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77話 血の海事件

雨が上がり、正午になった頃、エンゼの港内では2隻の魔族の船が出航の準備に取り掛かっていた

火龍による爆炎から運よく難を逃れた船であり、1隻は魔族の兵士だけが乗り

もう1隻には魔族の兵士の他に、ゼログニ、アユミとカラドボルグ、ギュスターヴと

ルードヴィッヒ、そして他に5人の駐在武官が前もって選ばれ乗船することになった


しかし、魔族全員を乗せる程の余裕はなく、サキュバス部隊を始めとした半数程は

オグホープから船を調達する間エンゼに居残る事になった


***


魔族の船員がタラップを伝って荷造りをしている傍で、ゼログニがリークルと話している


「では行ってくる。できるだけ早く迎えの船を行かすが、6日はかかるだろう

それまでは…頼むぞ」

「はい、分かりました」


2人に笑顔は無い。人間達と諍いを起こさない事、いざとなればサキュバス部隊だけで

エンゼを脱出する事、2つの重要な密命がリークルに課せられているのだ


***


一方、5人の駐在武官も緊張の面持ちで、ルードヴィッヒが

解きほぐそうと語り掛けている状態だ


「皆、何も取って喰われるわけではない、ちゃんと話は通じる

過度に恐れるな…でも慎重にな」


5人は黙って頷く


「さて…アユミ達はまだか…っと、女性の身支度には時間が掛かるものであったな」


***


城内の湯浴み所前にて、ここは負傷者の傷を清潔にする為に、入室人数を制限しており

通路のように負傷者で埋まってはいない。その一角にて、アユミは

壁に掛けられている女性物の外交官用の礼服を見ていた


「僕には勿体ない位、立派な服だぁ…」


その呟きに、傍にいるカラドボルグとギュスターヴが突っ込む


「アユミ、せっかく地味な服から抜け出せるんニャから、胸を張るニャ」

「そうだぜ…それに殿下直々の指名なんだから、顔を立ててくれよ?」

「はい…」


その時、見知らぬメイド服の女性が近付いてきた


「アユミ様ですね? これからお清めいたしますので、殿方はご遠慮ください」

「あ…」


別に良いのに…と言いかけたが、アユミは黙った。そういえば自分は女なのだった


***


湯浴み所内にアユミとメイド服の女性が入る。何故か他に人は居ない

それを不自然に思うことなく、アユミは鍼灸ワンピースを脱ごうと襟元を掴んだ

…その時である


「ふぐうっ!?」


メイド服の女性は、素手でアユミのみぞおちを強打した。突然の事に成す術が無く

アユミは意識を失い倒れた。その後、アユミを麻袋に入れて、換気用の窓から外に出た

ドラゴンゾンビの片付けに追われている中、麻袋を担いだメイド服の女性を

止める者はいなかった


***


メイド服の女性は、火龍の絨毯爆撃から逃れた建物の1つにアユミを運び入れ

そこで合流した男2人と協力して、扉と窓を閉めて明かりを灯し、アユミを麻袋から出し

さるぐつわを嵌め、両手足を壁に固定されている枷に嵌めた


「クックックッ…」


そして3人は、両手にそれぞれ刃物を持ち、邪悪な笑みを浮かべながら

まず男2人が分担してアユミの首と左胸に突き刺した


「ングウゥゥ!!」

「アグリー様の仇ィ!!」


そう叫ぶ男2人は、アグリーの私兵だった。それを確認したアユミは次の瞬間には白目をむいた


「貴様のような女狐が殿下の寵愛を受けるなどォ!!」

「アグリー様に謝罪しろォ!!」

「死ね! 死んでしまえ!!」

「……」


刺したままにしたアユミの首と左胸から、とめどなく大量の血が流れ出る

そのまま3人は3方向からアユミの身体を夢中で切り刻み始めた


***


一方カラドボルグは、なかなか湯浴み所から出て来ないアユミにしびれを切らし

そろりそろりと様子を見に来た


「アユミー? いつまで洗ってるニャー…ニャ?」


周囲を見回すが、影も形も無く、慌てる


「ギュスターヴ! アユミが居なくなってるニャ!!」

「なっ、何ィ!?」


椅子に座っていたギュスターヴは慌てて立ち上がり、湯浴み所に入り

換気用の窓から外を見回す


「まさかあの女が…?」

「あれから何分経ってるニャ…マズイニャ!!」


***


カラドボルグとギュスターヴは城の門まで走り、槍を持つ門番に尋ねる


「オイッ! アユミを見なかったニャ!?」

「へぇっ!? い、いやぁ…ちょっと…」

「違う違う! 怪しいメイド服の女を見なかったか!?」


ギュスターヴの言葉に、門番は思い出したような調子で言った


「そういえば…大きな麻袋を担いだ女なら先程向こうへ歩いていきましたよ」


そう言いながら門番は、火龍の絨毯爆撃から逃れた建物群の方向を指差した


「そいつニャ! アユミは袋詰めにされて誘拐されたのニャ!」

「ゆ、誘拐!? そういえば子供くらいの大きさだったような…」

「助かった! 行くぞカラドボルグ!!」


***


3人がアユミを切り刻み始めてから5分、最初の内は夢中だったが、切り刻み疲れた頃

その違和感に気付く


「おかしい…おかしいわ」

「なぜ…血が止まらない…?」

「…!? 足が…!」


通常、首と心臓を刺されたら最初だけ血が勢いよく噴射するが、その後は勢いが無くなり

少量がダラダラと垂れるものだ。しかし、未だに血が勢いよく噴射し続けている

刃物は刺したままにしているので「健康な肉体」の効果でも出血は止まらない

