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71話 エンハンスド

人間と魔族が争う最前線にて


「この音…森からか…!?」

「魔族め…次はどんな奇策を…!?」


「何だこの爆音は…!?」

「人間の秘術か…!?」


伐採作業は進んでいたが火山をはっきり視認できるまでには至らず、両陣営とも火山の噴火の事を

敵の攻撃と勘違いし、互いにけん制しあって身動きが取れずにいた

状況が一変したのは、流れ込んだ溶岩によって森が炎上を始めてからであった


「なっ…森林火災だと!?」

「森からの奇襲を度々使っていた魔族が何故…!?


「誰がこんな指示を出した!?」

「俺も聞いてないぞ!」


ようやく双方が火で困っている事に気付き


「「退避! 退避だ!!」」


慌てて下がった後には、間もなく溶岩が水のように広がっていった


***


一方、最前線に出撃するために生木の橋を渡っていたジュンヤとノブヒロを含む兵達は

川上から水蒸気がもうもうと押し寄せてくる光景を目にする


「な、なんだありゃ!?」

「わ、分からないけど…とりあえず塞ごう! のびろー!!」


生木の橋から新たな枝葉が生えて壁を生成する。だがすぐに燃え始め

隙間から溶岩があふれ出した


「そ、そんな!?」

「馬鹿っ! 逃げるぞノブヒロ! 皆も逃げるんだ!!」


後方にいた兵達は慌てて引き返すが、大部分は橋の上で立ち往生してしまう

やがて橋の西側部分が炎上しながら崩れ、その弾みでヒュージリバーに全員投げ出された


「プハッ…ジュ、ジュンヤ君!?」


水面に顔を出したノブヒロは辺りを見回す、一方ジュンヤは鎧の重さで浮き上がれずにいた


「ジュンヤ! 早く鎧を脱いで!」

「うぐぐ…」


ジュンヤはアイ共々流されていった


***


シズカは塹壕内に設けられた医務室にて、「液体感知」によって不気味な感覚に襲われていた

だがそれが溶岩のせいだとは、まだ気付いていない


「なっ…何なの…?」


その時、クルネドが入ってきてこう告げる


「緊急事態だ! 北の山が噴火し、溶岩がすぐそこまで迫っている! 塹壕を放棄し

南の海に逃げ込め!!」

「そんな! 歩けない人もいるんですよ!?」

「…分かっている! だが、早く逃げろ!!」

「「「ヒィィィ!!」」」


クルネドと衛生兵が、シズカを置いて逃げ出した


「シズカ様…俺達に構わず逃げてください!」

「で、でも…」

「あなたが苦しむ所なんて見たくないんですよ!」

「さぁ、早く!」

「っ…ごめんなさい…!」


シズカは涙を浮かべながら駆け出し、負傷兵が見送る


「これで…いいよなお前ら?」

「ああ! 俺達の天使を死なせてたまるもんか!」

「幸せになってくださいよ!!」


***


「うおおお!!」

「あづううう!!」

「神よ! 今お側にィィィ!!」


***


全てを溶岩が覆いつくした頃、西側拠点にいたルードヴィッヒもまた兵士達と共に

海に飛び込み、沖まで流されていた


「ぐ…皆しっかりしろ!」


周りにいた兵士達は力尽きて沈んでいき、半分以上が死に絶えてしまった

ルードヴィッヒは陸地を必死に見回すが、どこも溶岩に覆われて上がれる場所は無い


「ここまでか…!?」


ふと西を見ると、複数の大型船がこちらに向かって進んでいるのが見えた

マストの見張り台には、魔族の船員が白旗を掲げていた

そして甲板ではゼログニとリークルが指揮をとっていた


「よーし! 魔族も人間も関係なく救助するんだ!」

「ゼログニ様! 船の定員を超えてしまいます!」

「ならベロ博士の開発した即席ボートを出せ!」


命令を受けて、カラカラに乾いた桶のようなものが海に投げ入れられた

それらは海水を吸って大きく膨らみ、3人程が乗れるサイズになる

その間にゼログニは海面を見回して人間の指揮官を探す


「あいつだな…?」


直感でルードヴィッヒに目星を付け、オールを持って海に飛び込んだ


「ゼログニ様! また勝手に…」


ゼログニは即席ボートの1つに上がり、漕いでルードヴィッヒの元に寄せ

手を差し伸べる


「さあ! この手を掴め!」

「…っ」

「どうした! このまま溺れ死ぬつもりか!?」

「く…分かった」


ルードヴィッヒが即席ボートに上がると、それを見ていた他の人間兵士達の警戒心も薄れ

それぞれ上がりだした


「この溶岩…魔族の仕業では無いのか…?」

「ふん…あれを見ろ」


ゼログニが親指で指した先には、魔族の城塞都市グルーが燃えているのが見えた


「我が民を巻き添えにする策など考えられん…意味が無いからだ」

「我が民…? まさか…」


ゼログニがあぐらを組んで座り、ルードヴィッヒもそれに倣う


「北にある森の奥深くには、オークの隠れ里があった…200年前の戦いで絶滅寸前にまで

数を減らしたオーク達を保護する為に…だが、この溶岩では生存者は絶望的…!

