85話 テンノーとソーリ達
「…っていう事があったんですよノブヒロさん」
「あ…ハハ…いや~天皇制を真面目に考えられるとは…」
「笑い事じゃないですよ本当に…」
ここはバーン家によって運営されているマンションの一室
ノブヒロとベスが同棲しており、ちょうどバローが茶を飲みに訪れていたところに
アユミとカラドボルグもやって来たのだ。4人と1匹は少々窮屈である
アユミが文句を言っていると、ベスが奥から茶を持って来て話に加わる
「あらまぁ、2人の王様に期待されるなんて、一介の冒険者じゃ
とてもとても…大出世じゃない」
「まぁそう…ですけど、僕はもう少しのんびりした生活を期待してたんですけどね」
そのセリフに、茶を飲みながら聞いていたバローがたしなめる
「おいおい、そんな大事な話を途中で投げだすのは無しだぞ」
「分かってます…とにかく、天皇制の事は僕も詳しくは分からないので
形にするにはノブヒロさんの助けがどうしても必要なんです
知恵を貸してください!」
「うーん…僕も詳しく知っている訳じゃないからなぁ…」
ノブヒロは困り顔になる。少しの沈黙の後、カラドボルグが口を開く
「まーまー、何も完全な模倣をする必要は無いニャろ? もっと簡単に
テンノーとソーリがいる王政を作っちゃえば良いニャ」
「うーん…」
アユミが唸る中、ノブヒロが頭を掻きながら話す
「そうだね…異世界なのに天皇陛下に遠慮してたら何もできない…
とにかくたたき台を作ってみようか」
その日からアユミはノブヒロの所に泊まり込みで案を出し合い
バローとベスも、国で適用されている王政を例に助言を出していく
それと並行して親書のやり取りも続けていたのでとても忙しい毎日となった
何とか草案を纏めた後も、ディーン王と魔王ゼログニ両方からの理解を得て
合同部隊の初期メンバーを国から引き抜く許可も得てから
メンバー自身の同意を得る為に、「エアスラッシュ」で文字通り飛び回った
…そうして1か月が過ぎた
***
辺り一面冷え固まった溶岩、地表にはぽつりぽつりと雑草が顔を出している
ここにはかつてヒュージリバーがあり、人間と魔族が争っていた場所だったが
溶岩で全てが流されて場は一変した
北の山は地盤沈下によってカルデラ湖となり、南方に水が流れなくなって
ヒュージリバーそのものが消えてただの平地となっていた
そんな場所に、女性物の外交官用の礼服を着たアユミとカラドボルグは
ノブヒロを連れて来た
「アユミ、ここなら開けていて良い場所ニャ」
「うん…いよいよか…」
「アユミさん、案ずるより産むが易し…ですよ」
「そうですね…では、お願いします!」
「はいっ! 伸びろー!!」
アユミがエターナルボックスから苗木を取り出して、冷え固まった溶岩の上に置き
ノブヒロはそれを「農耕補助」によって急成長させ、巧みに操って2つの建物をこしらえてみせた
1つは、冒険者ギルドと同じ規模の集会施設
もう1つは、ここまで来るであろう馬車のための厩舎だった
「相変わらず、見事なもんニャ」
「ありがとうございます。この調子で1週間はお願いします」
「ああ、まだ苗木は沢山あるからね」
3者が話していると、東の方から1台の馬車がやって来て
中からギュスターヴとロータスとスーザンが下りてきた
「おおアユミ達、待たせたな」
「いえ、全然待ってないですよ」
「うわぁ…地面ボコボコ、気を付けてください」
「ええ、ありがとうスーザン」
それとほぼ同時に、西の方から1台のメカニカルな大型バスが走って来た
「な、なんニャ!?」
アユミとノブヒロ以外は、バスに驚いて身構える
しかしいらぬ心配だったようで、アユミ達の目の前でゆっくりと止まり
中からまずベロ博士が下りてきた
「よし! 時間通りに着いたようだな」
「博士、これは?」
「お前が持ち物は自由だと言うから、研究室そのものを持ってきたという訳だ
木造だけでは限界があるだろうからな」
「なるほど…」
その後から、ドールともう1人、程よく筋肉の付いた紳士然とした魔族が下りてきた
彼の名はグラク、ヒュージリバーで魔族の隊長として戦ってきた男であり
アユミが魔王ゼログニへの伝言を頼んだ相手でもあったが
名前を知ったのはつい最近の事である
「久しぶりだな…アユミ」
「グラクさん、応じて下さりありがとうございます」
「なに、お前には借りがあるから、この位はな」
それを聞いてアユミはキョトンとした顔になり、グラクは微笑む
アユミにとっては伝言を頼んだだけだが、グラクにとっては
命を救われた形になっていたからだ
***
出来たばかりの集会施設の中に8人と1匹が集う
アユミは、呼んだ者が全員来てくれた事に感謝しながら、用意した資料を
渡していった
「皆さん、この度はお集まりいただき誠にありがとうございます
僭越ながら、僕から皆さんの紹介をしたいと思います」
「まず…ギュスターヴさん、彼には冒険者ギルドという施設で傭兵達を
まとめ上げてきた実績があります。ここでも人間達の指揮、訓練等を頼みます」
