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81話 撒き餌

アユミは、行きと同じように猫形態のカラドボルグを

自分の背におんぶをするようにしがみつかせて飛び上がり

港町オゲートからオグホープへ進路を取った


眼下には、溶岩でできた道がゆっくりと幅を広げながら

冷え固まっていきつつある。自立溶岩人形の姿はもうない


「うん…もう溶岩人形に蹂躙される事は無いね」

「ウニャ…? あれは何ニャ?」


顔を上げて前方を見ると、氷の壁がオグホープの海岸線に構築されて

それに溶岩がはいつくばる様に広がって固まっていた


「魔族達と溶岩人形の戦った跡かな…カラドボルグ

第四世代達に見つからないように、こっそりと入って

待ってるギュスターヴさん達と合流しよう」

「ん、分かったニャ」


意を汲んだカラドボルグは剣形態になり、アユミが右手で持ち

そのまま後ろ手に隠し持つようにし、左手だけでエアスラッシュの浮力を出す

ちょうど、片手腕立て伏せのような姿勢になった


「ほっ、むぅぅ…」


片手ではバランスを取るのが難しく、左手に意識が集中する

ぐらつきながらも何とか上昇に成功し、ゆっくりと氷の壁の上を

通り過ぎて、魔族の兵士達が見えてきた…その時である


「アユミ! 前!!」

「えっ!?」


カラドボルグの言葉で顔を上げると、眼前に大きな氷の塊が迫ってきていた

眼下の魔族を見ていたアユミはとっさの事で避けることができずに、顔面に直撃する


「があっ…」


衝撃でカラドボルグが手から遠くへ離れ、アユミはきりもみ落下した

地面に叩きつけられ、額から出血している。また

砂埃が氷の水分でアユミの全身に付着し、透明化の効果を半減させていた


「ぐううっ…なんで…」


周囲にいた魔族の兵士達は、突然の砂埃に警戒し

各々武器を構えて警戒態勢をとる

アユミは何故透明状態の自分が撃ち落とされたのかと

考えていたが、間もなく


「シンゾークワセロォ!!」

「ヒィッ!?」


1人の第四世代が武器を放棄し、四つん這いで勢い良く追ってきた

アユミの血の匂いで、本能が呼び覚まされたようだ

アユミは痛みとトラウマでその場から動けず

腕で防御姿勢をとるも、その左腕に噛み付かれた


「うあああ!!」


アユミは叫びながら、透明化が効いていないと悟り、解除した

他の魔族達に助けてもらえないかと僅かに期待したが

突如狂暴化した同僚に驚き、戸惑っていた


「ぐうう…」


噛まれる痛みに耐えながら、右手でエアスラッシュの浮力を出す

上空に昇ってから振りほどこうと考えたのだ

しかし、2メートル程浮き上がったところで

他の第四世代達が1人、また1人と四つん這いでやってきて

大きく跳躍し、それぞれアユミの両足にかぶりつく


「やめっ…離し…!」


魔族3人の体重に浮力が対応できず、ゆっくりと地面に引きずり落され

万事休す、絶望的な表情になったアユミが顔を上げると

もう1人の第四世代が眼前に迫っていた


「シンゾー…シンゾー!!」

「あ…あ…」


4人目の第四世代は躊躇なく、アユミの首を食いちぎった

噴水のように上がる血に呼び寄せられるように

総勢十数人の第四世代達が、我先にとアユミに群がり貪る

そして流血によるショックで、アユミは意識を失った


***


衝撃で遠くへ離れていたカラドボルグが猫形態で戻ってきた時には

群がる第四世代達によってアユミの姿は覆い隠され

