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いらない存在だった私を必要と言ってくれるのは誰ですか?  作者: 水無月 あん


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6/9

つけこむ

「なるほどね……。調べたとおりだ」


私の話を聞き終わった後、ぼそっとつぶやいたシャルル。


「え……? 調べた?」


思わず、聞き返した。


「あ、ううん。想像したとおりだ、の間違いだよ、キャロ」


シャルルがにっこりと微笑んだ。


「あ、そうか……。シャルルにはお見通しだったんだね、私の不甲斐なさが。なんで、アルゴ様がああなったのか、理由はわからないけれど、感情が欠落している私が何か気に障ることをして怒らせたのが原因だと思う……」


「はあ!? キャロ、何言ってるの!? キャロが不甲斐ないなんて、そんなこと、あるはずないよ! 悪いのは、全部キャロのまわりだよ? ちっとも変わっていないクズの両親とか、そのクソ婚約者とかね」


「ええと、シャルル……? なんか、口が悪くなった……?」


「あ、ごめんね、キャロ。怖かった?」


「ううん。シャルルなら、どんな言葉をいっても、全然怖くはないんだけど。ただ、意外だなあって思って……。シャルルって、天真爛漫だけど、お行儀がよかったから、立派なお家で愛情をもって育てられたんだなあと思ってて。だから、ちょっと、びっくりしただけ」


「ああ、家のことは、ある意味、あたってる。キャロと会った時、僕、ヒョロヒョロだったろ? キャロを守るためには物理的にも強くなりたくて、剣の腕を上品じゃない環境で、身につけたりしてたからね。口の悪い奴らに感化されたのかも」


「え? 私を守るために……!?」


驚いて、シャルルを見ると、にまっと笑った。


「見る、僕の筋肉? 細く見えるけど、結構ついてるよ?」


「……は? いや、ちょっと、シャルル、何言ってるの!? 見ないよ!」


顔が一気に熱くなった。


ぷっとふきだしたシャルル。


「真っ赤になって、かわいい、キャロ」


「な……かわいいって……何言ってるの、シャルル!?」


いつもは動いていないように静まりかえっている心臓が、急にドクドクと音を立てて動きはじめた。

そんな私を笑いながら見ていたシャルルが、急に真顔になった。


「キャロ。君は自分をわかってない。さっき、感情が欠落してるって言ったよね? 欠落してるどころか、僕と話しているキャロは感情豊かだよ。ずっと押し殺して、我慢してきただけだ。ねえ、キャロ。このまま、この家に残って、あんな奴と結婚して、感情を押し殺したまま生きていきたい?」


広い海のようなブルーの瞳が私を射貫く。

この瞳を前にして嘘はつけない。


「……そんな生き方……したくない……」


「キャロの本当にしたいことは何?」


「……本……。大好きな本に関わりたい……」


「本かあ、いいね! キャロは本が好きだもんね。うちの国には、図書館っていう本が所蔵されている場所があるんだ。そこで働いてみるのはどう? 実は、僕の叔母が、貴族、平民、関係なく、誰でも借りられる小さな図書館を作ったんだけど、本に詳しい人に手伝ってほしくて人を探してるんだ。キャロにぴったりだと思うけど、やってみない?」


「え、図書館!? この国にはないけど、本で読んだことがある。すごく興味があったの。手伝ってみたい!」


思わず、そう叫んで、はっと我に返った。


「やりたいけど、できるわけがないわ……。私は子爵家をつがないといけないし、あと一か月で結婚するんだから……」


「キャロ、あきらめないでって、僕、言ったよね。キャロがあきらめなければ出来るよ。自分の身を犠牲にしなくていい。そんな結婚したくないんだろ?」


うなずきそうになった時、アルゴ様の顔が浮かんできた。

こんな風になったのは私のせいで、責任をとれって……。


私は、力なく首を横にふった。


「正直、結婚はしたくない。でも、アルゴ様がああなったのは私のせいらしいから、私のほうから結婚できないなんて言えるわけないよ……」


「はあ、キャロはどうしてそんな頑固なんだ。我慢強いし、責任感が強い。自分勝手なまわりを許しすぎ。キャロが犠牲にならなくてもいいんだ」


「そんなつもりはないけど……」


「ほんと、キャロは優しいね。じゃあ、僕も悪いけど、キャロの優しさにつけこむよ……」


え? それってどういう意味?


と思ったら、シャルルが私に顔をよせてきた。


「ねえ、キャロ。つまり、キャロは、そのクソ婚約者を放っておけないから、結婚するってことだよね?」


「うーん……放っておけないというより、私の責任だから……とか……」


「ならさ、僕もキャロを必要としてたらどうする?」


「シャルルが……? それこそ、私なんて必要ないよね?」


シャルルが眉間にしわをよせた。


「キャロ、自分のことを『なんて』とか言わないで。本当、キャロは自分の価値をわからなさすぎ。あー、また、キャロの親に腹が立ってきた!」


シャルルは怒ってるのに、私には輝いて見える。

そんなまぶしい存在が私を必要とするわけない……。


シャルルは、私の気持ちを見透かしたように、真剣な眼差しで私を見つめて言った。


「じゃあ、これから、キャロの優しさにつけこむようなことを言うよ」


「なに……?」


「キャロには言ってなかったけど、僕の家は隣国のアルサ国の侯爵家なんだ。僕は社交は面倒だから夜会とか行かないんだけど、先日、父の代理でしぶしぶ出席したんだよね。そこで、公爵家の令嬢に飲み物をすすめめられてね。あまりにしつこいから、断るのも面倒になって、さっと飲みほして離れようとしたら、薬をもられてた」


「ええっ、薬!? なんで……!?」


「その令嬢、前から僕と結婚したがってたんだ」


その言葉に、何故か、胸がチクリとした。


「あ、でも、僕は嫌だから断った。でも、令嬢はしつこくて、何度も申し込んできた。父親は政略結婚を無理にさせようとする人じゃないから、相手が公爵家でも断り続けてくれたんだけどね。それで、令嬢はどうやら僕に媚薬をもって、既成事実を作ろうとしたらしい」


「は!? ひどい! なんて恐ろしいことを……!」


「本当に公爵令嬢とは思えない品のなさだよね?」

と、顔をしかめるシャルル。


「シャルル、それで、大丈夫だったの……!?」


「うーん、それが大丈夫じゃなかったんだ。あ、と言っても、貞操が奪われたんじゃないからね?」


そう言って、微笑んだシャルル。

いや、笑ってる場合じゃないんだけど……。



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