70話 セイブド
噴火する前、ギュスターヴは馬一頭にまたがり、エンゼに向かっていた
時々火山を振り返る度に盛り上がり、煙も濃くなっていくように見え
嫌な汗をかいていた。やがてエンゼの街門、そこに入ろうとする数台の馬車が見えたところで
ドドドォーーン!!
「ギャオオオ!!」
「ブヒヒイイィイン!!」
「ぬおお!? くっ…」
噴火の音と火龍の咆哮に、馬は驚き急停止して前足を上げた。落馬の危機をギュスターヴは素早く
後方宙返りをする事で回避し、着地した
「ヒン、ヒン…ヒイィィン!」
馬はギュスターヴを置き去りにし、狂乱したままエンゼに逃げていった
「ちっ…もうすぐそこだからいいか…むっ!」
ギュスターヴが街門を見ると、馬車を引いていた馬も同じ様に驚き、馬車を横転させたようだ
2人の獣人が逃げ遅れたようで、足を挟まれて苦悶の表情を浮かべている。助け出すために
バローを含め数人の獣人が、馬車を持ち上げようと必死になっていた
「棒を持ってこい! てこを使え! …もっと気合を入れろ!」
「「「エイ、ヤー! エイ、ヤー!」」」
ギュスターヴは持ち上げ組に加わり、共に声を上げる
「手を貸すぞ! エイ、ヤー!」
「おお、ギュスターヴ!」
僅かに隙間が空き、2人の獣人が引き出された
「助かったぞギュスターヴ…だが、この為に来たわけじゃないんだろう?」
「ああ…」
ギュスターヴとバローが横目で火山を見る
「悪いが、先に行かせてもらう!」
「こいつらの面倒は俺が見る、心配するな!」
***
ギュスターヴが走り、城の門にたどり着いたとき
ドドドォーーン!!
「「「ギャオオオ!!」」」
再び噴火が起こり、ギュスターヴは大きな揺れによってよろめくが、四つん這いになって堪える
城の門を見ると、槍を持つ門番は腰が引けて尻餅をつき、顔面蒼白状態になっていた
ギュスターヴは喝を入れたい衝動に駆られるが我慢し
「あわわわわ…」
「冒険者ギルドのギュスターヴだ! 陛下に火急の用がある! 内容は言わなくても分かるな!?
すぐに通してくれ!」
「あっ、はっ、はいぃ…」
言いくるめて通りすぎたギュスターヴは謁見の間へと走る、その間にも小さな揺れは
断続的に起こっていた
***
謁見の間にて、衛士は大きな窓から見える光景を実況していた
「か、火山が噴火して…巨大なトカゲのような空飛ぶ怪物が3匹…いや1匹…ああっ! 土煙がっ!」
「ええい! もっとちゃんと報告せぬか!」
スコット大臣が衛士を責めているが、そんな彼も恐怖にかられて顔を引きつらせていた
一方、ヴィガ・エンゼ王は玉座にて腕を組みながら窓の外を見ていた
その傍らにはディーン王子が揺れに踏ん張って立っている
「父上…いかがなさいますか?」
「あれは恐らく火龍、本でしか知らぬが…あれ1匹だけならば今いる兵達でも対応できる
だが…衛士! 火山の様子を…」
王が言葉を発すると同時にギュスターヴが入ってきた
「陛下! お目通り願います!」
「なっ!? ぶ、無礼であろう!」
ギュスターヴも元は王族のはずだが、スキンヘッドで気付かれない
ギュスターヴはスコット大臣の制止を振り切り、王の前で跪く
「よい! ギュスターヴよ…火山の事か?」
「はっ! あれこそはエルフが我が国を滅ぼさんとする兵器でございます!
証拠はこの中に!」
革の背負い鞄を肩からおろして王に捧げた。その直後、衛士が叫ぶ
「と、トカゲが火を吐いて…地面に当たった所から溶岩が噴き出しています!」
「ぬうう…」
その頃アユミは溶岩の中で排水口役になっていたが、恐れおののく衛士の目には映らなかった
衛士の叫びを聞いた王は、資料は開かずにディーン王子に手渡し、玉座の裏に回って
そこに設置されているレバーを引いた。すると天井が開き、隠されていた巨大な宝玉が
鎖につながれた状態でゆっくりと降りてきた。それは淡い光を放ち、全く揺れていない
「ち、父上! それは…!」
「ギュスターヴよ、そのエルフとやらは、この魔法を知っていて対抗してきたのか?」
「…御意!」
「ならば、是非もない」
王は上着を脱ぎすて、宝玉の前で仁王立ちになり集中する。これからする事を
知っているギュスターヴとディーン王子の顔が曇る。スコット大臣は
見たことのない装置に驚き戸惑っている
「へ、陛下…一体何を!?」
「スコット…余は王としての責務を果たすのみ。起動せよ! 絶対防御魔法よ!
