面倒事2024年5月
春の推理で初めての連載作です。
全3話で終わるので、お付き合いのほどよろしくお願いします。
面倒事2024年5月
序
2024年5月の大型連休中。私は東京より、故郷のZ県Y市に一時帰郷した。
目的は卒業したY市立第四小学校の卒業式前に、学校の裏手に埋めたタイムカプセルを開ける事。
卒業から20年後に開けることを決め、同窓会も兼ねてのイベントだったのだが、以下に起こる面倒な事に出くわす。
1
集合場所は、学校の裏手の広場。ここは教職員の駐車場で、学校内の敷地だが、校庭よりも一回り大きく、野外授業で草花を育てたりする箇所もある。
その箇所では、黄色や赤やピンクのチューリップが鮮やかに咲いている。
私たちがタイムカプセルを埋めたのは、敷地の一番の外側の道路に沿って植えられた桜並木で、一番の奥の桜の木の近くだ。
既に周囲には同窓生たちが揃っているが、やはり集まりが悪い。
私たちの時代は1クラス30名前後で2クラスだった。つまり60人ほどの同窓生がいる訳だが、集まったのは22人だけ。
12年前の成人式でも、40人前後だったから、なおさら寂しさがある。
今では、我が母校は各学年で、1クラスだけの20名から25名程らしい。
この状態が続けば、廃校の恐れもある。実際、同じ様な状態のY市立第三小学校との合併で、どちらかを廃校とする話も出ているそうだ。
「よーう。久しぶりー。とっとと掘り返して、飲みに行こうぜ~」
「そういえば、何を埋めたんだっけ?」
「私たちが将来の夢を描いたノートと、先生が私たちに書いたメッセージのノート。それが2クラス分だからノート4冊。クラスで大事にしてた思い出の品……、ですよね。先生?」
当時の担任の2人の先生は来ている。
一人は既に定年退職されている70代半ばの男性。もう一人は私のクラスの担任だった、50代前半の女性だが、何と先生は今はこの学校の校長先生をしている。
問われた退職された先生は、「はて、そうでしたかな? 久米谷先生?」と思い出せていないようだ。私もすっかり忘れている。
「その通りです。シャベルを用意してありますので、男性陣が掘り返してください。はい、泉君。来てくれたんですね」
久米谷先生が、私の名を呼びシャベルを渡す。シャベルを渡された男性陣からは不満の声が出る。
「こんな時だけ、男がやるのかよ~」
「久米谷先生は校長、と偉くなったからね」
久米谷先生は私たちの5年と6年生時の担任だが、私たちが5年生になる春休み時に結婚をされた。
お相手は地元のY市で代々続く農家の方なので、恐らく転任をせず、ずっとこの小学校勤務だと思っていたが、まさか校長先生になっていたとは。
家が農家なので、シャベルの用意など簡単である。
2
こうして私を入れての男性陣6人が、一番奥の桜の木の近くの土を掘る。
既に桜は散っている。そして埋めた時期は桜の開花直前だった気がする。
「そういえば、それらは何に入れたんだ?」
「当時、林田先生が不要になった旅行用のケースに入れました」
久米谷校長が説明をする。
旅行用のケースをそのまま埋めたのって、仮にアルミケースだったとしても中身は大丈夫なのか?
私は掘り返しながら、ぶつぶつ呟く。
やがて私のシャベルが何かに当たった。
掻き分けていくと、確かに旅行用のケースが見つかったが、相当にボロボロだ。
中身は本当に大丈夫だろうか?
「林田先生。鍵は持って来てますよね?」
ケースの提供者の林田先生は、鍵だけはしっかり忘れず持ってきているようだが、ボロボロだし鍵穴も土が詰まり変形して開かないんじゃないか、と私は思った。
ケースは掘った大体1メートル下から出され、桜の木の近くに置かれる。
林田先生が鍵を入れると、どうにか空いた。
最悪、力づくで無理やり開けるのでは、と危惧していた私は、これ以上の力仕事がなくホッとする。
3
ミシミシミシ……。
何とも不気味な音を立て、ケースは空き、私を含め一同は呆然とする。
中には30センチ×30センチのホワイトボードだけがあり、油性マジックで何やら書き込まれている。
ケースの中は湿っているし、土が侵食していて、大事なものを入れていたら台無しだっただろう。
このホワイトボードも最近入れられた感じでなく、ボロボロで、書かれた文字は微かに読み取れる感じだった。
取り敢えず、このように読めた。
「こんなケースに入れて、20年後無事な訳がないだろう。中の全てはオレが別の場所に保存しておいた。だが多分オレは20年後には来てないと思うから、お前たちだけで探せ。ヒントは多分ある。 2004年3月 6年1組 偉そうな鵜月 誠志」
「鵜月か~。あいつ何て言うか、すごく頭が良くって、何様かってくらい、これに書いてあるように偉そうなやつだったな」
「あぁ、何かそんな嫌な奴だったな」
「鵜月君って、今どうしてるの?」
「鵜月はomozanで働いてるな」
「どこの物流センターだよ?」
「いやいや、シアトルの本社勤め」
鵜月誠志と親しかった私が答えると、周囲は驚く。
さて、このメッセージは私にも分からない。鵜月の連絡先は知っているが、あいつの性格から教えてはくれないだろう。
初夏を感じさせる澄み切った青空。吹く風は軽い冷たさがあり、力仕事をした私たち男性陣には心地よい。
私は既に咲き終わり、緑の葉が芽吹いている桜の木を眺めながら、当時を思い出し、何とか鵜月が隠した場所を推理してみるか、と思った。
面倒事2024年5月 了
う~む。新UIで初の連載作。
とりあえず、何とかできているようです。
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