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いらない存在だった私を必要と言ってくれるのは誰ですか?  作者: 水無月 あん


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7/9

覚悟

「薬を盛られた僕は、すぐに気持ちが悪くなって、沢山の人の前で倒れたんだ。結局、公爵令嬢が薬をもったことがばれて、取り調べをうけた。どうやら、強力な媚薬があると聞き、自分の侍女を使いにだして、怪しげな人間から買ったらしい。結局、媚薬じゃなかったみたいなんだけど、かわりに不思議な影響がでたんだ。医師にみてもらっても、何を飲まされたのかわからないんだって」


「えっ……、それって大丈夫なの!?」


心配でシャルルの顔をのぞきこんだ。


「うん、体調に問題はないんだ。でも、困ったことになってね。キャロ、僕の頭を見ててくれる?」


「頭……?」


わけがわからないまま、シャルルの頭を見る。

シャルルは帽子をかぶっている。


私を見つめたまま、シャルルはゆっくり帽子をぬいだ


美しい金色の髪がこぼれて、思わず目を奪われる。

小さい頃は、確かくりくりしていたけれど、今はゆるやかにウエーブしていて、端正な顔立ちに良く似合っていた。


その金色の髪の間から、茶色い毛のようなものが見えている……。

というか、どう見ても、動物の耳にしか見えないんだけど……。


「シャルル、もしかして、その頭から見えているのは耳かしら……?」


そう言った瞬間、シャルルがふわりと笑った。


「やっぱり、キャロだ。反応が落ち着いてる。先日、この耳を見せた奴には、悲鳴をあげられたんだけどね」


「ううん、私も驚いてるよ……。というか、驚きすぎて、逆に冷静に観察できるというか……。つまり、その薬の影響がこの耳だったの……?」


「そう、薬を飲んで倒れたあと、耳だけが獣化してしまったんだ。この国もだけど、僕の国でも獣人とかはいないから、耳だけ獣化するなんて自分でもびっくりしたんだけどね。医師も、こんな症状、見たことがないから、この耳が、いつ元にもどるのか、ずっとこのままなのか、わからないんだって。一応、今みたいに外出する時は帽子をかぶっているけど、夜会で倒れたから、噂になってしまったんだ。騒ぎになるから、うかうか人前にでられなくて。耳が治るまで、王都から離れた田舎の屋敷でひとりで暮らすことにした。いつ治るか、ずっと治らないかわからないけれど、幸い、父を手伝っているときに、僕が発案した事業がうまくいってるから、生活は大丈夫。そこで、キャロにお願いなんだけど、僕と一緒に来てくれないかな」


「え? それってどういう……?」


「この先、ずっと田舎の屋敷にこもることになって、ずっと誰とも会えなくても、僕はキャロさえいてくれたら満足だから。キャロ、あのクソ婚約者より、僕のほうがずっとキャロを必要としている。キャロ、この家も、親も、婚約者も全部捨てて、僕のところに来てくれないか?」


シャルルが私を必要としている……。

だとしたら、答えはもう決まっている。


だって、シャルルはだれよりも何よりも大切だから。

私自身を見つけてくれた恩人だもの。


「うん。シャルルと一緒に行く」


はっきりと口にだした途端、シャルルが破顔した。


「ありがとう、キャロ!」


「いえ、こっちこそありがとう、シャルル。私がこの状況から逃げる言い訳をくれたんでしょ? シャルルが、人の目を気にして、ひきこもるなんてしそうにないもの」


私の言葉に、シャルルがククッと笑った。


「え、僕だって気にするよ? まあ、本音を言えば、この耳、ちょっとおもしろいとは思ってるんだけどね。ねえ、キャロは、僕の耳がずっとこのままだと嫌?」


私は思いっきり首を横にふった。


「耳がどんなでも、シャルルはシャルルだもの。それに、その耳もモフモフしてて、すごくかわいい」


「キャロならそう言ってくれると思った! ありがとう、キャロ」


嬉しそうに微笑んだシャルル。

その拍子に、耳がピコピコと動いた。


その様子に、思わず、笑いがこみあげた。

そのまま、はじかれるように声をだして笑い出した私。


笑うたびに、自分にまきついていた鎖が、ぶちぶちと音をたてて切れていく。

こんなに笑ったのは、生まれてはじめて。


そして、やっと笑いがおさまった私は、自分でも驚くほど心も体も軽くなっていた。


もう覚悟が決まった。

すぐにでも、自分の両親、アルゴ様に自分の気持ちを伝え、謝罪しないと……。


「僕も同席するよ」

と、シャルル。


「え、シャルルはこないほうがいいわよ? もし来たら、嫌なことを言われると思うし。私は大丈夫だから」


「冷たいなあ、キャロ。僕のために来てくれるのに、キャロだけに謝りに行かせるわけないだろう? というか、謝るのはどっちなんだろうね? キャロ、楽しみにしてて」

と、意味ありげに笑ったシャルル。


美しいブルーの瞳が鋭く光った。



 

 ◇ ◇ ◇ ◇ ◇




数日後。


うちの屋敷に、自分の両親とアルゴ様、アルゴ様のお母様が集まった。

そこで、私は、シャルルを隣国の伯爵家のご子息で幼馴染と紹介した。


いぶかしげな視線のなか、シャルルは涼しい顔で私の隣の席に座った。


私は立ち上がると、いきなり、本題に入った。


「私はアルゴ様とは結婚できません。この子爵家もつぎません。申し訳ありません」


「はああ、何を言ってるんだ!? キャロリーヌ! 逃がすわけないって言っただろう!?」


外面の顔をすてて、すごい形相で叫んだアルゴ様。


お父様がアルゴ様に鋭い視線を向けた。


「ちょっと、急に何を言いだすの、キャロリーヌさん!? アルゴとの結婚式は一か月後なのよ!」

と、アルゴ様のお母様であるミルトン侯爵夫人が声を荒げる。


「はい。でも、自分の心に嘘はつけないんです。アルゴ様と結婚はできません。本当に申し訳ありません」


私は思いっきり頭を下げた。


「キャロリーヌ! 一体、どうしたの? アルゴ様は素晴らしい方じゃない? それに、この子爵家をつがないだなんて、どういうこと? あなたは私のひとりむすめで、あなたしか後継ぎはいないのよ? つがないなんて、できるわけないのは、わかっているでしょう? あ、そうだわ……。結婚が近づいてきて不安になったのね、キャロリーヌ。それでこんなことを言いだしたのね? それなら、何も心配することはないわ。結婚しても、今までどおり、あなたはこの屋敷に住むのだし、アルゴ様はおだやかで優しい方だし、なにより、私もそばにいるのだから。アルゴ様と三人で仲良くやっていけるわ、キャロリーヌ」


お母様が私をなだめるように、見せかけだけの優しい笑顔を私にむけた。


三人で仲良くやっていける……?

一体、何を言っているんだろう……?


私の声を聞こうともしないし、私の心を知ろうともしないお母様。

この人は、血のつながった母親だけれど、私自身になんの興味もないんだと改めて思い知らされた。


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