噴水のように上がり続ける血だけが確認できた


「グワッハッハッハ!!」


第四世代達は恍惚の表情で血を浴び、口を上に向けて開き飲んでいく


「ア、アユミィ! フーッ!!」


カラドボルグは電撃を放つも、第四世代達は意に介さず貪り続ける

そこで今度は電撃を纏ったネコパンチを繰り出すべく飛び掛かるが


「ウルサイ! ジャマ!」

「ニャアッ!?」


1人の第四世代が振り向きざまに裏拳を放ち、カラドボルグを吹き飛ばす

地面に叩きつけられた後、起き上がったカラドボルグは

今度はさらに強力な電撃を放とうと、体に力を纏わせる…が


「ニャ…ウウウ…」


賢明なカラドボルグは、これを放ったら魔族を死なせてしまうと

思い至り、力なく俯いた


「吾輩は…無力だ…」


***


一方、少し時は遡ってオグホープ内


窓から氷の壁が見える建物内にて、ベロ博士が戦闘の指揮を執っていた

部屋の隅には、手術室にあるのと同じような奇妙な装置と

それを黙々と見張っているドールの姿があった


「むっ、相手の動きが…止まったか?」


窓からベロ博士が確認していると、ゼログニが入室して声を掛ける


「戻ったぞベロ博士! 苦労を掛けたな!」

「ゼログニか! 思ったよりも早かったな…ふぅ、これで一安心だ」


ドールは言葉を発さず、振り返ってお辞儀のみをした


「それで、状況はどうだ?」

「奴ら…溶岩人形共はこちらに臆せず前進して、オゲートから

オグホープまでの道を、圧倒的な物量で埋め立ててしまいおった

今はアイスコフィンで壁を作って時間を稼いでいるが…

奴らの単純明快、かつ効率的な動きには驚愕するばかりだ」

「ふむ…」


「しかし、先程窓から見ただけだが、何か新たな動きがあった

そろそろ連絡係が報告に来るはずだが…」


ベロ博士がそう言うと、ちょうど良いタイミングで

1人の魔族が室内に駆け込んできた


「報告します博士! あっ…ゼログニ様!」

「俺の事はいい…報告を優先しろ」

「ははっ! 氷の壁を乗り越えようとしていた溶岩人形共は

動きを止め、自壊を始めました! 恐らく、ただの溶岩に戻ったのかと」

「そ、そうか! だが操っている元凶が分からぬ今、油断は禁物だ

私が魔力を探知する計器を持っていくまでは待機!

怪我人だけは帰還してよいと伝えよ!」

「ははっ!」


連絡係が部屋を出ていくと、ゼログニが笑みを浮かべながら口を開く


「ふっ…どうやらアユミがやってくれたようだな」

「何っ、アユミとは…あの?」

「ああ、俺らから逃げおおせたじゃじゃ馬だ…人間の国で訓練を受け

チートの扱いにも長けて今や一人前の斥候となっていた」

「少し不味いかもしれん…」

「…何か問題が?」


「戦力数が心もとなくて、第四世代の連中も前線に投入したのだ

アユミと鉢合わせしなければ良いが…」

「前に言っていた、精神が不安定になる問題か…それはアユミも分かっているはず

透明になってやり過ごす事もできるはずだが…」


ピピー


ドールの見張っていた装置から電子音が鳴ったのを理解したベロ博士は

ドールの方に向き直って問いかける


「ドール! 機械の故障か!?」

「いいえ、「自動迎撃装置」が正常に作動した合図です」

「なっ…溶岩人形共が自壊を始めている今、残りは…まさか!?」


ゼログニとベロ博士は、嫌な予感を感じて顔が険しくなる

そんな時、また別の連絡係が慌てて駆け込んできた


「も、申し上げます! 兵の一部が突如理性を失って暴走!

