調理実習
窓際の席に座る佐藤くんはぽかぽかした光に包まれて、少し眩しそうに目を細めている。
その顔が、なんとも言えず、いい。
「……佐藤くん、日向ぼっこでもしてるの?」
思わず声をかけたら、ふわっとした表情で「うん……眠くなるね」って返ってきた。
可愛い。
佐藤くんは見た目がちょっと大人びてて、制服も似合う。
スラッとしてて、優しげな雰囲気と整った顔立ち、女の子たちからもよく声をかけられてる。
でも中身はわりとポワポワしていて、今日も朝からシャツのボタンを掛け違えてたし、
さっきも消しゴムを落として机の下で軽く迷子になってた。
黒板に書かれた調理実習の班分けの名前を見つけた瞬間、
私はほんの少しだけ、うれしくなった。
顔の筋肉が勝手に動こうとするのを慌てて抑える。
何でもない顔をして、教科書を開いてるふりをしてるけどうっかり笑ってしまいそうで、唇をきゅっと結ぶ。
誰にもバレないように、うれしい気持ちを胸の奥でぎゅっと抱きしめた。
調理実習当日、
佐藤くんはというと、やっぱり…予想通り、ひもをねじらせながら、モタモタとエプロンを着けていた。
「え、これ後ろでどうやるんだっけ…?」
「それ、ねじれてるよ」
「あ、ほんとだ…」
「……ここ、こう?」
「そうそう、そこ通して」
後ろから手を貸す子に「ありがと〜」と笑ってる佐藤くん。もう、それだけで尊い。
包丁を手にしたとたん動きが妙に慎重になって、
切るたびにちょっとずつ手が止まる。
「佐藤くん、それもう少し大きく切っても大丈夫だよ」
「え、あっ、そっか……細かくしすぎたかも」
顔を赤くして、照れ笑い。
可愛い。
私は内心、「そのままでいい、そのままでいて……!」と、もはや祈るような気持ちで彼を見ていた。
「玉ねぎ、皮むいたら白くなるのきれいじゃない?」
ふいに佐藤くんが言った。
彼の目線の先には、つるんとした玉ねぎ。
手のひらでころころと転がしている。
「たしかに」
と、私は相槌を打つ。
それだけなのに、少しだけ得をしたような気持ちになる。
彼はしゃがんだ姿勢でごそごそと材料を取り出して、
何度も立ち上がったり、またしゃがんだりしている。
そのたびに、エプロンのひもがふわっと揺れて、
肩からずり落ちそうになっているのを、器用に片手で戻す。
「佐藤くん、それ焦げてない..?」
「あっ、ほんとだ!やばい…」
「大丈夫だよ。こっちで代わりにするね」
「ごめん…助かる」
「それ混ぜてもらってもいい..?」
「うん!」
満面の笑みで返事をして、でも混ぜるときに卵を半分こぼして、また謝ってる。
なんだかんだで料理は完成して、試食の時間になる。
佐藤くんが作った野菜炒めはちょっと焦げ目が強いけど、香ばしいにおいが食欲をそそる。
「美味しいね」
「ほんと?味見してないんだけど」
「なんとなく、佐藤くんが作ったって感じ」
「え、それ褒めてる?」
「うん。褒めてる」
素直に言葉が出た。
あんまり意識されないまま、彼は今日もゆるやかに過ごしていて、
わたしはまた一つ、彼の“らしさ”をひとつ覚えた気がする。
「やっぱり、包丁よりおたま派だなあ、俺」
そう言って笑う佐藤くんに、私は心の中でそっと思う。
ああ、今日も可愛かった。




