72話 アセンブルド
夕方、未だに火山は噴火をし続けていた。まるで全ての溶岩を出し切らない限り
止まらないかのように…そして更なる異変が起こっていた
火山の高さが徐々に低くなっていったのだ。地中の溶岩が噴出して地下空洞ができた事で
その分地盤が沈下した為である。もっとも、目の前の火龍に集中していて
気付く者は居なかったが…そんな混乱のさなかにあるエンゼの港に複数の大型船がやってきた
「こんな時に船だと!?」
「ヒッ…魔族が乗っているぞ!」
「お、終わりだぁ!!」
マストの見張り台には、魔族の船員が白旗を掲げていたのだが、火龍の襲撃で
気が動転していた水夫達は、火龍と魔族の挟み撃ちにあったと勘違いしたのだ
「チッ…まぁ、そうなるか…」
「ゼログニ様、いかがいたしましょう?」
船に乗っているゼログニ達は、海まで覆っている青い膜の前で止まっていた
ここで船体が弾かれれば沈没の恐れもある
「ロープを船体に繋いで俺に渡せ! 俺とリークルが先に行く! 後の者は待機だ!」
「「「ははっ!」」」
ゼログニは左手でロープの先端を掴み、右手をリークルに掴ませた状態で飛翔させ
青い膜に近付き…弾かれるかと思ったが特に反発される事なく通過した
「よし…どうやらあの火龍だけを阻む物のようだな?」
本当は違うのだが、魔族側にとってはその結果で十分だった。ゼログニ達は
そのまま港の岸壁に降り立ち、係船柱にロープを繋いだ
「ヒィィッ! おたっ、お助けェェ!!」
水夫達は尻餅をついて錯乱していた。ゼログニはその内の1人の胸倉を掴んでこう言った
「俺はお前達を殺さない。分かったらさっさと行け!」
「「「はっ、ハイィ…」」」
水夫達は蜘蛛の子を散らすように逃げ出した。それを見届けた後、ゼログニは
船に残っている魔族に呼びかける
「よーし接岸しろ!」
***
魔族の船が港内を埋め尽くした後、即席ボートの回収作業が行われていた
「上陸後は港内で待機! 街中まで行って人間達を刺激するなよ!」
「「「ははっ!」」」
ゼログニは下船してきたルードヴィッヒに向かって言った
「さてルードヴィッヒ、人間の王と交渉する為にはお前の口添えが必要だ」
「ああ…だが、あの怪物を何とかしなければ話し合いどころではない」
「分かっている、奴は俺が…む?」
ふと海に目を向けると、シズカの乗っている即席ボートが港の岸壁に近付いていた
よく見るとジュンヤが入水して船をバタ足で押しているのが分かる
やがてボートが岸壁に着いたと分かると、ジュンヤは自力で岸壁を登って
怪訝な表情でゼログニと相対する
「魔王…次は何をするつもりだ?」
「ふむ…俺よりも、炎の猛将がやった方がスムーズに話が進みそうだな」
「何…?」
***
その頃、火龍とディーン王子達の戦いも続いていた
サラマンダー達が青い膜に殺到する中、火龍は20メートル程の距離から火球を飛ばしていた
一方ディーン王子達は、フリーズで溶岩を固めつつ弓矢で火龍を撃ちながら
青い膜の内側からサラマンダー達を剣で切り払っていた。カラドボルグも火球を避けながら
サラマンダー達に電撃を見舞う。火龍に対しては深く突き刺されないので有効ではなかった
固まった溶岩という足場が出来つつあったが、兵士達は前進出来ずにいた
また大量の溶岩が鉄砲水のように押し寄せるのではないかという恐れがあったのだ
溶岩に飲まれたら普通の人間は即死…ディーン王子も根性論を振りかざす事は出来なかった
ブチィッ!!