1か所に集まって同士討ちをしている模様!」

「な、なんだとぉ!?」


狼狽えるベロ博士の代わりにゼログニが問いかける


「暴走している兵達は、何か言っていなかったか?」

「はっ…「心臓喰わせろ」…かと!」

「アユミ…!!」


予感が確信に変わり、ゼログニは氷の壁に向けて駆け出した


「待てゼログニ…ドール! 「自動迎撃装置」を探査のみに切り替えて待機だ!」

「了解しました」


やや遅れてベロ博士も計器を持って駆け出した

両名とも、今アユミに何かあれば政治外交的に非常にまずいと考えていた


***


場面は戻って氷の壁付近


噴き上がる血の勢いは衰えたが、相変わらず第四世代達は

アユミの血肉を貪っており、周囲の他の魔族達は

その異様な光景を見続けていてすっかり委縮しきっていた…そんな中

1人の第四世代が突然動きを止めた


「シンゾー…? 俺は一体何を…」


彼は、最初にアユミの首を食いちぎった者であり、

いち早く狩猟本能が満足し、正気を取り戻したのだ

呆けた顔で、真っ赤な血に塗れた自分の手を見ていると


「ドケェ!! シンゾークワセロォ!!」

「うわっ!?」


別の第四世代に押されて、群れからまろび出た

その彼を見て、周囲で見ていた魔族達が駆け寄った


「お、おい…大丈夫か? いくら人間相手とはいえ、いきなり殺して

喰らうなんて…一体どうしたんだ?」

「人間を? くっ…」


彼は頭を押さえて苦悶の表情を浮かべた後

顔にも付いていた赤い血を手で拭う


「わからん…」

「覚えてないのか…?」


そうしていると、駆けて来る足音が聞こえてきた…ゼログニだ


「あ! ゼログニ様!」

「よい、下がっていろ」


ゼログニがさらに前に進むと、視界の隅にカラドボルグの姿が映る

力なく俯いている様子からも、ここで起こったことを

ある程度察することができる


そして、群がる第四世代達の近くまで来た所で

ゼログニは仁王立ちとなり


「止まれ」


ドスの利いた声とともに、魔王の殺気を放った

周囲で見ていた魔族達は、当てられて足腰に力が入らずに尻餅をつく

しかし、第四世代達は一瞬だけゼログニの方を見るが


「ウウ…ウガァ…!」


すぐにゼログニに背を向け、貪りを再開し、口に入れるペースを上げた

まるで、隠れてお菓子をこっそり食べていたが親に見つかって

証拠隠滅を図る子供のようだった


「チッ…ダメか…」


魔王の恐怖よりも本能を優先された…ゼログニは負かされた気分になり

歯ぎしりをした。その時後ろからベロ博士が追い付いて来た


「ゼイ…ゼイ…お、お前ら落ち着かんか!」


勿論、そう言われて貪りを止める第四世代はいない

もはや力ずくで止めるしかないのかと、ゼログニが拳を握った…その時


「ウ…な、なんだ…? この骸骨は…」

「お、お前…なんで血塗れになって…?」

「そ、そう言うお前こそ…」


アユミの血肉を素早く摂取した結果、その場にいた全員が

ほぼ同時に正気を取り戻した


「満足したか…どけ」


第四世代達が振り返ると、険しい表情で腕組みをしているゼログニと目が合った


「ヒッ…ゼ、ゼログニ様ァ!!」


第四世代達は蜘蛛の子を散らすように離れ、赤い血と骸骨だけが残された

「骨折無効」により、骨は標本のように綺麗に残っていたが、それ以外は

髪の毛しか見つからない、アユミが死んでいるのは火を見るより明らか

ゼログニとベロ博士はそう考えながら至近距離まで近づいてしゃがむ…しかし

そこで信じられないものを目の当たりにする


「なっ…まだ…!?」


心臓…正しくは心臓があった場所、胸骨と肋骨しかないはずの空洞から

未だに血がドクドクと流れ出ていたのだ


「これが…アユミの持つチートという訳か…!」

「おお…長年研究してきたが…これは見たことが無い!」


驚愕する2人だったが、他の魔族達の視線を集めていることを思い出し

取り繕う


「まだ…何とかなるかもしれん…ベロ博士! 先に行って培養槽の準備だ!」

「わ、分かった!」


ベロ博士に指示を出し、送り出したゼログニは立ち上がり

腰に手を当てて演説する


「皆聞け! 先日人間の王と平和条約を結ぶことが出来た!

魔族とサキュバス族とオーク族の人権も認められた! 人間との戦争は終わったのだ!」


「ほ、本当ですか!」

「「「うおお…やったぁぁぁ!!」」」


大多数が喜ぶ中、今回の襲撃に疑問を抱いて質問する者もいた


「それにしても…あの溶岩人形の襲撃は人間の仕業ではないのですか?」

「それはまた別の敵が現れたからだが…詳しくは後で話す

とにかく今は、人間達を刺激せぬようにな」

「ははっ!」


場を収めたと判断したゼログニは、再びしゃがみ込んで骸骨を右肩に担ぎ上げた

骨同士は不思議な力によりバラバラになることはなかった


「ゼ、ゼログニ様!? 服が汚れてしまいます!」

「構わん、俺はこの骨に用があるのだ。お前達は血を洗い落とし

見張りだけ残して帰還しろ」

「わ、分かりました…」


そう言い残してゼログニがオグホープへ歩き出した時

カラドボルグが立ちはだかる


「ゼログニ…アユミをどうする気だ!?」


もはや語尾を付ける余裕は無い


「案ずるな…アユミを遺棄するつもりはない、今死なれては困る

是が非でも復活してもらう! 魔族の技術…見届けよ」


今度こそ歩き出そうとしたゼログニを

今度は第四世代達が背後から呼び止める


「あ、あの…ゼログニ様…俺達は何か間違った事を

してしまったのでしょうか…?」


酷くおどおどした様子で伺う、先程まで血肉を貪っていた者と

同一人物とはとても思えない…そんな彼らにゼログニは

振り返って微笑みかける


「お前たちに責は無い、平和条約が周知されない内に

戦闘を行った…それだけだ」


人権の為とはいえ、先代魔王から引き続き戦争を選び

第四世代を生み出す許可を与えたのも自分

ゼログニは責任を痛感しつつ、歩き出した


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