外伝 ある研究者の一生
ゼログニが「触れたもの全てを腐食させるチート」と呼んだ元凶
かつて勇者が生み出した「あらゆる毒を生み出す腕輪型のアーティファクト」
それはエルフによって盗まれ、発泡酒のような洗脳薬を
生み出す装置として管理されていた
***
アグリーの私兵達による集団自決事件によって、洗脳薬の存在が明るみに出て
人間の聖職者だけでは手が足りず、その中和剤の開発が急務となった時
ベロ博士が最初に名乗りを上げた
「今こそ私の腕の見せ所! エルフの企みなぞパパッと解決してやろう!」
ベロ博士の開発した中和剤は一定の成果を上げた、しかし
毒を生み出すアーティファクト側にも情報が流され
中和剤を無効にする洗脳薬が生み出された
「おのれ…これもチートなのかっ、だが相手にとって不足は無い!」
やがて、最前線で戦うジュンヤ達によって、毒を生み出すアーティファクトの
存在が明らかになり、洗脳薬と中和剤の開発競争がいたちごっこの様に続いた
***
数年後
アユミの偵察とジュンヤ達による制圧によって、ようやく管理場所を突き止め
「あらゆる毒を生み出す腕輪型のアーティファクト」の破壊に成功する
新型の洗脳薬はもう生み出されなくなり、既存の中和剤で全ての症例に
対応可能となって、ベロ博士の研究も一区切りとなる
「よし…この調合方法で全て抑え込める…勝ったぞぉ…ハハハッ…グゥッ!」
「博士ッ!」
胸を押さえて倒れこむベロ博士をドールが支える
日頃の不摂生と、毒の影響も僅かにあって
徐々に体を蝕んでいたのだ
***
重篤な症状となったベロ博士は、ドールの付き添いのもと
ヒュージリバーの町からオグホープに移され、集中的な治療を受ける事になった
だがその甲斐も無く、ベロ博士の命は尽きようとしていた
ベッドに横たわり点滴を受けているベロ博士は、傍にいるドールに話しかける
「ドール…あの調合方法は役立ってるだろうな…?」
「はい、博士の考案した方法だと、念を押して」
「そうか…ならばいい…フフ…これで私を短小と言った奴も…」
「…」
しばし沈黙の後、すっかり毒気が抜け、穏やかな表情で
「いや…違うな…そんなくだらん理由で作りたかったんじゃない…
すまんなドール…こんな男に…付き合わせて…」
「博士…っ」
思わず手を取るドール、しかしもうベロ博士は息絶えていた
それを理解した途端、ドールの目から涙がこぼれた
「これは…私は悲しんでいるんですね」
***
ベロ博士は中和剤発明の功績が認められ、規模の大きな葬式が執り行われた
そんな中アユミは偵察任務に就いていた為に亡くなった事も知らなかった
帰還してからそのことを知り、せめて墓参りには行こうと
カラドボルグと一緒にオグホープへとやって来た
「アユミも律儀だニャー」
「律儀? これは礼儀って言うんだよ」
召喚の時の出来事のせいで第一印象こそ最悪だったが
エルフの弱点や技術を共に解明してきた仲間なのだ
***
ベロ博士の研究所だった建物の前に辿り着いた時、研究員達の話し声が聞こえてきた
「もう5日目だ…」
「俺達の意見は聞かないし、もう…」
「腹に希少金属あったな、あれだけ取って…」
不穏な内容を気にしつつも、アユミは彼らに話しかける
「あの…」
「あ、アユミさん…丁度いいと言うか、何と言うか…」
***
(まだ、生きている…いつになったら…?)
手術台に横になっているドール、ふと目を開け横を見ると
今にも泣きそうな表情のアユミと、達観した表情に見えるカラドボルグがいた
「いたのですか、アユミ」
「聞きましたよドールさん…もう5日も整備を受けてないそうですね
死んで…しまいますよ」
「死にたいのでこのままで」
「な…なんで…」
「ベロ博士が死んだ時、私の中で何かが壊れてしまったようなのです
おそらく、悲しみという感情のせいかと」
「それは…ドールさんはベロ博士のことを愛していた…?」
「愛…これが愛という感情なのですね、そういえば愛する人に先に死なれて
後を追うように死ぬという物語を読んだことがあります。私もそのように…」
そう聞いたアユミは思わずドールの手を取った
「僕も…同じくらい…あなたを…愛し…」
感極まってうまく言葉が出てこない。そんなアユミを見てドールは僅かに微笑んだ後
糸の切れた人形の様に力を失った
「カラドボルグ…ロザさんを呼んできて…」
「…わかったニャ」
***
ドールは研究員達によって、内臓に使われていた希少金属を取り除かれた後
ロザに協力してもらって、ベロ博士の墓の傍に小さな墓を作って埋葬する事になった
作り終えた墓を前に自然に手を合わせるアユミ、そこへロザが口を開く
「ドールは…ずっとベロ博士に寄り添っていたからね…誰にも止められなかったわよ」
「そう、ですね…それでも…悲しいです…」
言いながらアユミは天を仰ぐ。そしてあの二人が再び生を受けた時に
幸せになれるよう祈った




