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76話 二国間交流の始まり

早朝、ベッドにうつ伏せで寝かされていたアユミは、激しい雨音で目を覚ます


「んぅ…」

「お、目が覚めたニャ?」


寝ぼけ眼でぼやけた視界…しかし、アユミの顔を覗き込むカラドボルグの顔は分かった


「おはよ…」

「ちょっと待つニャ、今シズカを呼んでくるからニャー」


カラドボルグはそう言うとアユミの視界から離れた

アユミは、うつ伏せになっていた自分の体を起こそうと手をつくが


「んぎぎっ…!? くうぅ…」


背中から痛みが走り、再び突っ伏した。背中にガラス片が刺さった状態で吹き飛ばされた為

深手となり、「健康な肉体」の自然治癒能力向上をもってしても治りきっていなかったのだ

背中に当てられている布と包帯に血がにじむ


「はぁっ…はぁ…」


完全に目が覚めたアユミが辺りを見回すと、壁面と調度品から城内の賓客用の部屋だと分かった

しかし、部屋中に座っている包帯を巻いた兵士達により、厳かな雰囲気は無かった

どうやら救護室が足りないので、城にある部屋は全て使う方針のようだ

アユミは声を上げた事に気まずさを感じ


「す、すみません…」

「……」


兵士達は一瞬アユミを見るが、すぐに興味を失ったように視線を外した

僅かにうめき声を出す者はいたが、皆自分の怪我の痛みに耐えるのに意識が向いており

たしなめる者は居なかった


***


「待たせたニャ」


アユミがうつ伏せで動かずにいると、カラドボルグがシズカと…ギュスターヴも連れて来た

シズカは、背中の布と包帯に血がにじんでいるのを見て


「動いちゃったのね…でも大丈夫、ヒール!」


背中に回復魔法を使ってから、ゆっくりと布と包帯を取り換える

痛みは治まったが、アユミは他の兵士達が居る中で自分だけが優先的に治療された事に

申し訳なさを感じていた


「僕は不老不死ですし、自然に治るから薬とかが勿体ないですよ…」

「アユミちゃん、そんな事言わないで…」


ギュスターヴがアユミの近くに寄って話す


「アユミ、これからディーン殿下に謁見してもらう事になった

御前に血塗れのまま行くわけにはいかんだろう」

「あ…」


ここでヴィガ王の名が出ないという事は、やはりもうお亡くなりに…そう考え

アユミは暗い顔になって頷く


「はい…言う通りにします」


***


包帯を巻かれ、用意された新しい鍼灸ワンピースを上から着たアユミは

自分の足で歩いて賓客用の部屋から出た


「う…」


通路にも負傷兵達が座って居て、応急手当だけされて治療を待っている状態だった

兵達だけでなく、火龍による爆炎に追い立てられた一般市民達も含まれていた

衛生兵達が治療して周っていたが、明らかに人手が足りていない

アユミは少し呆然としていたが、負傷者達を見ないように謁見の間へと急ぐ事にした

そんな時、奥から子供の泣き叫ぶ声が聞こえてきた


「お父さん! 死んじゃやだぁ! お父さぁぁん!!」


見ると、1人の男の腕と足を2人の衛生兵が協力して持ち上げて歩き

その横を1人の子供が泣き叫びながら、男にすがりつくように歩いていた

その様子を見て、アユミは涙が止まらなくなった


***


謁見の間の前、ここには負傷者はおらず、アユミは涙をぬぐって

心を落ち着かせようとする。しかし相変わらず暗い顔のまま、ぽつりと呟く


「…僕がエルフの企みを甘く見たせいでこんな…ことに…」

「今更何言ってるニャ! こんニャ事、誰が想像できるニャ!」


アユミは自分の身体を抱くようにして、震える


「こ…こんなに犠牲者出すんじゃなく、もっとうまい方法もあったはず…

ヴィガ陛下もな…亡くなられたのでしょう? あ…」


震えは治まり、手はおろして真顔になる


「はは…国家反逆罪で極刑だぁ…死ねないから永遠に幽閉かなぁ…あはは…」

「…アユミ? しっかりするニャ! アユミ!!」


カラドボルグは前足を上げて、アユミの目の前でバタつかせるが

アユミは瞬きすらせずに張り付いたような笑みをうかべたままであった

その様子を見ていたギュスターヴはシズカに耳打ちをする


「シズカ、先に行って殿下に報告を」

「…はい」


シズカは謁見の間の中へ行き、ギュスターヴはアユミの横に立ち、肩を掴んで

自分の正面を向かせた


「アユミ、たられば論で落ち込む必要は無いぞ。お前の情報が無ければ

噴火で更に多くの死人が出て…マイフォの獣人達は間違いなく絶滅していたぞ」

「それはバローさんの手柄です。僕では1人も避難させられなかったでしょう」


「む…それにアユミ、ガラスの塊に閉じ込められたまま冷気を出し続けていただろう?

