くんは、ちらっとこっちを見て、ふわっと笑った。
「ありがと」
その横で、もう一人の子がバシバシ問題を解いていて、
もう一人の子が「次のページやった?」と声をかけてくる。
私は「あ、ちょっと待って」と慌ててページをめくるけど、
間違えて英語のノートを出しかけて、手が止まる。
「あっ……ちがった」
小さくつぶやいたつもりだったのに、佐藤くんがそれを聞いて、
くすっと笑った。
目を伏せながら笑うその仕草と声が思いのほか優しくて、私の心臓がひとつ跳ねた。
「さっきのとこ、もう1回見せて」
「うん」
ここ……って、こうなるんだよね?」
ノートを覗き込みながら佐藤くんが言う。
「合ってると思う。たぶん、これが……」
説明しながらも、私はどこかで思ってる。
(やばい、かわいい…近い…)
表情には出さずに、できるだけ冷静な声で話す。
「……あ」
少しして、佐藤くんが短くつぶやいた。
顔を上げると、シャープペンの芯が折れていた。
「あ……貸す?」
私はペン立てから替え芯を取り出して、そっと彼の机の端に置く。
「ありがと」
佐藤くんは、少し照れたように目を細めて、またふわっと笑った。
心の中で何度も「可愛い」とつぶやきたくなるけれど、表情には出さずに、ただ「うん」とだけ返す。
それだけで精一杯だった。
そのあとも勉強は続いて、私たち2人だけ、ちょっとペースが遅かった。
集中してるふりをして、何度も同じ問題を見返すたび、少しだけ佐藤くんと目が合って、そのたびに無意識に小さく笑いあう。
しばらく勉強を続けているうちに、外の光が少しずつ薄れてきて、教室の中がいつの間にか夕方の柔らかい光に包まれていた。
「また明日ね」と手を振ると、佐藤くんも「うん、またね」と軽く笑った後、にこっと口角をあげて優しく笑った。
その瞬間、胸の奥がふわっと温かくなって、思わず心の中で「可愛い……」って呟いてしまう。あんな風に笑われると、もう、可愛すぎてどうしようもない。
彼の笑顔に、すっかり心を持っていかれた私だけど、表情には出さずにただ笑顔で頷く。
放課後の教室を後にする時、ほんの少しだけ、彼との距離が縮まったような気がして、胸がいっぱいになった。




