75話 敵を認識する
火龍に乗って北から南へ絨毯爆撃をし終えた5人のエルフが東海岸側に回り込んでいる最中
「ハッハッハ! 害虫駆除は気分がいい!」
「だが城には大した被害は出なかったな…人間のくせに生意気な」
「城を砕けないのなら、それ以外の全てを粉砕すれば良い。城だけが残っても
それはただの形骸だ」
「いいな! 城だけ残してやるか? 無知で愚かな人間には似合いの結末だな!」
「その辺りは各々に任せる、予定通り東から西に向けて絨毯爆撃し終えたら自由行動だ
再び行くぞ!」
「「「「エルフ以外を根絶やしに!!」」」」
エルフ達は火龍を操作し、同じ様に絨毯爆撃作戦を展開した
市民の店も貴族の屋敷も教会本部も、等しく爆炎に包まれていった
そうして、また1体が謁見の間の横から火球を発射しようとした…その時である
「オラァ!!」
「グギャァァァ!?」
「なんだ!?」
謁見の間の屋根の上に潜んでいたゼログニが飛び降り、火龍の頭部に強烈なキックを食らわせたのだ
火龍は脳震盪を起こして地面に落下していく…乗っていた1人のエルフは飛び降りようとするが
ゼログニがエルフの首根っこを掴んで火龍に押し付け、一緒に地面へ落とさせていった
「グハァッ!」
ゼログニは首根っこを掴んだまま掲げる…他のエルフが助けに来る気配はない
「ふん…随分と薄情な連中だな」
「き、貴様は魔族! な、何故ここに!?」
「説明する気は…無い!!」
ゼログニはエルフの胸部に腕を貫通させ、心臓を掴んで潰した
エルフは僅かに痙攣した後、力なく赤い血を流すだけの骸となった
その様子を、爆炎に追い立てられた人間達が遠くで伺っているのが見えたので
ゼログニは掲げたまま声を上げる
「人間達よ! こいつが火龍に乗ってお前達の街を破壊した種族…エルフだ!
俺達…魔族の街をも壊滅させた不倶戴天の敵! もはや人間と争う理由は無くなった!」
聞いた人間達は、まだ訝しげにゼログニを見ている。その中から
ゼログニは「ギュスターヴと同じ服装」の2人に目星を付けた
矢と薬の調達に奔走していたリューツとジェニファーである
「そこの2人!」
「!?」
ゼログニはエルフの死体を2人の足元へ投げた
「そいつの後始末は任せたぞ! それなりの組織の者であろう!?」
「わ、わかりました。私達は冒険者ギルドに所属している者です、貴方は一体…」
「俺は魔王ゼログニだ」
ゼログニは偽ることなく自信満々に言った。遠くで伺っている人間達は
小さな悲鳴をあげて身構える
「お前達が疑心を抱くのも当然…ならば奴を討ち果たし、終戦の証としよう!」
ゼログニが指差した先では、脳震盪から復帰した火龍がよろよろと起き上がって睨みつけていた
それに臆することなくゼログニは手を返して、指を上向きにして手招き…挑発をした
「グガアアア!!」
程なく両雄は激突した。しかし戦いは一方的なものであった
「フン! どうしたどうした!」
ゼログニは、火球を回し蹴りで切り裂き、火龍の鼻っ柱を素手で殴って流血させる
火龍はやぶれかぶれに前足の爪を繰り出すが、ゼログニは赤子の手をひねるかのように受け流す
鱗に覆われた巨体なので完全に仕留めるのには時間が掛かる…だが脅威はそれだけであった
***
一方、東から西へ絨毯爆撃し終えた4人のエルフは、最初に爆撃した北に向かって
移動しつつ話し合っていた
「1人やられてしまったか…」
「だが死は無駄ではない、高い建物に寄らなければあのような強襲はできまい」
「おい、それより見ろ! 魔法で溶岩を固めているぞ!」
「ククッ…火球を落としてくれといっているようなものだな」
エルフ達は、気味の悪い笑みを浮かべながら、北側へ火龍を移動させていった
***
その頃、アユミはシズカの手を借りてガラス片を抜いていたが
未だに背中までは取りきれずにいた。アユミが上空を見ると
火龍が戻ってきており、また火球を落とすのだろうと予想できた
「カラドボルグ…投げるよ…」
「…分かったニャ!」
「アユミちゃん、まだ動いちゃ…」
シズカの制止を無視し、剣形態になったカラドボルグを掴むと
痛みに耐える為に歯を食いしばりながら、大きく振りかぶって「投擲」した
怪我しているにもかかわらず速度は変わらず、轟音をたてて飛んでいく
***
どの火龍もエルフも、アユミの投げる速度に反応できないまま、1体の火龍の
下顎にカラドボルグが鋭く突き刺さり、それと同時に電撃を放つ
ギュアーン!!
