最終話 そして80年後
昔々、まだ人間と魔族がいがみ合い争っていた頃
旅をする1人の人間の少女がいました
なぜ人間と魔族が争うのか、誰も教えてくれないから
それが少女が旅をする理由でした
ある時は人間の町へ行って聞き
魔族の味方をするとはとんでもない奴だ
と言われいじめられました
ある時は魔族の町へ行って聞き
人間に恨みや憎しみが分かるものか
と言われいじめられました
それでも旅を続けた少女は
王様に直接話を聞くことが出来るようになりました
人間の王様は言いました
魔族が先に攻撃してきたのだと
魔族の王様は言いました
人間が先に攻撃してきたのだと
少女は首をかしげました
どちらが嘘をついているのだろうかと
考えながら、なおも旅を続けました
その果てに、エルフという意地悪な者に出会い
企みを知ることになったのです
エルフは、魔族の食べ物を奪って言いました
人間が魔族の食べ物を奪っていったぞと
その後エルフは、人間に言いました
魔族が食べ物を奪いにやってくるぞと
人間と魔族は、よく知らないエルフの言う事を
信じてしまいました。よく知っている隣の友達を
敵だとみなしてしまったのです
それを知って、少女は2人の王様に仲直りするよう言いました
しかし、200年争い続けた人間と魔族は、かつて友達だったと
いうことを忘れ、エルフに何を言われたかも忘れてしまっていました
人間と魔族は争い続けました
少女が泣いて訴えても争い続けました
互いに傷つき倒れる者が出ても争い続けました
もう人間と魔族には争う力がわずかしか残っていませんでした
そこを見計らってエルフが人間と魔族に襲い掛かりました
エルフは大きな炎の津波を生み出し、すべてを飲み込もうとしていました
それを見てようやく2人の王様は、自らのあやまちを認めて
手を取り合ってエルフに立ち向かい、打ち負かしたのです
2人の王様は、お礼を言おうと少女を探しました
しかし、少女の姿はどこにもありませんでした
また別の旅に出かけたのかもしれません
いつの日か、再び人間と魔族がいがみ合うようになったら
また少女が現れるでしょう、仲直りさせるために
おしまい
***
1人の、部屋の椅子に座って童話の絵本を読み聞かせる魔族の老婆
その周りで聞き入っている人間、魔族、犬獣人、オークの子供達
「ねぇ、この争いって本当にあったの?」
「そうだねぇ…80年位前にね、悲しい出来事だったよ」
「おばあちゃん、その少女って本当にいるの?」
「もちろん、私はその子と友達になったのさ。もし皆がケンカしてたら
その子がやってきて怒られちゃうよ~?」
「ええ~?」
「僕ら仲良しだから平気だい!」
「フフッ…そうだねぇ…おや、もうこんな時間になってしまったね
皆そろそろお帰り、今度は「少年ラゴーウンの冒険」を読んであげようねぇ」
「「「はーい!」」」
老婆は微笑みながら子供達の後ろ姿を見送った。その子供達と入れ替わるように
喪服姿のアユミとカラドボルグが部屋に入ってきた
アユミの目は、泣きはらした後のようだと見て分かる
「噂をすれば…あらあら」
アユミは老婆の手を取ると、彼女の生存を確認するかのように自分の頬に当てた
表では象徴として気丈にふるまっていても、陰では泣くのを我慢できない
「ロザさん…とても辛くて…悲しい…」
「また1人…ヘンリーを看取ってきたのニャ」
「そうかい…寂しいのならゼログニ様のご厄介になればいいのに…」
「吾輩もそう言ったんだけどニャー」
アユミは涙を手で拭って言った
「魔王…ではなくなったゼログニさんは、リークルさんと一緒に静かな余生を
送られています。そんな水入らずの2人を邪魔するのはどうも…」
「ゼログニ様も丸くなられたのね…私もなるべくアユミと一緒にいてあげたいけど
もう200を過ぎて…そろそろお迎えが来そうよ」
「そんな事…言わないで下さい…」
また泣きそうになっている
「フフッ…アユミ、子供達とも次の王様とも仲良くできてるし、あなたは1人じゃないわ
それに、私が死んでもアユミの心の中で生き続けるわ」
「はい…」
アユミはロザの手をはなして目を閉じる、すると…
リューツ ジェニファー アダム ガンダー ベス
ベロ博士 ドール グラク
バロー スーザン ミミ カーメル
ジュンヤ シズカ ノブヒロ
ヴィガ王 ディーン王 ルードヴィッヒ クルネド ロータス
キャリー夫人 ヘンリー マギー ブレアー
皆、在りし日の姿のまま静かにたたずみ、アユミを見ている
しかしもう手を伸ばし、触れ合うことはできない
「ああ…」
「…アユミ」
「…!」
ギュスターヴに優しく肩を叩かれた気がして、目を開けて振り返ると
カラドボルグが前足で叩いていたのだった
「大丈夫ニャ?」
「ううぅ…」
アユミはカラドボルグを抱きしめ、顔を腹に押し付けながら涙と鼻水を流す
カラドボルグは少し嫌がるそぶりを見せつつも甘んじて受けた
「ミャアァ…まったく…後で鍛冶をするんニャぞ」
「うん…ありがとう…」
不老不死なので看取るばかり、その悲しみは記憶能力強化で忘れる事は出来ず
カラドボルグがいなければとっくに狂ってしまっていただろう
***
魔族の老婆…ロザは肉野菜炒めを机の上に置いた。店を引退した今でも
アユミの為に腕を振るってくれるのだ
「さっ…アユミ、召し上がれ」
誰かが亡くなり気落ちする度にロザの元を訪れては肉野菜炒めを頂くのが
アユミの習慣となっていたのだ。アユミは涙と鼻水をヒートハンドで蒸発させ
姿勢よく椅子に座って手を合わせる
「…いただきます」
変わりゆく世の中、変わらない味、それらをかみしめて
これからもアユミは生きていくのであった
完




