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74話 本気で滅ぼしに掛かる

アユミは薄暗い虚空の中に力なく浮かんでいた

顔を上げると、サリエルが居るのが分かった


「歩見よ…随分と無茶をやったものだな、自らの冷気で溶岩を受け止めようなどと…」

「…溶岩に足をとられ、流れて来た火龍にエターナルボックスを塞がれたのですから

他に手はありません。それにどうせ死なないんです、ヴィガ王様に比べたら無茶ではありません」


サリエルはため息をつく


「そんな事よりサリエルさん、人間と魔族を滅ぼそうとしているのがエルフで確定しました」

「その通りだ、よくぞ自力で答えを見つけてくれた」

「でも…インテグル博士の気持ちも分からないわけではないんです…僕も同じことをされたら

二千年恨み続けて、正義の名のもとに全てを滅ぼすかもしれないです」


「ふむ…歩見よ、これだけは言っておく。そもそも正義というのは自己の生存を正当化する為の

方便にすぎない。確かに、人間と魔族が最初に襲撃した時点ではエルフの方に正義があったが

領土を奪い続け、エルフ以外のすべてを根絶やしにしようと画策した時点で正義は失われていた」

「はぁ…」


「それに歩見は気付いていないかもしれないが、真理を言っていたぞ」

「えっ…どれですか?」

「それは人間だから人間の味方なんだ、という言葉だ」

「あ、それですか…我ながら身勝手な事を言ったなと思っていたんですが…」


「それは生き物なら当然の考えだ、歩見はもう少し我を強く持つべきだ

恨みの感情を持てないなら尚更だ」

「はぁ…」

「む、目が覚めるぞ、激痛に備えろ!」

「えっ!? あ…」


何かが爆発する音と共に、アユミの視界がホワイトアウトする…


***


時は少し遡り、ヴィガ王が亡くなる直前の頃、エンゼの北側上空では夜闇に紛れて

火龍が5体、口を閉じたままホバリングしていた。それぞれの背には

エルフの男が1人ずつ乗っていて、火龍を完全にコントロールしていた

エルフ達には暗視魔法でエンゼの様子がわかる


「絨毯爆撃作戦を確認するぞ、インテグル博士の残した予測によると

もうそろそろ絶対防御魔法が効果を失い、青い膜が消えるはずだ。それを合図に

我らは横並びとなり火球を吐かせながら街上空を横断し、南海岸に到達したら

一旦攻撃を中断して東海岸側に回り込み、街の西端に着くまで再び絨毯爆撃だ

それが終われば自由行動だ、人間共を虐殺するも、あの城に風穴空けるのも良い」


「む…おい、氷…いやガラスか? 何かが溶岩の流れをせき止めているぞ」

「本当だ…人間にしては腕のいい魔法使いでもいたのか」

「絨毯爆撃を始める前に、あのガラスを粉砕して溶岩を流れ込ませた方が

効率的に殺せるのではないか?」


「そうだな…では全員分の火球をアレに集中放火してから絨毯爆撃を始めるとしよう」

「「「「異議無し」」」」


そう言った後、青い膜が消えた


「消えた! では行くぞ!」

「「「「エルフ以外を根絶やしに!!」」」」


エルフ達は火龍を操作し、火龍同士の間隔を維持しながら作戦を遂行する

まず発射した火球によってアユミの閉じ込められているガラスが粉々に粉砕されて溶けた

この攻撃によって再び溶岩がエンゼ内へ流れ始めたのを見てエルフ達はほくそ笑む


続けて絨毯爆撃を開始した。火球と一緒にエルフ達が予め作っておいた手榴弾のような球も

加えて討ち漏らしが無いようばら撒き、赤く燃え上がる建物で真昼のような明るさになる

そのまま1体が城に到達し、横切る合間に火球を吐き出す

2階の謁見の間の外側に当たり、大きな窓が全て粉々に吹き飛んだ


***


ガシャーン

バリバリバリ


「ぐわあああ!!」


窓際にいた実況衛士が衝撃で吹き飛ばされる。他の衛士達とメイドの悲鳴が響き渡る

そんな中、ギュスターヴが呟く


「陛下が亡くなって間を置かずに襲撃…! まさかエルフはここまで計画していたというのか…」

「おのれ…父上の眠りを妨げるか!」


ディーン王子は握りこぶしを作って憤り、一瞬巨大な宝玉を見る

その視線に気付いたスコット大臣が両腕を広げて間に立つ


「なりませぬ! 殿下にまで死なれたら国が終わります!」


後からギュスターヴもディーン王子に語り掛ける