「ゴガアァ…」
「グ…ア…何…だと…?」
遅れて轟音が鳴る頃には、すでに1体の火龍の脳は焼かれ、乗っていた1人のエルフは
カラドボルグが放出し続ける電撃で筋肉を動かせないまま落下し、頭から地面に激突した
もちろん即死である。残った3人は、このような光景を見たにも関わらず冷静であった
「人間のバリスタか!?」
「…発射位置を特定した! 俺に合わせて撃ってくれ!」
「よーし! さっさと潰すぞ!」
***
アユミに向かって3つの火球が正確に飛んでくるのが見えたので
アユミはとっさにシズカを自分の後ろに突き飛ばしてから
火球を迎え入れるように手を広げて火球の前に立った
「きゃっ…アユミちゃん!?」
アユミの体は、3つの火球が直撃した衝撃で派手に吹き飛び、地面に叩きつけられて気絶した
***
3人のエルフは、バリスタのような大掛かりな装置が破壊されたかどうかを確認するため
地上で燃えている付近を探しているが、見つけられずにいた。まさかアユミのような
小柄な少女が何の装置も使わずに投げたとは夢にも思わなかったのだ
「どこだ!?」
「…見つからん!」
「一旦離れて他の場所を爆撃すべきか?」
エルフ達は地上に意識が向いていた為、更に上空の方から近付く人影に気付くのが遅れた
「…!?」
リークルが率いる夜の住人、サキュバス部隊であった
「「「テンプテーション!!」」」
サキュバス達は空中で各々艶かしいポーズを取りながら、妖しい桃色の光を放った
エルフ達だけでなく火龍も、彼女達から目が離せない
「ゴガアアア!?」
「うおおおお!?」
「オッ!? オオッ!?」
「オアアアアー!!」
エルフ達は情けない声を上げ、服から染み出る程の白濁液を下半身から出しながら
火龍からずり落ち、内2人は地面に強く叩きつけられて死亡した
主を失った火龍達もサキュバス達の特技にやられ、前後不覚になり
でたらめに翼を動かしながら墜落した。さしもの火龍も衝撃でぐったりしている
「地面に居りゃこっちのもんだ!」
動向を探るために高台に上っていたジュンヤが、1体の火龍の頭部目掛けて飛び降り
その勢いのままアイを脳天に突き刺した
「ガアアッ!?」
刺されてもまだ生きている。火龍はジュンヤを振り落とそうとするが
「怪力」持ちのジュンヤが離れることはなく、刀身から炎を出して
脳を直接焼いて息の根を止めた
「ジュンヤ様! こちらもお願いします!」
「待ってろ! すぐ行く!」
そこでは、人間の兵士達が溶岩を冷やし固め終え、その魔法を1体の火龍に向けて動きを封じていた
お膳立ては整っていた為、ジュンヤは難なくもう1体の火龍を仕留めることができた
***
「くあっ…くそ…」
とっさに魔法で、受け身を空中で取れたエルフ1人が、頭を抱えながら火龍に手を突き
よろよろと立ち上がる。なんとか生きているがもはや満身創痍であり、その周囲を
人間の兵士達が取り囲み、剣を向ける
「侵略者め! 大人しくしろ!」
「侵略者だと…森を、我らの集落を襲撃した貴様らがそれを言うのか!?」
エルフは兵士達を睨みつけ、懐から怪しげな注射器を取り出し、そばにいる火龍に投与した
「もはやこれまで…我らの研究成果を見よ!」
「ガアッ…ガフッ…ゴガアアア!!」
「なっ、何を!?」
投与された火龍は苦しみのたうち回り、その姿を大きく変えていった
皮膚は黒ずんで壊死し、内臓は腐ってはみ出した。眼球は陥没し
骨が皮膚を突き破って出た。それは「ドラゴンゾンビ」と呼ぶに相応しい
おぞましい姿となり果てていた。兵士達が動揺して後ずさる
「行けェ! 全てを汚染しろ!」
「ゴフォォォ…」
ドラゴンゾンビは、火球の代わりに黒いガスを口から噴射して周囲にまき散らした
「フハハハハ…ハ…」
「なっ…ぐっ…ぐああ…」
エルフは満面の笑みを浮かべながら息絶え、その体は黒く変色しながら腐食していき
取り囲んでいた兵士達も、知らずにガスを吸い込み、首を抑えて悶え苦しみながら倒れた