我が国に迫る全ての災厄を退けよ!」
そう言うと、宝玉に直に触れた。するとエンゼの街全体をドーム状の青い膜が覆った
***
「ゴガアアア!!」
「グウッ…」
火龍の吐く火球が青い膜によって弾かれる。その時、王は右手で胸を押さえながら
僅かに吐血していた。左手だけは宝玉から離すまいと歯を食いしばる
「陛下!?」
「父上!!」
「な、何をしておるディーンよ…兵を率いて出撃せよ…!」
「ははぁっ!! すぐに!!」
ディーン王子は、後ろ髪を引かれる思いになりながらも、すぐに決然とした表情になって
駆け出した。入れ替わりに、今度はギュスターヴが前に出た
「陛下! エンゼに多くの避難民が来ます! 私はその誘導と補助に向かいます!」
「そうか…頼むっ…」
王の微笑に見送られながらギュスターヴも駆けて行き、スコット大臣と衛士達が残された
「皆の者…これは王族以外には存在自体も伝えるわけにはゆかぬ…命を懸けた秘術…
存亡の危機に際し、躊躇いがあってはならぬのだ…許せ…」
スコット大臣と衛士達が駆け寄り、慌てて回復魔法を使い始める
「陛下! 何故、そこまで…」
「そなたらが余に忠誠を誓うように…余もまた国の為に…尽くすのだ…グプッ…」
さらに吐血し、あご髭が赤く染まる
「ならば、我が魔力もお使いください!」
スコット大臣も宝玉に手を当てるも、変化は無い
「無駄じゃ…建国当時からの盟約により、王家の血を引く者にしか扱うことはできぬ…
余を支えようというのなら…たとえ余が気絶しても宝玉にこの身を当て続けよ…!」
「うっ…ははぁっ!!」
王は最初から、誰かの命を削ってまで生き永らえようとは思っていなかった
スコット大臣と衛士達は、悲痛な表情で支え、血を拭き、回復魔法を使い続けた
***
「ガアアアッ!!」
火龍は火球が弾かれるのを見て苛立ち、前足で青い膜にのしかかる
一部の外壁が崩れ、膜にヒビのような模様が入るが、絶対防御魔法が解ける事は無かった
そうこうしている内に、ディーン王子が兵を率いてやってきた
「諸君! あの膜は邪悪な者は通さないが、こちらからの攻撃は通す!
各員、奴の胴体に弓矢とフリーズで集中攻撃せよ!」
「「「イエッサー!」」」
火龍にとって一つ一つは大した威力ではなく、アユミのように急所を的確に貫通する能力も無いが
百人規模の一斉攻撃には怯み、翼を広げて後ろに跳躍し、20メートル程距離を取る
「「「ウオオー!!」」」
これを勝機と見た最前線の兵達は抜剣し、膜を抜け、崩れた外壁を乗り越えて突撃を開始した
だがディーン王子は異変を察知して声を上げる
「いかん! 戻れっ! 戻れー!!」
その時、火龍の背後から大量の溶岩が発生し、怒涛のように兵達に向かって押し寄せる…ように見えた
実際は北の山から、蛇口をひねったように噴出し続けていた溶岩が、側火山の分と合わさり
アユミの頑張りもむなしく、ついに今エンゼに流れ着いたのだった。常識外の流量と流速を持ち
火龍の図体に隠されて気付くのに遅れた兵達を容赦なく襲う
「ギャアアア!!」
「あぢイイイ!!」
「戻ってくれー! グアアア…」
崩れた外壁による狭い出入口に兵士が殺到した事、急に進行方向を変えられない群衆事故
のような状態により、最前線にいた兵達は死亡し、完全に飲み込まれてしまった
「陣形を立て直せー!」
溶岩は絶対防御魔法にせき止められた。しかしまだ安息は訪れなかった
北から大量のサラマンダーが溶岩を泳ぎ…いや、歩いてやってきたのだ
「怯むな! 弓矢とフリーズを撃ち続けろ!!」
「「「イ、イエッサー!!」」」
ディーン王子と兵士達は奮戦するも、初めて見るサラマンダーにうまく対処できず
膠着状態となり、火龍に態勢を整える時間を与えてしまう
「くっ…何か手は…」
絶対防御魔法は永遠に保てるものではない、災厄を退けるほど使用者の命を蝕む
もし途中で王の命が尽きて解除されれば溶岩に埋まって滅亡する…
ディーン王子は焦りを感じていた…その時
「助太刀するニャー!!」
剣形態のカラドボルグがサラマンダーの真上から電撃を浴びせた
大したダメージにはならないが、若干混乱して同じ所をぐるぐる回る個体が出始める
その後カラドボルグは猫形態になってディーン王子の前に座った
「お前は…あの時の化け猫か!?」
「ニャフ…決闘裁判では世話になったニャ、こっからは吾輩も一緒に戦うニャ!」
「…ありがたい! 共にエンゼを守るぞ!」
ディーン王子は弓を持ち直し、カラドボルグは剣形態で再び宙へ移動した
***
「吾輩の自由落下じゃ、あいつの鱗に刺さらなかったニャ…やっぱりアユミに投げてもらわないと
でも…士気に関わるから言わないほうが良いかニャ」
***
「リューツ! ジェニファー! 2人とも無事だったか!」
「ギルドマスター! 何とか避難は終了しましたが…完全とはいかず…」
「寝たきりの人にまで手は回らなかったわ…」
「いや…その判断は正しい、本来は俺の仕事だったが…済まなかったな
だが泣いてる暇は無い! 今ディーン殿下が戦っておられるから、俺達は
避難民を誘導したら後方支援に回る!」
「矢とか薬の調達ですね、任せてください!」




