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魂を凍らせる文化祭

作者: きつねあるき

 あれは確か、1986年秋の事でした。


 その当時、自分は中学3年生で、高校受験をする為にあちこちに願書を提出しなくてはならない時期でした。


 願書を出すといえば、今でこそ郵送でOKだと思いますが、当時は本人が直接高校まで行って手渡さないと受付けをして(もら)えませんでした。


 授業を抜け出して願書を提出する時は、同級生と一緒に行く決まりでした。


 自分は、越野(こしの)君と同行する事になりました。


 僕らは、1時間目の授業を受ける事無く、願書を提出する為に外出しました。


 まずは、渋谷駅に行き田園都市線に乗り換えました。


 それから、数駅の所で下車して、高校迄は徒歩で15分かかりました。


 その帰りに、彼からこう言われました。


「なあ、帰りに慶応大学に寄ってみない?」


 自分は、この際だから行ってみようと同意しました。


 帰りは、経路を変更して田町駅に向かいました。


 田町駅から数分で慶応大学の前に着いたものの、警備が厳しく構内に入る事は出来ませんでした。


 2人は、仕方なく田町周辺をブラブラする事にしました。


 そこで、偶々(たまたま)文化祭をしていた学校がありました。


 そこが、どんな学校なのか分かりませんが、彼が寄って行こうと言うのです。


 食事でもするのかと思って中に入ると、軽音楽部と思われる方から勧誘(かんゆう)されました。


 正直、自分は気乗りしなかったのですが、彼はさっさと教室に入ってしまったので、仕方なく付き合う事にしました。


 教室には、(いく)つもの楽器がありましたが、座席数は10席分しかありませんでした。


 演奏が始まる前、係員が入口のドアを閉めてその前に立ちました。


 そこで、自分は気付きました。


 バンドのメンバーと係員は、全員が耳栓をしていた事を…。


 嫌な予感がしましたが、その直後とんでもない音量のドラムが鳴り(ひび)きました。


 音楽のジャンルは、ヘヴィメタルでした。


 ギターとベース、キーボードの音もさることながら、圧巻はボーカルの(さけ)びでした。


「お前ら~!耳を(ふさ)ぐんじゃねぇぞ!」


 と、何回もシャウトしながら歌っているのは、正に(たましい)を凍らせるというのに相応(ふさわ)しいものでした。


 自分は、爆音(ばくおん)を浴びせられるにつれ、異常な鼓動(こどう)の高鳴りと全身の振動が続き、生命の危機さえ感じさせる程でした。


 ノンストップで30分以上の演奏が終わると、耳がポワーンとなり自然と涙が流れてきました。


 爆音と魂の叫びと言えば聞こえがいいのでしょうが、終演してから何の感情かも分からない涙を流すのは、何とも言えない気持ちでした。

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