あれのお陰で溶岩がせき止められて、火龍の動きを封じ込める事ができた」

「でも止めを刺したのは別の方…僕は冷気をだしっぱなしにしたまま気絶してて

何もできていませんよ」


「何も…って、分からず屋め…」

「さぁ行きましょう、殿下をお待たせしちゃう…」


アユミは真顔のままフラフラと歩き出した。謁見の間を塞いでいた衛士も思わず脇に避けた


***


謁見の間の様子は、割れた窓の破片は片づけられ、巨大な宝玉は再び天井に収納されていたが

窓の代わりと、ヴィガ王の吐血の跡までは対処されていなかった

玉座に座るディーン王子を始め、冒険者ギルド職員、教会の聖職者、ヒュージリバーの五人衆、魔王と

そうそうたる顔ぶれが揃っている。ヴィガ王の姿は無い


「…」


彼らと兵士達から向けられる視線に圧力を感じたアユミは、謁見の間に入ってすぐの所で土下座した


「アユミ、もっと前に行くニャ」

「しっかりしろ…悪いようにはされん」


ギュスターヴはアユミの身体を背後から抱き上げて起こし

手を取って玉座の前まで移動させてから、ディーン王子に対して跪いた

アユミも改めて土下座した。カラドボルグは後からついてきて普通に座った


それを見てディーン王子が話を切り出す


「アユミよ、仔細はギュスターヴ達から聞いている。此度のエルフの企みを事前に察知し

民に避難を促した事、溶岩を体を張って受け止めた事、そして火龍も1匹仕留めた…

素晴らしい働きだ!」

「え…?」


アユミは思わず顔を上げて呆ける


「これらの働きに報い、褒美を授けよう! 望みを言うが良い!」

「し…しかし、私は国王陛下を死に追いやった極悪人…そのような者には

褒美より…きょ、極刑を下すべきなのでは…」


震え声で言うアユミに対し、ディーン王子は険しい表情になって言った


「…見くびるでない!」

「っ!?」

「我が父王ヴィガ・エンゼは、その命を自らの意思で国に捧げたのだ!

それを1人の少女が生き死にを好きにできるなぞ、片腹痛い!

その言葉…たとえアユミでも許さんぞ!!」

「もっ、申し訳ありまっせんッッ!!」


アユミはさらに深く土下座をした。勢いで頭が絨毯にめり込み、鈍い音を出し

腰が上がって前転しかねない程だ。ディーン王子は軽く咳払いをして続けた


「父上は…感謝していたぞ。そなたが溶岩を一身に食い止め、「絶対防御魔法」の

負担を和らげたから、最期に…魔族と首脳会談ができたのだ

よってこの褒美は我だけでなく、ヴィガ・エンゼからのものでもあるのだ」

「陛下が…」


アユミは恐る恐る顔を上げながら呟いた。その横から

カラドボルグが小声で語り掛ける


「アユミ、ここまで言われちゃ褒美を受け取らニャいと失礼になるニャ?

早く望みを言うニャ」

「そ…そうだね…ううん…」


アユミは俯いて考える。最初に思い浮かんだのは、火龍に投げ当てて失った金床だった

しかし、こういう時に金で買える物をねだるのは違うと思い直し、更に考えた


そして…先程通路で見かけた、1人の男の腕と足を2人の衛生兵が協力して持ち上げて歩き

その横を1人の子供が泣き叫びながら、男にすがりつくように歩いていた光景を思い出し

その涙がヘンリー・バーンを想起させた


考えをまとめたアユミは正座しなおし、ディーン王子の目をまっすぐ見て言った


「では、キャリー夫人に恩赦をお与えください!」


ディーン王子は一瞬だけ、意外そうな顔をした


「むっ、そなたはこの機会を他者に譲ろうというのか?」

「キャリー夫人の孫…ヘンリー・バーンに笑顔が戻る事こそ、私の幸せでございます」


ディーン王子は大きく頷いた


「あいわかった! 速やかにそのようにしよう!」

「ありがとうございます!」


アユミは改めて頭を垂れた


「さてアユミよ、話は変わるが、そなたにやってもらいたい事がある!」

「はい」


アユミは顔を上げて聞く


「魔族とは平和条約を結ぶことが出来たが、200年間国交が無かったから

ほぼ未知の土地に駐在官を送る事になる…非常に難しい任務だ

そこでアユミに白羽の矢が立った」


ディーン王子が言い終わると同時に、ゼログニが発言した


「アユミの姿は、オグホープの連中によく知られている。見知らぬ人間だけが

派遣されてくるより警戒しなくて済むだろう」

「…」


アユミは少し硬い表情になるが、構わずディーン王子が発言した


「聞いての通りだ。この役割は永遠に続くわけではない、互いの交流が

順調に動き出すまでの任務だ…引き受けてくれるな?」


オグホープでの思い出は良くないものが多い。しかしアユミは

苦手意識よりも使命感が先に立った


「…謹んでお受けいたします」


***


謁見が終わり、部屋から出たアユミにカラドボルグが頬ずりした


「アユミィ♪ キャリーを助けてくれて嬉しいニャー♪」

「うん…」


アユミは微笑を浮かべながらカラドボルグを撫でる、そこへギュスターヴが語り掛ける


「アユミ、これは今更だが…実はキャリー夫人に恩赦を与えようという動きは

既に水面下で進んでいたんだ」

「ニャんと」

「そうだったんですか…でも恩赦は早い方がいいですよね?」

「ま、まぁ…そうだな」

「バーン家にはキャリー夫人が必要ですし、何もおかしな事じゃありませんよ」


アユミは軽く流し、カラドボルグと一緒に賓客用の部屋へ戻っていった


「優しい奴め…ったく、都合良すぎて心配になるぜ…」


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