「ああ…うむ、ギュスターヴだ。楽隠居を考えていたが、呼ばれた以上は
仕事はする、皆よろしく頼む」
「次にグラクさん、ヒュージリバーでの戦いにおいて、彼の優れた指揮能力は
しっかり見させてもらいました。ここで魔族達の指揮、訓練等を頼みます」
「分かった、力を尽くそう」
「次にスーザンさん、彼女は冒険者ギルドの補佐として経験を積み
若輩ながら事務仕事をこなせます。ここでは獣人達の仲介役を頼みます」
「が、頑張ります!」
「次にベロ博士、彼は「異世界召喚」を再現した天才です。その頭脳を活かして
エルフに対抗する兵器等の開発、研究をお願いします」
「うむ! 任せておけ!」
「博士の助手のドールさん、ご覧の通り人造人間ですが、彼女には立派な
人格が備わっていますので、人として扱ってください」
「光栄です」
「そしてロータスさん、聖職者の彼女にはこの土地で怪我人治療と講義を…
「人間と魔族、双方の未来の為にはどちらも滅んではならない」を教え広めて
エルフによってゆがめられた教義を修正していくようお願いします」
「教会は正式に神のお告げだと判断しました。神に仕える者として
誠心誠意尽くす所存です」
「今は、ここと厩舎しか建っていませんが、ノブヒロさんに頼めば
同じような木造建築物をすぐにでも建てる事が可能なので
教会施設や兵舎など必要ならどんどん言って下さい」
「どうも、短期間ですが…よろしくお願いします」
「同様に、現在の人員はこれだけですが、今紹介した6人には
同僚、部下などの人員を各々の判断において適宜補充できることとします
僕へは事後報告でもかまいません。エルフがいつまた攻めてくるか分からないので
なるべく早く体制を整えて下さい。当面はジュンヤさん…北の最前線にいる勇者達の
援護をしつつ、いつかは勇者無しでも戦える事を目標にします。そして…」
アユミは胸に手を当て、一旦息を整える
「…僕、アユミは斥候兵の任務に携わると共に、この場の象徴として
皆さんの上に立たせていただきます」
その言葉を聞き、グラクが発言する
「象徴…? 王や司令官とどう違うのだ?」
「象徴とは、組織内のあらゆる権限を排した最高責任者です」
グラクはさらに訝し気な表情をアユミに向けてくる
だがアユミにとっては想定通りであり、そのまま話を続ける
「例えば…僕がエルフの領域を偵察し、拠点を発見したとしましょう
王や司令官なら出撃命令を下す所でしょうが、象徴の場合は
出撃してくださいと「お願い」をすることになります」
「…お願いだと?」
「はい、強制力はありません…少し悩みましたが、僕はちょっと偵察が出来るだけで
部隊の指揮ができるわけでも、帝王学を学んだわけでもありません。なので
グラクさんとギュスターヴさんとスーザンさんが派兵できるかを話し合って
それぞれの種族に指示を出した方が混乱しないでしょう」
「わ、私もですか」
「はい、よろしくお願いします」
スーザンに話の腰を折られたが、グラクは咳払いをしてから
改めてアユミに問う
「成程、人員を有効に配する事を優先するという事か…しかし欠点がある
もし我らが怠けようと考えたらどうする?」
「それは…困ります、でも万が一そのような状態に陥った時には
僕がディーン王と魔王ゼログニにいつでも謁見できる権利を使って
代わりに断罪をお願いすることになります」
それを聞き、ギュスターヴとベロ博士以外が息をのむ
その様子を見てカラドボルグが宥めるように間に立った
「まーまー、アユミが権利を乱用しないように吾輩が見張っといてやるから
心配するんじゃニャい」
「むっ…凶雷の黒猫かっ?」
「あ…この猫はカラドボルグです」
「ニャフ…ここじゃ誰よりも年上だから敬うがいいニャ」
そう言われて毒気を抜かれたのか、グラクは苦笑を浮かべた
「ハハ…俺とて組織に混乱をという訳じゃない、言われた通りにしよう
それで、肝心の組織名は何というのだ?」
「それは…これから皆で話し合って決めようかと」
アユミの言葉に、ギュスターヴが異議を唱える
「いや、そこは象徴のアユミがビシッと決めてくれよ」
「え…でも…ううん…」
そう言えば、「日本」という国名も昔の天皇が名付けたのだったと思い至り
アユミは目を閉じ、腕組みしてしばし考える。しかしこの場に相応しい名前は
一つしか思い浮かばなかった
「ここは…ヒュージリバーです」
「でも、埋まっちゃって何も流れてないニャ」
「いや…そういう事じゃないんだ」
カラドボルグに指摘されるも、アユミは続ける
「かつては、この川の水によって人間と魔族が隔てられ、争い続けていました
でもこれからは、僕ら一人一人が水の一滴一滴となって集い
大きな流れとなってエルフを撃退する時代が始まります
ゆえに、ここはヒュージリバーの町、僕らはヒュージリバー団
…いかがでしょうか?」
しばしの静寂の後、まずグラクが拍手を始め、次いでギュスターヴ、全員と
拍手が広がっていった。それを受けてアユミは深く頭を下げて応えた




