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69話 ジェノサイド

インテグル博士が死ぬ少し前、先に脱出したギュスターヴはマイフォには寄らずに

森を通り抜け、ワンダラに向かって長距離マラソンをしていた


「フッ…フッ…フッ…」


アユミの鞄を片側に担いでいるにもかかわらず、呼吸を乱さず理想的なフォームを保つが

ワンダラに着いた時は流石に膝に手をついて呼吸を整える事になった


「ハァ…ハァ…よし、手紙は行き渡ったようだな」


顔を上げ、街の入り口付近に多くの馬車が並べられているのを見てギュスターヴは安堵する

スーザンに託した手紙に、住民を避難させる為の馬車を用意するように書いておいたのだ

そんなギュスターヴを見つけたリューツとジェニファーが駆け寄ってきた


「ギルドマスター! 言いつけ通りに馬車は用意しましたが…」

「一体、何が起こるんですか?」

「ああ、それは…」


ゴゴゴゴゴ…


「キャアッ!?」

「じ、地震!? でかい…!」

「いや、これは…! 北の山が!!」


ギュスターヴが叫び、リューツとジェニファーがその方向を見る。すると

北の山…火山が大きく盛り上がり、表面を覆っていた草木が剝がれ落ち

赤茶色の山肌がむき出しになる…これらが目に見える勢いで起こったので

3人は青ざめる。そんな中、ギュスターヴが不安を振り払うように声を上げる


「もう時間は無い…ギルドに人は集めたか!?」

「は、はい…しかし全員というわけでは…」

「止むを得ん、とにかく行くぞ!」


***


冒険者ギルド内部では静かに混乱が広がっていた。冒険者だけでなく、ギルド職員達も

集められただけで何が起こるかは分からず、パニック寸前の状態だった

そんな中、ギュスターヴ達が入ってきて視線を集める


「皆、俺の話を聞いてくれ!」

「ギルマス!」

「ギルドマスター!」

「間もなく、北の山が大噴火を起こす!」


火山からは黒い煙が立ち上り始め、いずれ起きる惨劇を嫌でも想像させる


「まさか、この地震もそうなんで!?」

「そうだ!」

「「「ヒィィィッ!!」」」

「落ち着け! 今からギルドマスターの権限で緊急の依頼を公布する!

ワンダラ中に火山の事を知らせ、住人を街の入り口に集めろ!

入り口に馬車を沢山用意してあるから、一杯になり次第どんどんエンゼに向けて

出発させるんだ!」

「「「は、はい!!」」」


ギュスターヴの号令を各々が受け、やるべき事を考えて動き出す

後ろに居たリューツとジェニファーも動こうとしていたが、ギュスターヴが2人を引き止め

それからリューツに向き直る


「待て…リューツ、ここからはお前がギルドマスター代理として皆をエンゼに避難させてくれ」

「え…ギルドマスターは…どうするんですか?」

「俺はこの…エルフが黒幕だという証拠を、陛下に届けなきゃならん」


そう言うと、鞄を持つ腕を少し上げてみせた


「分かりました…しかし私にギュスターヴさんの代わりが務まるかどうか…

貴方のように強くもありませんし…」

「前にも言っただろう? リューツ、お前になら安心して受付を任せられると

代理でも変わらん、不安なら…ジェニファー、リューツを支えてやってくれ」

「…分かった、任されたわ…ギュスターヴも気を付けて」


そしてギュスターヴは馬一頭にまたがり、エンゼに向かっていった


***


一方、アユミはモノリスを出て、服の中にエターナルボックスを仕込み

猫形態のカラドボルグをしがみつかせた状態で、火口に向かって飛んでいた

煙はアユミにもしっかり見えていて焦りを覚える


「なんとか…なんとかしないと!」

「ど、どうするニャ!?」

「コールドハンド使って火口に突っ込む…いやダメだ! そんなので火山が止まる訳がない…」


案が浮かんでも、記憶能力強化で覚えてある資料に即座に否定され、答えが出ない

そうして迷っているうちに


ドドドォーーン!!

「ギャオオオ!!」


ついに火山が噴火、轟音とともに溶岩が噴き出し、1匹の火龍が一緒に真上に飛び出した

火口より一回り小さい程度の大きさのそれは、目の前にいたはずのアユミを無視し

翼を広げ、真っすぐエンゼに向けて移動を始めた。エルフが洗脳により火龍を

誘導している事も資料に書かれていた


「アユミ! まずはあいつを撃ち落すニャ!」

「う、うん!」


アユミは全速力で火龍の真上をとり、カラドボルグを剣形態にし、狙いを定める


「心臓は分からない…なら頭!」


そして投擲した。貫通はしなかったが火龍の頭骨深くに突き刺さり

そのままカラドボルグが電撃を放った


「ゴ…ガ…ァ…」


然しもの火龍も、脳を直接焼かれたらひとたまりもなく、眼下の森へと落ちていった

だがこれで安心はできなかった。視線が地上に向いた事で、土煙が高速で

森を覆っていく様子が見て取れた。火砕流である


「は、速い…溶岩だけじゃないの!?」


噴火を見たことの無かったアユミは驚きを隠せない。それに追い打ちをかけるかのように


ドドドォーーン!!