別の火龍に止めを刺していて、ドラゴンゾンビから離れていたジュンヤは
左腕の袖で自分の口を覆って伏せる
「この黒いガスは…毒か!? くそっ…近づけねぇ…」
「ジュンヤ! 私をあの龍に向かって投げて! 私なら毒は効かないはずだから…」
「姉貴…すまねぇ、頼む!」
ジュンヤはそう言うと、アイをドラゴンゾンビに向かって投げた
アイは刀身に自らの魔力で炎を纏わせながら、ドラゴンゾンビの体を周回しながら飛び
「留置」の能力を使った。するとまき散らされた黒いガスは、豆粒のような固体となって
地面に落ち、飛散する事はなくなった
「ゴフォォォ…」
「くうっ…次から次へと…!」
ドラゴンゾンビが呼吸するたびに黒いガスがまき散らされる為、その度に「留置」し
アイはなかなか攻めに転じる事ができずにいた。その時である
「フーーッ!!」
戻ってきたカラドボルグがドラゴンゾンビに電撃を浴びせたのだ。腐った筋肉に作用して
ガスを吐く息が止まる
「カラドボルグちゃん! よーし私も…やーっ!!」
アイは、自らの切っ先をドラゴンゾンビの口に向け、そのまま突っ込んだ
「ゴ…フ…ゴ…」
喉の奥に突き刺さって焼け、それ以上黒いガスが吐き出されることはなくなった
「よくやったニャー! これで軍隊が近付けるニャー!」
その言葉と共に、ディーン王子率いる隊がマスクを着けてやってきた
「衛生兵以外は抜剣! 衛生兵は解毒薬を準備して待機!
速攻で切り刻め!」
「「「イエッサー!!」」」
ドラゴンゾンビはでたらめに踏み付けて抵抗するが、火球も毒ガスも出ないデカブツに
後れを取るような兵士達ではなく、みるみるうちに切り刻まれ、解体されていき
支えを失ったドラゴンゾンビの体躯は地面に突っ伏した
「よし! 全軍後退! 腐った肉はフレアで焼き尽くせ!」
「「「イエッサー! フレアー!!」」」
「私も…フレアー!!」
兵士達の魔法に合わせてアイも刀身を燃やす
元は火龍であったが、問題無く焼けて消し炭になっていった
「ゴ……フ……」
完全に燃え尽きる直前、ドラゴンゾンビの陥没した眼から血の涙が流れ落ちた
それがどのような感情からあふれ出たものかは伺い知ることはできなかった
「何とか倒せたか…むっ!?」
戦いはまだ終わらない。ドラゴンゾンビに対処している間に、無数のサラマンダー達が
逃げるのをやめて再びエンゼに向かってきていたのだ
「諸君! これで最後だ! エンゼを守れ!」
「「「サー! イエッサー!」」」
兵士とサラマンダーとの乱戦が始まった
***
一方ジュンヤは、燃えつきたドラゴンゾンビの骨の間からアイを回収した
「よっ…と、助かったぜ姉貴」
「ふふっ♪ 私が剣じゃなかったら防ぎきれなかった…正に怪我の功名ねっ♪」
「冗談きついぜ…ったく…ん?」
ジュンヤは、アユミをおんぶしているシズカを見つけて駆け寄った
近付くと、アユミは既にガラス片を全て抜かれ、全身包帯で巻かれた状態だと分かる
「シズカ! 大丈夫だったか…そいつはアユミか?」
「うん…なんとか手当てはできたけど、目を覚まさないの…」
そこへ、カラドボルグも駆け寄ってきた
「ニャ!? そいつはアユミニャ!?」
「そうよ、カラドボルグちゃん…あまり激しくしないで…」
ジュンヤは、シズカとカラドボルグを交互に見ながらしばし考え、発言した
「…よし、シズカはアユミと一緒に安全な場所へ避難してくれ」
「え…でも…」
「もう薬も残り少ないだろう、シズカができる事は全部やった。後は俺に任せてくれ」
「う、うん…でもどこに行けば…」
「それニャら、城の中に行けばいいニャ。とっても頑丈だったからニャー」
「そうだな…カラドボルグ、2人を案内してくれ! 俺はあのトカゲ共を倒す!!」
そう言うとジュンヤはアイを掲げ、乱戦に介入しに走った
サラマンダー全てを撃退させる頃には、夜が明けて雨が降り始めていた