我が軍に出向してきた者だけでは種の存続は困難…俺の戦友は

人権を得る間もなく、この世から姿を消してしまうかもしれん…」


ゼログニは絞り出すような声で言った。それを聞いたルードヴィッヒはぽつりと呟く


「魔族には魔族の正義がある…という事か?」

「何…?」


ルードヴィッヒは咳払いをして続ける


「いや、私ではなく…とある少女がそう言っていたのだ」

「少女…それはアユミという名ではなかったか?」

「その通りだ、知っていたのか…」


「あいつは…いつか必ず魔族と人間が手を取り合う時が来るとかぬかしていた

俺は全く信じていなかったが、今現実となった…不思議な話だ」

「アユミがそんなことを…いや、ありえん話では無い…か」


ゼログニはしばし瞑目し、心を決めた


「…お前の名は何という?」

「私は…ルードヴィッヒだ」

「ルードヴィッヒ…正直な所、お前達を人質にして人間の王との交渉材料に利用するつもりだったが…

気が変わった。今からは、この魔王ゼログニの客人として扱い

無事に人間の街に送り届けると約束しよう」

「やはり貴殿はそうであったか…感謝する」


***


ゼログニとルードヴィッヒが協力して漕ぎ、元居た船に戻って甲板に上がった時、ひと悶着起きていた

1人の人間に対して複数人の魔族が刺又を使って押さえつけていたのだ


「どうしたリークル!?」

「ゼログニ様! この者が急に登ってきたので、とりあえず押さえた所です!」

「む…ジュンヤ? ジュンヤじゃないか! ここまで泳ぎ切ったのか…」

「ゼイ…ゼイ…腹が…」


ジュンヤはうつ伏せにされてぐったりしていた。ヒュージリバーに落ちて盾と鎧を脱ぎ捨てた後

「健康な肉体」と「怪力」で何とか船まで泳ぎ、たどり着くことができた

しかし副作用の空腹が襲い力が出なくなってしまったのだ


「くそぅ…普段ならこんな奴らどうってことないのに…!」

「ジュンヤ! 挑発するな!」


ゼログニはしゃがんで目線を合わせて語り掛ける


「お前は「炎の猛将」だな? 噂は聞き及んでいる」

「…お前は?」

「俺は魔王ゼログニだ」

「魔王…! 俺と勝負しろ…!」


ジュンヤはにらみつけるが、ゼログニは動じない


「ダメだ、人間達は人間の街にきっちり送らせてもらう」

「なっ…!?」

「お前達も! 無暗に人間を傷つけてはならんぞ! …離してやれ!」

「「「ははっ!」」」


刺又が外され、ルードヴィッヒが駆け寄って体を起こす


「大丈夫か?」

「ルードヴィッヒ…分からねぇ…ついさっきまでやり合っていた相手に…助けられるなんて…」

「ジュンヤ…陸地を見ろ、もはや魔族と戦う場所はどこにも無い。ここからは政治の出番だ」

「政治…戦争が…終わるのか…?」


ジュンヤはぼんやりと、溶岩に覆われた陸地を見つめていた

一方、魔族達は手すりにロープを複数結んで垂らし、即席ボートに乗った者達に向かって

結ぶように指示を出していた


***


即席ボートを牽引しながら船団は東へ進む。やがて人間の城塞都市ジス…の跡が見えてきた

内部は溶岩で埋まって見る影もなく、即席ボートに乗った人間兵士達は落胆する

ルードヴィッヒも呆気に取られていた


「何ということだ…この世の終わりを見ているようだ…」


ゼログニは、そんなルードヴィッヒの肩を叩いて言った


「気持ちは分かる、だが絶望するのは早い…リークル!」

「はっ! お呼びですか?」

「サキュバス部隊を率いて生き残りを探せ! だが無理に溶岩に接近して怪我をするなよ!」

「分かりました」


リークル達は、膨らむ前の即席ボートを片手に、飛んで捜索を行った


***


数時間前…


バローの倉庫で寝袋に入って寝泊まりをしていた男は、確かにギュスターヴの手紙をジスに届けていた

しかし、手紙の内容は男も半信半疑であり、ギュスターヴのようなカリスマ性も無く

避難を強く促すことが出来なかった結果、避難開始までに時間が掛かってしまった


