表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
83/88

83話 それぞれのエピローグ

エンゼにて、死傷者の対処とドラゴンゾンビの片付けが終わったある日

ヴィガ・エンゼを始めとした多くの犠牲者のための葬儀が一度に行われた

兵達等は大人数なので集団墓地にせざるを得なかったが

ヴィガ・エンゼの棺に花を手向ける事で、遺族達は心を慰めた


その次の日には、ディーン・エンゼが即位して戴冠式が執り行われた

本来は教会内で行うが、火龍の絨毯爆撃で破壊された為

原型が残っている城内で行うこととなった


教会長が赴き、跪いているディーン・エンゼの頭に冠をのせた後

ディーン王はゆっくりと立ち上がり演説した


「我は、新たな王ディーン・エンゼである! 今は正に混迷の時

この試練を乗り越える為に…神よ! 我に力を与えたまえ!」


言葉とともにスコット大臣達は跪いて恭順の意を表した


この後ディーン王は、最初に安易な軍備増強はせずに復興を優先してよく治めた

そして王自らが半壊した軍を再編成し、訓練は王子時代からの実績を踏襲したメニューが採用され

「キングス ブートキャンプ」と名付けられて本も出た

また、強硬派の貴族が提案した磔台は、戒めの為に城の地下に封印された


***


オグホープの執務室にて、ゼログニは机に向かい1人で山のような書類と格闘していた

ディーン王へ送る祝辞、魔族の戦死者家族への補償、異世界召喚封印の手続き等々

どれも魔王のサインが必要なものばかり…一旦ペンを置いて伸びをする


「く~っ、まだ半分か…」


その時、リークルが茶を持ってやってきた


「お疲れ様です、やはり大変ですか?」

「まあな…だが賠償金の事を考えなくて良い分、遥かにマシだ

人間との仲をうまく取り持ってくれたアユミに感謝だな…」

「まあっ、またアユミの話をなさるなんて」


茶を机に置いたリークルは、わざとらしく口をとがらせてみせる


「うん? フッ…あいつは友人、リークルは俺の腹心で愛する妻だ」


そう言うとゼログニは満面の笑みを見せつけた。今のリークルの言葉は

冗談であると百も承知で、あえて真っ向から受け止めてみせたのだ

リークルは少しだけ驚いた後、頬を赤らめてしなだれかかる


「うふふ…嬉しいですわ」


ゼログニは、戦争を終わらせ人権を取り戻した魔王として

素手で火龍を倒した武勇伝とともに、歴史に名を刻んだ


***


あたり一面、冷え固まった溶岩で覆われた大地

その上にノブヒロが立ち、無心で鍬を振り下ろしていた


「農耕補助」の勇者能力によって、鍬に当たった溶岩がまるで豆腐のように脆くなり

掘り起こしたそばから肥沃な土へと変換されていく

耕運機より速く、疲れ知らずでどんどん進み、時折笑みがこぼれる


ガキン


「うん…? なんだこれ?」


鍬に当たったのは、底の非常に浅い金属の箱だった

溶岩の熱にさらされていたにもかかわらず、変形した様子もなく

なんでも肥沃な土に変えるノブヒロの力も及ばぬそれを

ノブヒロは手に取って不思議そうに見つめる


「おーノブヒロー! やってるなぁー!」

「あ、バローさーん!」


バローに後方から呼ばれて、ノブヒロは顔を上げて振り返る


「ん? お前の持ってるのは…」

「知ってるんですか?」

「ああ、そいつは…アユミの持ち物だ、後で渡しておこう」

「へぇ…そうだったんですか、ではお願いします」


バローはノブヒロから金属の箱…エターナルボックスを受け取る


(こんな所で見つかるとは…さっさと手放して正解だったようだな

でないと、俺も今頃溶岩の中に…)


