表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
80/88

80話 意思無き物

甲板から飛び立った透明状態のアユミと、しがみついているカラドボルグは

まず自立溶岩人形達の、列の中ほどの真上に向かい

ホバリングしながら様子を見る


「うわ…」

「ニャ…」


真上から見て初めて分かるそれは行列ではなく、1列である

全ての自立溶岩人形の移動ルートは完全に同一であり、延滞もなく

まるで軍隊の行進のようで気持ちが悪い


「明らかに、操っている人がいるね」

「ニャ、でもこんな大量の人形を一度に動かすニャんて…」

「一流の魔法使いかな?」

「いや…大人数で唱える大規模な魔法かも、どっちにしろ

恐ろしい奴が敵に回ったニャ」

「うん…本当に大人数だったら迷わず引き返すとして

まずは降りられそうな所を探そう」


***


飛行して港町オゲートまでたどり着く…しかし溶岩に埋まって跡形もない

唯一、小高い丘の上にある「スーパーマーケット」だけが

溶岩に囲まれながらも原形をとどめており、その中から

1階の入口を通って自立溶岩人形がゾロゾロと出て来ているのが見える


「あの中で作られてるようだニャ」

「うん、あ…屋上に何か居る」


アユミは屋上に、魔族が数人倒れているのを確認しつつ降り立つ

溶岩から避難して来たのかもしれない

しかし、周囲から立ち昇る高温ガスによって肺をやられたのだろうか

殆どが死んでいる、もしくは助からない状態と分かり、アユミは顔を曇らせる


「アユミ、今は溶岩人形を止める事だけ考えるニャ」

「…うん」


***


1階へ続く扉の鍵は開いており、アユミが慎重に開くと

中から猛烈な熱気が噴き出してきた

火傷無効のアユミは平気だが…


「ニャアァ…すごい熱ニャ…」


金属でもあるカラドボルグは辛そうな様子だ、毛がモジャモジャになってきた


「剣になってて、僕がコールドハンドで持っててあげるよ」

「ほんとニャ!? …あぁ~快適だニャ~」


すぐさま剣形態になったカラドボルグを、アユミは右手で持ち

そのまま後ろ手に隠し持つような姿勢をとり、扉の中へと入っていった


***


1階内部では、倒れた商品棚や中身に構わず、自立溶岩人形が規則正しく歩いて

正面玄関から出て行っていた。人形が歩いた跡には、足跡代わりに

溶岩がこびり付いていた。さらに人形の出所を目で追うと

荷物搬入口らしき一角から出て来ていると分かる

そこを詳しく見る為に、アユミが溶岩付きの通路を歩いていくと…


「う…」


床には棚から飛び散って燃え尽きた商品と、そして完全に干からびて死んでいる

魔族が数人転がっていた…本来はアユミもたちまち干からびる人間だったのだが

もうこの体は普通ではないという事実を突きつけられているようで気が滅入る


アユミは首を振って気を取り直し、奥へと進む。隠し持っているカラドボルグに

自立溶岩人形が気付く様子はない


***


荷物搬入口にたどり着いたアユミは、人の気配を感じて身をかがめる

そこには白一色のフード付きトレンチコートを着た小柄な男が1人いた

彼は、被っているフードに隠れて見えにくかったが、そのとがった耳から

エルフだと分かる


奇妙な事に、彼は裸足で歩き回り、周囲の熱を物ともしていない

アユミと同じく火傷無効の能力でも持っているのだろうか?

