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78話 今再びの航路

「遅い…」


ゼログニは腕組みして苛立ちながらアユミを待っていた

出航予定時刻はとうに過ぎていた


「アユミめ…何をしている…」

「確かに遅いですね…私が様子を見てきます」

「…いや待て、あれは…」


リークルを制止したゼログニは、姿を現したギュスターヴとカラドボルグの元へ

早足で向かう。ギュスターヴは台車に木箱を載せて、押しながら歩いていた


「遅いぞ! 何をやっていた…アユミはどうした?」


まくしたてるゼログニにギュスターヴは小声で答える


「アユミは…この中だ」

「何…?」

「詳しくは出航してから話す、今は…頼む」


そう言うと、ギュスターヴは普段通りの顔になり、木箱をタラップ傍まで運び

魔族の船員に声をかけた


「遅くなってすまん! こいつも運び入れたい…手伝ってくれ!」

「しょうがねぇなぁ…ほれ、さっさと載せちまうぞ!」


木箱の重みが加わったとはいえ、大人2人なら難なく持ち運べる重さだった

一方、カラドボルグは貨物室に運ばれる様子を黙って見ていた

運び終えた頃を見て、ルードヴィッヒがギュスターヴに話しかける


「ギュスターヴ、その返り血…一体何があった? アユミは?」

「ルードヴィッヒ、あの木箱の中にアユミが入っている

だが今はその事を大っぴらにできん…すまん」


後から追いついたゼログニも話に加わる


「では…「忘れ物」は無いな?」

「ああ…大丈夫だ」

「ならば良し…出航だ!」


***


エンゼを出た2隻は、まず陸に沿って西へ進み、魔族の港町オゲートの付近まで来たら

進路を南西に向けてオグホープにたどり着くという計画を立てていた


勿論オゲートも溶岩に埋まってて補給所の役割を果たせなくなっている

では何故、最短距離の西南西へ進路を向けないのか…その理由は

横断する海域を航海した事がなかった為である

今は新たな航路を開拓する余裕などなく、魔王ゼログニも乗っている

必ずオグホープに帰還しようという思いが強かったのだ


***


出航時間が遅く、少ししか進めなかった2隻は、ヒュージリバーと城塞都市グルーの

間に来た所で夜になったので、錨を下ろして停止した


食堂にて、5人の駐在武官と魔族の船員達が双方の名物を食べ比べていた


「この干し肉、うまい…しかもこの量…魔族の方は牧畜が盛んなのか?」

「まぁな! しっかし人間の方の魚の干物に燻製もなかなかいけるぞ

俺達も作ってはいるが、大雑把なもんでなぁ」


こうして双方が歩み寄っている一方、貨物室では密かにゼログニ、カラドボルグ

ギュスターヴ、ルードヴィッヒが集まっていた。ギュスターヴの後方には

件の木箱が置かれている


「…よし、アユミ良いか? 開けるぞ」

「はい」


アユミの声を聞いてルードヴィッヒとゼログニは険しい表情になる。ギュスターヴは

小型のバールを取り出し、上蓋を慎重にこじ開け、中身を全員が覗き見る


何枚も底に敷かれた布の上に、麻袋から頭だけを出して横になっているアユミの姿

それらは麻袋から漏れ出た血で赤く染まっていた


「調子はどうだ? 起き上がれそうか?」

「いえ…まだお腹がジンジンします…今起きたら内臓が飛び出そうです」

「分かった、無理せずそこで聞いててくれ」


ギュスターヴはルードヴィッヒとゼログニに向き直る


「アユミは…外交官用の礼服に着替えようとしていたんだが、少し目を離した隙に誘拐され

骨が見えるまでズタズタに引き裂かれていた…「不老不死」じゃないと絶対助からない程にな」

「なんと…! 一体誰がそんな事を!?」


ルードヴィッヒがギュスターヴに詰め寄って問う


「恐らく、アグリー・バーンの私兵にやられた…そうだな? アユミ」

「はい」

「アグリー…バーン家の次男坊か!? 名家のはずが、なぜ…」

「前線にずっと居たら知らないだろうが…アグリーはエンゼで散々好き勝手やって

愚か者の悪評が付き、陛下からの信用も地に落ちていた」

「そうだったのか…」


ルードヴィッヒは俯き、傍で聞いていたゼログニが口を開く


「ふむ…そのアグリーとやらは反体制派か…それとも魔族との平和条約を拒む強硬派といった所か?

この時期にアユミを害すれば魔族の仕業に見せかける事も容易い」


アユミが答える


「いいえ…今回の事は単に僕への復讐でしょう…決闘裁判でアグリーを打ち負かし

強姦に及んで出来たヘンリーをキャリー夫人に暴露したりと…恨みはいっぱい買ってます」

「何…? そんな個人的な感情で…本当に愚か者ではないか」


ゼログニが驚く中、アユミはさらに続ける


「皆さん…勘違いしないでいただきたい事は、バーン家の中でもアグリーとその私兵だけが

異常だという事…彼の母親であるキャリー夫人と、彼の息子であるヘンリーは

何の関係もありません…それにそもそもアグリーはエルフによって殺されています」


ギュスターヴも驚く


「な…死んでいた…本当かアユミ!?」

「はい、例のエルフから奪った資料の中に書いてありました」

「そうか…急いでいて細かい所まで見ていなかった…」


ゼログニは腕組みしながらこう切り出した


「バーン家とやらの事情は分かった…で、俺達に何をしろと?」

「いえ…このまま何事も無かったかのように外交を執り行って下さい

人間の駐在武官…魔族の船員達…誰にも僕の怪我を知らせずに」


ゼログニとルードヴィッヒは一瞬目を見開くも、安堵の表情に変わった


「僕のせいで、せっかくの平和条約が消えるなんてあってはダメです

あとキャリー夫人とヘンリーの名誉を傷付けるのも我慢なりません

僕が痛みを我慢してれば丸く収まるんです

何せ「不老不死」…ですから」


アユミが自傷気味に笑うと、ギュスターヴとカラドボルグは悔しそうな表情を浮かべ

ゼログニとルードヴィッヒは頷いて言った


「いいだろう、残酷なようだが、外交するにあたって都合が良いのも事実だ

船員達に聞かれたらごまかしておこう」

「私も、あの5人には伏せておこう…と、そうだ、私の飲み薬を置いておこう

その傷では気休めかもしれんがな…」

「ありがとうございます」


そう言いながらルードヴィッヒは木箱の中の、アユミの顔の前に薬の瓶を置いた

そしてギュスターヴが場を仕切る


「よし、そろそろ解散しよう。他の船員が来ないとも限らん」


そう言うと、ギュスターヴは木箱の蓋を閉めた


「吾輩がずっと傍に居るから心配無用ニャ」

「頼むぞ…起き上がれるようになったら服とか持ってくるからな」

「わかりました」


3人は貨物室から出ていき、カラドボルグは剣形態になって

木箱の横の目立たない位置に移動した


「僕の為にいろいろしてくれて、ありがたいね…」

「ありがたい~? それはコッチのセリフニャ…いいから休んで、早く治すニャ」

「うん…おやすみ…」


アユミは飲み薬を少量口にして、目を閉じた

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