そう思いながら腋に抱えた


「ところで…随分と速く耕せるんだな? もう少しゆっくりでないと

作付け班が追い付かん」


バローが指差す先では、マイフォにいた村の衆が作付けをしていた

エンゼ城内の庭園で保持されていた苗木、球根などを

植物の扱いに秀でている獣人達が一丸となって植えていく


ノブヒロはその様子と、まだ手の付けられていない耕地の広さを見て

布で額の汗を拭いながら照れ笑いをする


「あぁ…ハハハ…農家になってのんびり暮らしたいって夢が叶って

嬉しくて…勇者の力で疲れないからつい張り切ってしまいましたよ」

「フッ、無理をしてないならいい」


笑いあう2人に向けて、遠くからベスとミミが呼びかける


「みなさーん! お昼にしましょー!」

「おおー!」


そして昼食後、作付けした分にノブヒロの勇者能力「農耕補助」が使われ

あっという間に収穫時期まで成長した

見ていた獣人達は一瞬驚くが、火山噴火という天変地異直後にもかかわらず

作物を収穫できるという喜びの方が先に立ち、率先して取り組んでいった


この作業を毎日繰り返し、大量の作物を市場に流す事によって

災害に付き物の略奪行為を封じて内政の安定に貢献

余った分を魔族達に格安で卸せるようにもなり

食料をめぐって200年前から続く因縁を終わらせることができた


内政、外交ともに多大な貢献をしたノブヒロは

後に「食の勇者」として語り継がれることとなる


***


戴冠式から数日後、キャリー夫人が恩赦により城外へ歩いて出てきた所を

城の門で待っていたブレアーが迎えた


「奥様、お手を…」

「ええ」


キャリー夫人の手を取って、ブレアーが先導し歩き出す

幽閉の身ではあったが、罪人のような扱いはされておらず

体力の低下は最小限に抑えられていた


本来バーン家のような貴族なら馬車の一つでもあてがわれるものだが

エルフの襲撃により、馬車が走れるような道ではなくなっていた為

やむなく歩いての帰宅となった


だが、おかげで周囲の景観をゆっくりと見ながら歩くことができた

エルフの空爆から生き延びたが、家が無くなり道端で毛布にくるまる人達

何をすれば良いか分からず、手をこまねいている他家の貴族達

それらを見ながらキャリー夫人は呟く


「あの美しかった街並みが、見る影もない…」

「奥様…」

「アグリー…私の家族達もエルフの手にかかったと聞きました

エルフというのは残酷ね…私の愛するものをみんな奪っていってしまう…」


それは、ブレアーにしか見せないキャリー夫人の弱音


「…しかし、希望はまだ残されています」

「ヘンリーの事ね」

「はい、学ぶ意欲があり聡明にもなられました。ヘンリー様ならばきっと…」


聞いたキャリー夫人の顔は少しほがらかになった

そうして歩いている内に、バーン邸の門と、周囲で帰りを待っている

メイド達が目に映る。しかし爆撃によって門しか原型を留めておらず

代わりにテントが張られている


「あら…」


キャリー夫人は思わず足を止めた。出迎えに来たメイド達の人数が明らかに少ない

ブレアーは気持ちを汲み取って、申し訳なさそうに話を切り出す


「アグリー様に心酔している者達は、例の…血の海事件を起こし

出頭するように命じたのですが逃げられてしまい、今は指名手配されています

私の力が及ばず…申し訳ありません」

「貴方のせいではないわ、できればアグリーから解放させたかったけど…」


再びキャリー夫人達は歩き出し、程なくマギーが気付き

続いて他のメイド達が声を上げる


「あっ! 奥様よ!」

「「「お帰りなさいませ! 奥様!」」」

「ありがとう皆…苦労を掛けましたね」


キャリー夫人は気丈に振る舞い、笑顔を見せる

そしてメイド達の陰にいたヘンリーに気付いて歩み寄る


彼は子供用スーツを着て直立不動の姿勢をとっている

顔を見れば、泣くのを必死でこらえているのがわかる


「お婆様…お帰りなさいませっ…!」

「ヘンリー、よく留守を守ってくれました」

「ううう…お婆様ぁ…」


キャリー夫人は両腕でヘンリーを包み、涙を隠した


「ヘンリー…私が戻ってこれたのは、アユミが陛下に懇願してくれたからなのよ」

「アユミお姉ちゃんが…」

「一緒に、お礼の手紙を書きましょうね」

「…っ、はい!」


ヘンリーは涙を拭ってから返事をした。それを見届けたキャリー夫人は

次にメイド達に声を掛ける


「皆! 今は正に正念場…力を貸してちょうだい!」

「「「はい! 奥様!」」」


それからバーン家は、ノブヒロ達と提携して定期的に炊き出しを行い

同時に私財をなげうって集合住宅…マンションの建築、運営に取り掛かり

家を失った者達に安く提供し、雨風から保護した


どこの貴族よりも率先して実行した事が高く評価され

理念はヘンリーにも受け継がれた

それはアグリーによって下がった名誉を挽回するのに十分な功績となった


***


ルードヴィッヒとクルネドは、ゼログニとはまた違う種類の書類と格闘していた

エルフに干渉された過去の記録を精査する為である


「ルードヴィッヒ、見つけたぞ!」

「何っ…どこだ?」

「400年前の教会の集会で…「東の光、西の闇に覆われし時」と

当時の教会長が発言したと記録されている。一見これは日没の事を言っているようだが

西に居る魔族が東に居る人間を攻め滅ぼすとも読める!」

「た、確かに…!」


ルードヴィッヒは周辺の資料をひっつかむ