「うおっ!? くっ…」
ディーン王子の持つ弓の弦が切れた。それを見てすかさずギュスターヴが駆け寄って
替えの弓を差し出す
「殿下! これを!」
「ありがたい! …!? なんだあれは!?」
2人は火龍の北側から、溶岩に包まれた巨大な塊がどんぶらこ…どんぶらこと流れて来たのが見えた
「グアアッ!?」
火龍は背後から近づくそれに気付き、翼を広げて飛んで回避しようとするが
翼が「凍てついて」動かない。そのまま火龍は青い膜まで押し流され
サラマンダー達は巨大な塊が放つ冷気に驚いて逃げ出した
「ガアアアッ! グゴオオオッ!」
青い膜に押し付けられた火龍の胴体は、巨大な塊からの冷気によって溶岩ごと冷え固まり
両足とも動かせなくなってしまった。急な出来事でディーン王子達も動揺していた…その時
「ブッ潰れろぉ!!」
リークルの助けにより宙にいたゼログニが、火龍の頭目掛けて蹴りを繰り出した
「アイスコフィン!!」
火龍の頭が下がった所をリークルが追撃した。首に命中して凍結させる
「イィーーヤッ!!」
ディーン王子達の側面から現れたジュンヤがアイを手に、大きくジャンプしながら振りかぶり
火龍の首を正確に捉えた。首を切断された火龍の頭部が青い膜の内側に落ちた
一瞬の静寂の後、ゼログニがジュンヤの腕を上げさせて言った
「称えよその名を! 街を救った英雄、ジュンヤ!!」
「「「オオーッ!!」」」
「「「ジュンヤ! ジュンヤ!」」」
人間の兵士達は、乗せられてジュンヤの名を連呼する。当の本人は一瞬困惑したが
「これを俺にやらせたかったのか…オオーッ!!」
アイを掲げて兵士達の声に答えた
***
兵士達の興奮はすぐに止み、魔族であるゼログニとリークルを見てざわつき始めた
ゼログニは余裕の表情を崩さず胸を張り、リークルは彼の後ろに控えていた
そんな中、ディーン王子が弓を下ろし、近寄って問う
「魔族…貴殿は一体何者か?」
「俺は魔王ゼログニ、人間の王と話がしたい…お前がそうか?」
「話だと…? 我は、現国王ヴィガ・エンゼの息子でディーン・エンゼと言う
…この溶岩に怪物の襲来、魔族の差し金では無いと言うのか?」
2人の間に緊張が走る。その時、後から追いついてきたルードヴィッヒが
一緒にいたシズカを置いて、ディーン王子の前に走って行き、跪いて言った
「殿下! 私は前線で戦っていたルードヴィッヒでございます!」
「む、息災であったか」
「はっ! この溶岩によって、ジスだけでなく魔族の前線となっていた城塞都市も
壊滅いたしました。自分達もろとも溶岩に沈めるとは考えにくいかと」
「むむぅ…」
悩むディーン王子の前にギュスターヴも進み出て言った
「殿下、これこそがエルフの仕業なのです。魔族がやった事ではありません」
「あの時に言った事か…怪物を倒した借りもある…分かった! 共に謁見の間に…」
そう言いかけた時、空気を読まずに猫形態のカラドボルグが
ギュスターヴに飛びついて言った
「ギュスターヴ!! アユミを助けて欲しいニャ!!」
「なっ!? なんだ藪から棒に…アユミがど…う…」
溶岩に包まれて流されて来た巨大な塊…ガラスから、発せられる強烈な冷気により
青い膜に阻まれた溶岩は急速に冷え固まり、ガラス質で内部を透視できる物となっていた
カラドボルグがギュスターヴの裾を口で咥えて引っ張っていく
そして冷え固まった溶岩の中を見て、ギュスターヴだけでなく
その場に居る全員が息を飲む
その中には、今しがたジュンヤが首を落とした火龍だけではなく
アユミが倒した火龍、そしてアユミ自身も含まれていた
アユミはエターナルボックスを手から離さずに、火龍の体に沿って
押し付けられている状態で固まっていた
顔は火龍の体に埋もれていて、表情を伺い知ることはできない
それは夕日に照らされて芸術品のようにきらめいていた
「アユミ…!? くぉっ…くぅ…っ」
ギュスターヴは思わず冷え固まってガラスとなった溶岩に手をつくが、異変を感じてすぐに離す
「早く! ツルハシでも何でも! アユミを掘り出すニャ!」
「ダメだ! 冷たすぎる! お前は平気かもしれんが、防寒具を用意しないと凍傷になる!」
「そんニャァ…可哀想だニャァ…」
「カラドボルグ、今は国王陛下を優先しなきゃならん…お前ならわかるだろう?」
「ウゥ…分かってるニャ…アユミには吾輩がついてるニャ…」
落ち込むカラドボルグを置いて、ギュスターヴはディーン王子達の元へ小走りで戻る
「失礼いたしました。殿下、陛下の元へ行きましょう!」
「う、うむ! 魔族の2人も…我が責任を持つ! ついてきてもらおう!」
「分かった…と、リークル、その恰好では人間達には刺激が強い…外套で隠しておけ」
「はっ」
リークルが指を鳴らすと、どこからともなくフード付きの外套が現れてリークルの体を覆う
セクシーな美脚は隠しきれていないが…
***
兵士達をジュンヤとシズカに任せ、ギュスターヴ、ルードヴィッヒ、ディーン王子
ゼログニ、リークルの5人が城まで移動する…その最中、街の中央広場に差し掛かった時
ゼログニとリークルが目を見開く
「何だあれは…」
「青い血…まさか!?」
最初にリークルが近付き、常設されている磔台を確認する
相変わらず、乾いた青みがかった血が所々にべったりと付いていた
「多くの魔族が、ここで処刑されたのね…こんな残酷な見せしめを」
ギュスターヴとルードヴィッヒは険しい顔で黙っているが、ディーン王子が進み出て弁明する
「強硬派の貴族が戦意高揚の為に提案した…が、最終的に王家が許可を出した」
後からゼログニも台を調べると、青みがかった血の上から
新しく赤い血が、少量付いているのを発見する
「ほう…それは結構な事だが、何らかの手違いで人間を処刑したら
戦意が下がるとは考えなかったのか?」
「それは…我が王家の責任だ…」
ディーン王子は言葉に詰まり、ギュスターヴは目を逸らし、ルードヴィッヒは
そんな2人を交互に見ながら怪訝な表情を浮かべる
「なるほどな…」
3人の反応から、この赤い血がアユミの物だと察したゼログニは、話を戻す
「…些事なら後で話せば良い、今は人間の王と話をするよりも重要な事は無い」
「うむ…案内する!」
若干早足になったディーン王子を先頭に、一行は謁見の間へ向かう