さらに観察を続けると、足の裏を溶岩に当てて何やら念じている


念じた所から溶岩が盛り上がり、自立溶岩人形となって

正面玄関へ続く列に加わった。そこまで見た所で

アユミは物陰に引っ込んだ


「…見た?」

「ニャ…あいつが元凶のようニャ…1人のようだし、このまま倒しちゃうかニャ」

「待って…こんな大規模な事1人だけでなんて…僕が様子を見てくるから

カラドボルグはここで待ってて」

「…分かったニャ、でも熱いから早めに頼むニャ」


カラドボルグをその場に残し、アユミは荷物搬入口内を探る

「記憶能力強化」によるマッピングも行うが、他のエルフは1人も居ない

隠し部屋がありそうな空間も見つからなかった


戻る途中、件のエルフの横を通り過ぎようとしたとき、独り言が聞こえてきた


「ったく…何でこんな地味な仕事を…そろそろエンゼ陥落か

オイラも派手に爆撃したかったぜ…」


エルフは石のテーブルと椅子に座り、左手から魔法で水を出して

右手のカップに入れて飲んでいる

アユミに気付く様子はなく、そのまま通り過ぎた


***


アユミはカラドボルグのもとへ戻り、再びコールドハンドで持つ


「戻ったよ」

「オーウ…だいぶ剣先が丸まっちゃったニャ」

「ごめんって…」


見ると確かに剣先は丸まっていた。しかし杭としてならまだ使えそうだ


「本当にあいつ1人だけだった…溶岩を無効にする何かを使ってるんだろうけど

こういうのは量産化してから実戦投入じゃないの…?」

「ニャ? ミナモみたいな事言うニャア…」


大量生産の概念が無いのだろうか…ワンダラの服のバーゲンセールを経験していたが

あれは例外的なものだったのかもしれない。アユミはしばし考え


「よし…倒そう。事情がどうであれ、使えるのが1人だけというのなら

禍根は残さず、ここで確実に…やる」

「…分かったニャ」


アユミは物陰に隠れたまま、カラドボルグを右手に構える


「あいつが背を向けた時を狙うよ」


しばらくすると、水を飲み終えたエルフはカップをテーブルに置いて

立ち上がり、軽く背伸びをした…投げるなら今だ


「…フッ!」


ギュァーン!!


投擲されたカラドボルグは、轟音を響かせながら音速で飛び、フードを被っている

エルフの頭部を確実に捉えた。間違いなく頭は爆散してミンチになる…はずであった


ガイィ…ン


「ニャニィ!?」

「うおっ!? 何者だ!」


カラドボルグは、まるでバスケットボールのように跳ね返され、慌てて猫形態になって着地する

エルフの方は、フードが衝撃で千切れ飛び、本人も多少よろめいたものの、ほぼ無傷だった


「名乗る程の者じゃない…ニャ!!」


次にカラドボルグは電撃を放ち、エルフはとっさに眼前で両腕を交差して身を守る

トレンチコートの袖は焼き切れたが、その下から無傷の両腕と、2つの腕輪があらわになる


「ニャんと…」

「ふ…フフッ…さすがはアーティファクトだ…」


カラドボルグは相手の防御に圧倒されてひるみながらも、横目でアユミの方を見る

するとアユミは透明になったまま忍び足でエルフに近付きつつあるのが確認できた

ならば従者の自分にできる事は、エルフを挑発して引き付ける事のみ


「フン! 1人で守りを固めて粋がってんじゃないニャ!」

「電撃の猫…貴様はカラドボルグか! だが貴様の力をもってしても傷一つ付けられん!」


そう言うとエルフは溶岩の近くに跳躍し、両手の平を溶岩に付ける

そこから溶岩が盛り上がり、2体の自立溶岩人形となった


「フーーッ!!」


それらにもカラドボルグは電撃を放つ。しかし効果は薄いようだ

一方、2体の自立溶岩人形は、唾を吐くように溶岩弾を発射

カラドボルグは回避するも、足場が徐々に溶岩で埋まり

身動きがとりにくくなっていった


「フハハハハ!! 無駄だァ!!」


エルフは勝利を確信したのか、饒舌になり

両腕を広げながら2つの腕輪を自慢しだす


「絶対防御輪! 鉄より硬い肉体を得られるアーティファクト!

熱も雷もこの腕輪の前ではそよ風に等しい!」

「人形連鎖輪! 通常ゴーレムには1体につき1つのコアが必要…しかし!

この腕輪1つだけで! 触った物が全てゴーレムと化す!」


広げた両腕を再び眼前で交差させる


「そして2つを組み合わせれば、普段は触れない溶岩すらもゴーレムにできる!

愚かな人間共は僅かな金に目がくらみ、これらを売り渡しおった!