「すると、これも…これも! じわじわと魔族への憎悪を抱かせるような…」

「…その時期だけ、何故か当時の教会長の名前が記されていない…これで決まりだな」

「…フゥーッ!」


ルードヴィッヒは書類を机に置き、そこにあった飲み物を一気に飲み干して一息つく


「ようやく糸口が見つかったな、クルネド…」

「だがこれもギュスターヴの持ってきた資料を基に

ある程度決め打ちしたからこそ断定できた事だ」

「それなんだが、その資料はアユミがエルフの拠点から盗み出し

ギュスターヴに渡した物だそうだ」

「そうだったのか…流石は陛下の推した斥候兵だ」


クルネドは、そう口にした後少し考え


「ところで…アユミの例の2件についてだが、どう扱うと?」


アグリーの私兵が暴走した件と、第四世代が暴走した件

いずれも一部の者達だけで情報共有され、一般兵士や国民達には

伏せられていた


「陛下は…いや、陛下と魔王はそれぞれ国内問題として処理する事で合意した

アユミは頑なに情報漏洩を拒んでいるし、じきに陛下が方策を示されるだろう」

「そうか…これも一つの忠義の形か、負けていられんな」


クルネドも飲み物を一気に飲み干して決意を新たにし、書類との戦いに戻った


その後2人は精査した資料を携えて、子供達は勿論、大人の教師達にも

正しい歴史を伝え広める為に邁進する事になる


***


大陸北部のエルフのモノリスと、木々の壁の幻周辺へは、死んだインテグル博士の

代わりの担当者エルフが、新たに「遠隔操作ユニット」を展開して守りを固めていた

当時アユミやギュスターヴに破壊工作をする時間などなく

燃えた地下以外の施設はそのまま使えていた


冷え固まった溶岩は、岩で作られた樋を埋め尽くして

上の地面との段差が10センチほどとなって

大人なら簡単に跨ぐことができるほどになっていた

そういう設計にしたエルフの計算は恐るべきものだが

正確さが裏目に出る事態が起こる


「ピピッ…シンニュウシャ…シンニュウシャ…?」


壁の幻の向こう側から、ジュンヤが率いる人間の兵士達が

頭上に盾を構えながら次々にやって来たのだ


そもそも「遠隔操作ユニット」達は、迷い込んだ者を暗殺する事に

特化している為、ここまで大人数だと狙いが定まらない

それでも数体は剣を構えて突っ込んだが、盾に阻まれて致命傷を与えられず

勢いを失ったユニットは地面に落ち、次々と打ち取られていった


そうしてジュンヤ達はモノリスのある地点まで一直線に迷うことなく走り抜けた

流石に異変を感じ取った担当者エルフがモノリスから慌てて出てきた。1人である


「まっ、待て! 私は敵じゃない!」

「問答無用!!」


ジュンヤは勢いそのままにアイを振りかぶり、エルフの首をはねた

それと同時に、「遠隔操作ユニット」達もボトボトと地面に落ちて動かなくなった


「よし! 地下制圧組前へ! 毒ガスには十分注意しろ!」

「「「ははっ!」」」


猛烈な勢いで一方的に制圧したジュンヤ達だが、前日には

岩の樋の状況、「遠隔操作ユニット」の配置、モノリス担当者エルフの

性格に至るまで、アユミが「透明化」で調べ上げていたのは言うまでもない


快勝を収めたジュンヤはシズカを始めとする衛生兵達の待つテントに戻ってきた

「遠隔操作ユニット」に刺された負傷者達を治療しているが

致命傷を負ってる者は出ていなかった


「戻ったぜ!」

「おかえりなさい! 無事でよかった」


シズカが微笑みながら迎える


「全部計画通りにいけたぜ、相変わらずアユミはいい仕事をする…」


アイが黙ったまま柄の部分でジュンヤを小突く

気が付くと、シズカは少し困ったような表情をしていた

それを見てジュンヤは慌てて


「も、もちろんシズカがここにいてくれて助かってるぜ

突撃する勇気をくれるんだから」

「そ、そう…どういたしまして」


シズカはやや下を向いて頬を赤らめる、そんな甘酸っぱい様子を見て

周りの負傷者達は微笑んだ


異世界に骨を埋める覚悟を決めたジュンヤは

後に、ディーン王から「守護者」という名誉爵位を与えられ

愛する家族と共に、エルフの侵略に対抗していく事になる


***


とある貴族の邸宅地下室にて、アユミに対して恨みを持つ者達が集い

復讐計画を練っていた


「あああっ! あの魔女めぇ! ラシューを捕らえてのうのうと生きてるなぞぉ!」


そうルガイが叫び


「ディーン陛下に気に入られて好き勝手をぉぉ!」

「奥様もそそのかされてるに違いないぃぃ!」


アグリー派の私兵にメイド達も叫ぶ、もはや正気ではない

そんな彼らに近付く影が一つ…エルフだ


「まぁまぁ、近い内にディーン陛下がアユミを呼び出して

命令を下すようですから、奴を殺す機会は来ますよ」

「うぅ…しかし奴は不死身の体を手に入れたと聞いたぞ

どうやって殺すんじゃぁ…」


「私の家に巨大なミキサー…撹拌器がありましてね

中に入れた人間を永遠に切り刻み続ける装置なのですよ」

「「「おおー!」」」

「アユミを殺しきれなかったら私が何とかしましょう

ささ、今は一杯どうぞ」


そう言うとエルフは発泡酒のような液体を彼らに振る舞う

それを見た者の目はぎらつき、次々と飲み干していく

…結局、エルフだと指摘する者は誰も居なかった


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