73話 首脳会談
ギュスターヴ、ルードヴィッヒ、ディーン王子、ゼログニ、リークルの5人が
謁見の間の前にたどりつくと、中から若いメイドの女性が走って出てきた
ゼログニとぶつかりそうになるが、勢いを殺しながらくるりと回りながら受け止めた
「よっと…」
「すっ…すみませ…!?」
「大丈夫かな? お嬢さん」
「ヒッ…し、仕事があるので失礼します!!」
大げさに頭を下げる彼女の手には、血がなみなみと注がれた桶があった
ゼログニが手を離すと、メイドは外へと駆けて行った
その様子を見て、ディーン王子が焦りを見せる
「くっ…父上!!」
***
謁見の間の中では、座り込みながらも巨大な宝玉に手を当て続けるヴィガ王
毛布を掛けながら支えるスコット大臣、回復魔法を使い続ける衛士達
そして桶で王の吐血を受けるメイドがいた
「おお…ゲフッ…ディーンよ、火龍を倒したか…」
「ははっ! 異世界召喚された勇者によって仕留められました!」
「うむ…大儀…ガフッ…」
真っ先にディーン王子が駆け寄り、ルードヴィッヒは動揺しながらギュスターヴに問う
「こ、これは一体…」
「陛下は「絶対防御魔法」を使われ、反動でもう長くは生きられない…
お前も、青い膜のような物が攻撃を防いでいるのを見たはずだ」
「なっ…そんな魔法があるとは…!」
2人が話している横をゼログニとリークルがゆっくりと通り過ぎ、ヴィガ王と対峙しようとするが
スコット大臣が腕を広げて立ちふさがる
「ま、魔族!? 陛下には指一本触れさせぬぞ!!」
「よい…どうやら人間を滅ぼしに来たわけではなさそうじゃ…」
ゼログニはスコット大臣と対峙するが、無理にどけようとはしなかった
「忠義の臣よ、王に手荒なことはしない。お前達の神に誓おう」
「…分かった」
スコット大臣が横に移動し、ゼログニは更に進み出てヴィガ王に向かって
左手を前にして腹部に当て、右手を後ろに回して会釈をした
魔王らしからぬ行動にリークルは一瞬驚くが、ゼログニに倣い会釈をした
「お初にお目にかかる、魔王ゼログニだ」
「おお…余はヴィガ・エンゼ、人間の国王じゃ…コフッ…この姿勢のままで失礼する」
「構わない、人間と魔族…双方の未来について話をしよう」
ヴィガ王と同じように「広範囲破壊魔法」という命と引き換えに発動させる魔法を
受け継いでいるゼログニは、彼を他人のようには思えなかった
「うむ…余は魔族と平和条約を結びたい」
「…ならば条件がある、魔族とサキュバス族とオーク族の人権を認めてもらおう」
それを聞いたスコット大臣が激高する
「おのれ! 陛下の弱り目に付け込んで…!」
「命を賭して国を守ろうとする意志には敬意を表する。だが
魔族軍は、最初から人権を目的に掲げて戦ってきた。こればかりは譲れない」
ゼログニは鋭い視線で返す。ヴィガ王は一瞬目を閉じ
「成程、そういう事じゃったか…ならばこちらも条件がある、魔族が「異世界召喚」を
模倣し、勇者に残酷な人体実験を行っていると聞いた…それを止めてもらいたい」
「知っていたか…良いだろう」
リークルがそっと口を出す
「ゼログニ様、それは我が軍の切り札となる技術です」
「人間が人権を認めるならば、もはや戦う理由は無く、人体実験で兵力増強をする必要も無くなる
約束さえ守るのならば…な」
「なにおう!?」
「控えよスコット、ならば人間側から先に布令を出そう、後から監査員の入国を認めるならば
否やはない」
「…分かった、その条件を飲もう」
「良し…スコット、証文を用意せよ。余の命があるうちにな」
「は…ははっ!」
スコットが走っていくのを見送ってから、ヴィガ王が続ける
「ふふ…先程まで溶岩と火龍の攻撃を防ぐのに必死で、このように話ができる状態ではなかった
だが急に負担が減った…火龍が倒されたのもあるが、何者かが溶岩を一身に食い止めているお陰じゃ
その折に魔王ゼログニ…そなたが現れ、話を持ち掛けてきた…運命のようなものを感じずにはいられん…」
「ヴィガ王…」
***
日が沈み、シャンデリアに明かりが灯される頃
スコットが持ってきた証文に、ゼログニとヴィガ王が署名し終えた
火山もようやく噴出を終え、地盤沈下で溶岩の底に沈み、静けさが戻ってきた
「これで良し…後顧の憂い無く、エルフという驚異に対抗できるじゃろう…」
「ヴィガ王よ、一つ気になる点がある…いかに差し迫った驚異に対抗する為とはいえ
想定していたよりも遥かに順調に話が進んだ。平和条約を結ぶ理由はこれだけではあるまい?」
「ふむ…少し…昔話をしようか…」
「幼少時代の余はやんちゃでな…城内を好きに走り回り、臣下をよく困らせていた
ある時、城の書庫の禁書置き場に潜り込んで一冊の童話を見つけたのだ。それは
魔族の少年ラゴーウンと、人間の青年シラグが出会い、各地を旅して巡る
という変わった内容じゃった…」
「それは…「少年ラゴーウンの冒険」か」
ゼログニの呟きにヴィガ王は頷く
「2人は種族の違いなど関係無く、助け合い、時に争いながらも絆を育んでいった…
本を見つけた当時は既に人間と魔族は戦争状態じゃったから、本の内容は余にとって驚きに満ちていた
最初はプロパガンダかと疑ったが、作者が人間の青年シラグの方であったのでさらに驚いた
300年前の時代ではまだ人間と魔族が手を取り合う事ができていたのだと…」
「確かに…その頃はまだ人間との交流は出来ていたと記録されている」
「童話を読んでからは、魔族とは話せば分かり合うことが出来るのではないかと
心の隅で、王にあるまじき夢を見るようになった…こんな余を笑うかね?」
「いや、笑わん…」
ヴィガ王は静かに微笑んだ
「ふぅ…少し喋りすぎた…そろそろ神の御許へゆく時のようじゃ…」
「父上…!」
「陛下っ…!」
ディーン王子とスコット大臣がヴィガ王のそばへ寄る
「ディーンよ、そなたが次の王じゃ…よく治め、よき妻と子をな…」
「…はいっ!」
「スコット…皆も…力を…合わせ…」
「「「陛下!」」」
ヴィガ王は目を閉じ、宝玉から手を離して動かなくなった
回復魔法を使い続けていた衛士達とメイドが、感極まって涙を流す
そんな中、ディーン王子が立ち上がり、声を上げる
「皆! 悲しんでいる暇は無い! 避難民達の保護、魔族との国交修復、溶岩の処理
やることは沢山ある! 今は…」
ドドドドドォォォン
「うおおおっ!?」
「なんだ!?」
衛士が実況する
「き、北から巨大なトカゲが…ご、5体飛んで来ます!」
大きな窓から、火球を吐く火龍の口が5つ、夜闇の中で強調されて見える
それは規則正しく横並びとなり、エンゼに絨毯爆撃を始めていた