勇者だか何だか知らないが…価値を知らぬ愚民! 愚民よォ!!」


そう言い、右手でカラドボルグを指差すと、それを合図に

2体の自立溶岩人形がカラドボルグのもとへにじり寄っていく


「まずは貴様から血祭りに上げてやろう…いや

「物」だから血なぞ出ないか! ハッハッハッ…ハガッ!?」


大口を開けて笑い出した所で、透明状態のアユミが急接近して

自身の左手を5本の指をすぼめた状態でエルフの口内へ突き入れた

さらに間髪入れずに、右手の人差し指と中指を

エルフの2つの鼻の穴にそれぞれ突き入れてから、全力のコールドハンドを使った


「ハガッ!、ハガァッ!」


最初何が起こったのか分からなかったエルフだったが

唾液と鼻水が凍って気道を塞ぎ

窒息させられていると理解したので、強く歯を立てながら

ぼやけて見えるアユミの顔を殴り始めた


しかし、透明状態のアユミには決定打を与えられなかった

それ以前に、肉を骨からそぎ落とされる痛みを味わっていたアユミは

この程度の抵抗で怯むことはない


「ガッ…グググ…」


エルフは顔が青くなり、目が充血しだした。意識が朦朧としながらも

震える手で懐から短剣を取り出し、突き刺そうとしたが


「ガ…ヴ…ヴ…」


最初笑いすぎたのが原因か、エルフは早々に力尽きて両腕がダラリと下がり

白目をむいてアユミにもたれかかってきたので

口と鼻に入れた手をそのままに、ゆっくりと正座させるように座らせた


***


2体の自立溶岩人形の動きも止まったので、カラドボルグはアユミのもとへ駆け寄った


「やったニャ! 窒息させるニャんてよく思いついたニャー」

「あ…まぁ…ね」


地球でいじめが激化した中学生の頃、面白半分に窒息させられるのは日常茶飯事であった

しかし今わざわざ言う必要は無いと考えてごまかした


「ンー? いつまでその姿勢でいるニャ? もう死んでるんニャろ?」

「いや…僕の元居た世界では確か…息止め世界一なら30分はいけたはずだから

少なくとも1時間はこのままで…」


ギィン!!


大きな金属音が鳴り響くとともに、エルフの頭部が一瞬で凍り付いた

「絶対防御輪」が力を失い、「過冷却」の現象が引き起こされたのだ


「う、うわぁ!?」


驚いたアユミは、コールドハンドを使っていた手をひっこめた

その拍子で、エルフの体が倒れて頭部が床に叩きつけられた


バチャァ


首から上が胴体から離れて、溶岩の溜まっている所に飛び

ドロドロに溶けて無くなった

胴体は、しばらく首から血が噴き出ていたが

やがて水分を失って干からびた


「アユミ! 大丈夫ニャ!?」

「うん…びっくりした…」


アユミは胸に手を当て、心を落ち着かせてから

エルフの亡骸から2つの腕輪を取り外した

大きなヒビがある方が「絶対防御輪」だろう


「お宝ニャ♪ これを持ち帰れば評価は急上昇ニャ!」


そう言って笑みを浮かべるカラドボルグとは裏腹に

アユミは険しい表情になっていた


「カラドボルグ…これはぶっ壊そう。今すぐ」

「ニャ!? 何でニャ!」

「カラドボルグみたいに自分の意志があるか、エターナルボックスみたいに

限られた人だけが使えるのならいざ知らず…エルフみたいに悪意のある奴も

無制限に使えるなんて…危険すぎるよ」

「ニャア…王様に直接献上するんじゃダメなのかニャ?」


「インテグル博士の記録によると、偽装薬を使って人間の教会に潜入し

エルフの知識であっさりと要職につく事ができたと書いてあった…つまり

同じ手で城内に潜入するのも簡単にできて…2つの腕輪を盗み出せて

しまうかもしれない。そうなったらもう二度と勝てないね…今回は

運が良かっただけだよ」

「勿体ないニャア…」


ブツブツ文句を言うカラドボルグを尻目に、少し戻った位置で

干からびて死んでいる魔族の持ち物をあさり、大槌を取り出して

2つの腕輪を叩き壊し、粉々にした


「よっ、ほっ」


砕いた破片を溶岩の上にばらまいた後、粘土をこねるように

破片を溶岩の中に押し入れた


「これでよし…早く帰って外交官の仕事しなきゃ」

「真面目だニャア…」


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