そして、アユミの血が部屋に溜まり、3人の足首まで浸かる程になっていた

更に、言葉は発せられないが、アユミのあごが今も食いしばるように自発的に動いている


「ば、化け物め!!」

「どうするのよ!?」

「に、肉をそぎ落とせば何とかなるだろ!」


3人は、刃物を片刃のナイフに持ち替え、片手を峰の部分に添えて

肉を骨からそぎ落としていく。加えてアユミの下腹部から大腸を始めとした臓器を

引きずりだして切除し、血の海に放り投げる。だが「骨折無効」の効果により

手足の切断はできず、肋骨も折れないので肺や心臓を切除する事もできない

背骨横から腕を突っ込みかき乱すも、もぎ取ることはできなかった


その間にも、血は勢いよく噴射し続けて遂に膝まで浸かる程になっていた

いよいよもって3人の焦りは頂点に達した…その時である


ミシ…ミシ…バキィ


「「「!?」」」


3人が振り返ると、閉めていた扉が誰も居ないのに壊れ、血液が外へ向かって流れだしていた

膝まで浸かる血液による水圧が、扉に一極集中した為である

アユミを闇へ葬る目的だった3人は、事が露見し自らが糾弾されるのを恐れ


「くそぅ…ここまできて…」

「に…逃げるぞ!!」


そう言うと、アユミを置いたまま裏口から外へと逃げ出した。当然、片付けをしている者達に

膝まで血で汚れた姿を見られるが、ドラゴンゾンビ周辺の惨状に比べたら

大した事は無いと見られていた


「何だあいつら…トカゲ肉の解体に失敗でもしたか?」


3人が姿をくらまし終え、建物内から野外へと血があふれ出すまでは


***


カラドボルグとギュスターヴは、アユミとメイド服の女性を探して街を駆ける

程なく、火龍の絨毯爆撃から逃れた建物の1つに野次馬が集まっている事に気付く

彼らは、建物から溢れ出る赤い血と、共に流れてきた切除された内臓を見て悲鳴を上げる


「うっく…この臭い…血か!?」

「あれは…うっ、うげぇっ!!」


グロテスクな物を見て吐き気を催す者もいる中

カラドボルグは血の臭いを嗅ぎ、アユミの血だと確信して建物内に先行する


「ギュスターヴ! アユミの臭いニャ! 早く来るニャ!」

「おっ、おい!」


ギュスターヴは野次馬達をかき分けて進む


「どいてくれ! 道を開けてくれ! こっ、これは…」


もはや人間100人分を優に超える血液量に一瞬たじろぐが、気を取り直して野次馬達に言う


「俺が様子を見てくる! 皆は冒険者ギルドか…兵士でもいい! 応援を呼んでくれ!」

「は…はいぃ…」


***


外に血液があふれ出た関係で、水深が足首あたりまで下がっていた建物内を進む


「おーい! 居るかー!?」

「ギュスターヴ、こっちニャ!」

「…!!」


先行していたカラドボルグの元へ駆けつけたギュスターヴは、思わず息を飲む

手足は拘束され、首と左胸に刺さったままの刃物、そこから勢いよく出続ける血

ズタズタになった鍼灸ワンピースの間から見える内臓、骨

どう考えても助からない…


「ギュスターヴ! 早く刃物を抜くニャ!!」

「わ、分かった! 今抜くぞ!」


ギュスターヴは我に返り思い出した。アユミは「不老不死」だという事を

難なく2本を抜くと、流れ出ていた血はようやく、ゆっくりと止まった

代わりに浸出液がジュクジュクとにじみ出てきて、失われた内臓を

ゆっくりと再生しているように見えた

骨が見えている腹部からは未だに血が出ていたが…


「アユミ! 今自由にするからな!!」


ギュスターヴは、声をかけながら手足の拘束を外し、さるぐつわも取り外し

アユミを腕に寄り掛からせる。白目をむいていたアユミだが何とか語り掛ける


「ギュ、ギュスターヴ…さん、頼みがあるん…ゲホッ」

「ど…どうした?」

「ハァ…ハァ…僕を…このまま何事も無く…船に乗せて…」

「な…!?」

「こんな…傷とか見せずに…さぁ…」

「それより犯人は誰なんだ!?」

「頼みますよ…バーン家の名誉の…ために…!」

「…くっ」


その言葉で事情を察したギュスターヴは一瞬瞑目してからカラドボルグの方を向いた


「分かった、俺が何とかしてやる…カラドボルグ! アユミを包む布が欲しい!

この家からかき集めてくれ!」

「分かったニャ!」

「アユミ…少し我慢してくれよ!」

「はい…」


ギュスターヴは、アユミを抱き上げて血の無い部屋に移し、カラドボルグの咥えてきた衣服を

胸から下へと巻き付けてミイラのようにし、傍にある表面が血で汚れた麻袋を裏返してから

アユミを入れて担いだ


***


そのまま外に出たギュスターヴは野次馬達に言った


「お前達! 不安の元は取り除いた! もう安心して良いぞ!」


それを聞きざわめく野次馬達の中から、リューツが歩み出た


「ギルドマスター!? こんな所で何を…」

「リューツか! ちょうど良いところに…ちと厄介な人間を相手にしてな

俺は船の出航までもう時間が無いから急がないといかん、後始末を頼む!」

「こんな状況を…ハァ…分かりました。後できっちり説明して下さいよ!」


そしてその場から離れたギュスターヴとカラドボルグだったが

少し移動した所で、後ろを歩くカラドボルグが気付く


「ギュスターヴ…血が染み出してるニャ」

「くっ、ダメか…なら木箱に入れて積荷として出すしかないな」


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