「スコット大臣の仰る通りです、どうかご自愛ください。それに…」


さらに近寄って耳打ちする


「…私は跡を継ぐつもりはありませんよ、国王陛下」

「…!」


そう言うとギュスターヴはスッと一歩引いて控える


「我としたことが…!」


ディーン王子は自らの頬を両手で叩き、気合を入れる


「体制を立て直す! スコット大臣! 今城に居る衛士達で再出撃するぞ!」

「ははっ! すぐに用意いたします!」


指示を受けて衛士達が慌ただしく動き出す。それと同時にゼログニもリークルに指示を出す


「俺達も動くぞ、リークルはこの証文を持って港へ戻り、人権を得られた事を周知させろ

その後はサキュバス部隊を率いてぶちかませ。火龍に乗っている奴には効くはずだ」

「はっ!」

「おお…貴殿も出撃してくれるのか?」


「ルードヴィッヒ、これは人間の為だけではない。この街が陥落したら次は魔族の生き残りを

殺しにやってくるだろう…魔王として看過できん」

「それでも、心強い事に変わりは無い」

「フッ…まあ任せておけ、1匹位は落としてみせよう」


***


一方その頃、最初の火球によって粉々になったガラスの中から這い出て来たアユミは


「ウゥゥ…アァゥゥゥ…」


腹と背中と顔に細かいガラス片がハリネズミのように大量に刺さった血塗れの状態で

後ろから溶岩がゆっくり流れてくる中、激痛に耐えながらゾンビ映画の一幕のように歩いていた

持っていたエターナルボックスは衝撃によってどこかに飛んで行ってしまっていた


「ダ…レ…カ…タス…ケテ…」

「ヒィッ!?」

「バ、化け物ォ!!」


溶岩をフリーズで固める作業をしていた兵士達は気が動転し、アユミに向けて心無い言葉を浴びせ

フリーズの目標もアユミに向ける。氷がアユミの顔に張り付くも、溶岩の熱ですぐに溶けて

血が洗い流されて泣き顔があらわになる


「お、女の子…!?」

「ウゥッ…死…」


死にたくなったアユミは自殺幇助要求禁止により頭がスッキリし、痛みも幾分感じなくなった

そんな中、衝撃で飛ばされていた猫形態のカラドボルグがシズカを連れて戻ってきた


「アユミ! こっちニャ!」

「アユミちゃん! 早く!」

「ウゥゥ…」


アユミは呼ばれた方向にゾンビのように歩き、溶岩地帯から出た後

シズカによってガラス片を抜かれながら回復魔法を受けた

顔を上げると、火龍達が東海岸側に回り込み、街の西に向けて

絨毯爆撃を開始したのが見えた


***


「火球だ! 海に飛び込めー!!」


港では、上陸して待機していた魔族と人間が絨毯爆撃に気付き

とっさに海に飛び込んでやり過ごした。しかし船は成す術が無く

ほとんどが火球の直撃によって沈没してしまった


「プハッ…今の見ましたかクルネドさん」

「ああノブヒロ…怪物があのように規律正しく動くなど聞いたことが無い

溶岩の事といい、私達は恐るべき敵の手のひらの上で踊らされていたようだな…」

「そんな…王様は魔族と戦えと仰っていたのに…これからどうすれば…」


途方に暮れながらも、皆水から上がる。そんな中リークルが証文を持って飛んできた

そして魔族全員が見えるように証文を広げて照明魔法を使い、演説した


「皆! 我らの悲願…魔族とサキュバス族とオーク族の人権が認められたわよ!」

「リークル様! 本当ですか!?」

「ゼログニ様が人間の王と平和条約を結んで下さった…もう人間と戦わなくていいのよ!!」

「「「オオオー!!」」」


魔族軍の面々は喜びを全身で表しているが、人間達はあっけにとられていた


「まさか人権の為だったとは…むっ!?」


クルネドがそう呟くと、いつのまにかノブヒロと一緒に、魔族達に囲まれていた


「お前達に分かるか!? ゴブリンと同じ扱いしかされない苦しみが…!」

「人権をエサに獣人達に裏切られた悲しみが…!」

「それも今日で終わりだ! 俺達も「人」なんだぁ!!」


そう叫ぶと、囲んでいた魔族達も、喜びを表している集団の輪の中に入っていった


「どうやら本当のようだな…今まで魔族というのは人間を虐殺するのが目的であると

教わってきたし教えてもきたが…認識を改めねばならんな」


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