「地震!? ああっ! 皆逃げるんだ!!」


ジスは城塞都市ゆえに出入口の数が少なくて狭く、一度に出ることが出来る馬車の数も限られていた

住人は混乱して押し合いへし合い、まごついているうちに溶岩が街中に入り込んでしまった

…男は何とかジスから脱出できたものの、今度は外の溶岩に追われる事になり、海へ飛び込んだ


「ちくしょう…何でこんな目に…」


***


リークル達は捜索を続けていたが、船や筏のような物は無く

数人が海上に浮かんでいるのが見えたが、いずれも死亡していた。その中には

バローの倉庫で寝袋に入って寝泊まりをしていた男も含まれていた


ルードヴィッヒ達のようにボートで早く助けられる事も無く、低体温症で力尽きたのだ

男に罪は無い、ただただ運が悪かった。それらの光景をリークルの部下達が報告する


「リークル様、生存者は絶望的かと…」

「そう…仕方ないわね…? あの青い膜は…?」


リークル達は、エンゼの絶対防御魔法を目撃した


***


「ゼログニ様、只今戻りました」

「おう、どうだった?」

「城塞都市周辺では生存者は見つかりませんでした」

「おお…神よ…」


ルードヴィッヒはため息をついて目を閉じ、冥福を祈る


「その代わり、さらに東に青い膜で覆われている街を発見しました

恐らく大規模な防御魔法が使われたかと」

「防御魔法…?」

「ふむ…ルードヴィッヒ、何か心当たりはあるか?」

「ここから東というと、人間の首都エンゼがある…しかし防御魔法の話は初耳だ

新たに強力な魔法使いでも雇ったか…?」

「もし行くのなら急いだほうが良いかと、火龍が街を襲っていますから

どこまで持ちこたえられるか…」

「何と…!」


ルードヴィッヒは動揺するが、ゼログニは人間を助ける事でどの程度恩を売り

交渉を有利に進められるかを考えて、密かに笑う


「どうやら、行かなきゃ分からんようだな…お前達! このまま東へ進み続けるぞ!」

「「「ははっ!」」」


***


一方ジュンヤは離れた所で、魔族からもらった干し肉を口に含み

上半身は脱いで乾かしながら、布を取り出して絞り

海水に浸かったアイの刀身を拭いていた


「お肉もらえて良かったわね♪」

「ああ…なぁ姉貴、あのゼログニって奴…どう思う? 恨んでたりするか?」

「そうねぇ…恨みとかは無いわ、見た感じ約束を破るようにも見えないし

ワイルドなイケメンって感じかしら?」


「イケメンって…ま、姉貴がそう言うならいいか…」

「ふふ…ジュンヤも十分イケメンになってるわよ♪」

「な、何言ってんだよ…ったく…よし、拭き終わったぞ」

「ありがと♪ 後は私の熱で蒸発させるから…シズカちゃんを探してきなさい?」

「あ、あぁ…だがどこに居るのか…っ!?」


ジュンヤが何気なく海に視線を移すと、即席ボートの1つに1人だけで乗っている

シズカの姿を、偶然瞬時に発見する


「シズカ!!」


居ても立っても居られず、何も持たずにジュンヤは海に飛び込んでシズカの元に泳いでいった


シズカは上着を乾かす為に脱いで広げ、垂らされたロープを結んで牽引される状態にするという

最低限の事は出来ていたが、寒さに膝を抱えて震えていた


「ジュンヤ君…私…」

「大丈夫か?」


ジュンヤがボートに上がって近寄ると、それに気付いたシズカがジュンヤの胸板に飛び込んだ

彼は「怪力」の能力とは関係無く、戦いの日々で鍛えられて逞しくなっていた


「はぁ…あったかい…」

「な、何言ってんだよ…」


ジュンヤは自然にシズカの体を抱きしめる

あれ? こんなに華奢で小さかったっけ?

と、思いながら


その様子を船にいるゼログニ達は見ていた


「フッ、見せつけてくれる。だが寒さの事は失念していた…リークル、連続で悪いが

サキュバス部隊と共に毛布を配ってくれ」

「はっ、ただちに」


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