「「「ギャオオオ!!」」」


再びの噴火とともに、今度は3匹の火龍が飛び出し、同じようにエンゼに向けて移動を始めた

またカラドボルグを投げようにも、深く突き刺さった状態から今ようやく自力で

抜け出た様子だと見て分かり、代わりが無いかエターナルボックスを漁る


「そうだ! これで…!」


インテグル博士の使っていた短剣を思い出し、取り出して先頭を飛ぶ火龍の

眉間を目掛けて投擲した。正面からなので流石に回避行動を取られ、火龍は首を反らす

だがアユミの「投擲」は並の速度ではなく、反らしてなお眼球に直撃した


「グギャアアア!!」

「浅いっ…次は…」


当たった1体はいきり立って飛行速度を上げて突出し、アユミを飲み込まんと大口を開けた


「これで…どぉだああ!」


アユミは金床を取り出して頭上に掲げ、そして投擲した

この質量でも速度が変わることはなかった


ドグシャア


当たった火龍の頭部はグロテスクに破裂して飛び散り、そして落ちていった

それと入れ替わりにカラドボルグがアユミの手元まで浮かんで戻ってきた


「アユミ!!」

「うん!」


そして構えなおした時、残った2匹の火龍は口を開けて熱を蓄え

2つの巨大な火球を吐き出してアユミに飛ばしてきた


「く…このっ…」


アユミは回避よりも攻撃を選んだ。投擲されたカラドボルグは片方の火球を突き破り

1匹の火龍の口腔内に突き刺さってから電撃を放って仕留めた。しかし

もう片方の火球はそのまま受ける事になった


「ぐああ…っ」


火傷無効だが衝撃を防ぐ事は出来ず、墜落させられた。咄嗟にエアスラッシュを使って

空中で体制を整えてから着地できたが、服は焼け焦げてボロボロ、体中が細かい傷だらけで血がにじむ

落ちた場所は、ワンダラからエンゼに向かう時に見た窪地だと分かった

痛みで動けない中、火龍はさらに火球を飛ばしてきた


「ううっ…!?」


アユミは防御態勢をとるも、火球は一見すると何もない地面に着弾した

その衝撃で地面に亀裂が入り、そこからも溶岩があふれ出してきた。側火山である


エルフの資料によると、溶岩が出る場所を増やす事で早くエンゼに向かうよう仕向けつつ

北にあるエルフの領域まで溶岩が溢れないように調節したのだという

火球を落とす座標まで事細かに書かれてあった


「どうする…どうすれば…」


腕が上がらないので投擲はできず、1匹の火龍は悠々とエンゼに飛んで行った

そしてアユミのいる窪地には溶岩が溜まっていく…その時である


「こ、これは…箱が!」


エターナルボックスの中へ溶岩がどんどん流れ込む。結果的に消滅した事になり

溶岩がエンゼに向かうのを妨げる事ができそうだった。アユミはボックスを

両手で持ち直して動かないようにした


***


アユミが排水口役になっている間、南西では数台の馬車が走っているのが見えた

避難が行われている事に安心しつつも、自分が溶岩を止めていないと

馬車も走れなくなるだろうと考え、気を引き締める


しばらく経ち、足首は溶岩で埋まって服が自然発火で燃え尽きた頃

ようやくカラドボルグが追いついてきた。しかしアユミの周囲は灼熱であり

賢いカラドボルグは自分が溶けてしまう事を予想して近付けずにいた


「アユミー! ニャアァ…近付けないニャ…」

「カラドボルグー! 僕はここで溶岩を止めてるから、先にエンゼに行っててー!」

「いつまでやってる気ニャー!?」

「火山が止まるまでー!」

「バカ言ってんじゃないニャー!」


自分でもそう思う…アユミは少しの間目を閉じて自戒するも


「こんな非常事態なんだからしょうがないでしょー! 後で迎えに来てくれればいいからー!」

「わ、分かったニャー! 絶対行くからニャー!」


アユミはカラドボルグを見送り、同時にエンゼにドーム状の青い膜が張られているのを確認する

火龍の吐く火球を弾いている…「絶対防御魔法」が使われたと一目で分かった


「申し訳ありません、陛下…」


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