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65話 信用で準備

アユミが鍋を堪能した後、今後どうするべきか考えを整理していた所に

ギュスターヴが訪れた


「バロー、今空いてるか?」

「ああ、今飯を食い終わった所だ」

「こんにちは。立ち話も何ですし中へどうぞ?」


アユミは、ミミの招きで家の中へ入ったギュスターヴのもとへ、立って近づく


「アユミも居たか…丁度いい、今回の事件についてアユミとバローの意見を

聞いておきたくてな」

「あ、はい」

「ふむ…じゃ、奥の部屋へ来てもらうか」


***


「あいにく客間は無いが…まぁ、座ってくれ」


そこはバローの自室だった。普段この家に居ないので机の上に

整理されていない荷物が置かれているが、床には何も無い

バローは小さなマットを3つ敷き、それぞれに座らせ、向かい合う

遅れてカラドボルグもやってきてアユミの横に座る

そしてギュスターヴが咳払いをして話を切り出す


「ラシューとルガイの取り調べをやったんだが…どうも要領を得ん

ラシューは「村の外から来た女は殺す」の一点張りだし

ルガイは何を聞いても知らぬ存ぜぬ…性格の問題なのか

バローの意見を聞いておきたい」


「そうだな…ラシューは両親が蒸発してルガイに引き取られて

当初は塞ぎ込みがちだったが、急に活動的になってルガイの補助を

しだしたな…だが急にあそこまで狂暴になるとは予想していなかった」


「アユミが言ったニャろ? 洗脳されてるって」

「カラドボルグ、割り込んじゃダメだって」

「洗脳か…そう考えると辻褄が合うと思えるな」

「ふむ…本当に洗脳されてるとなるとエンゼの教会に連れていく必要がある

本格的な取り調べができるのはそれからか…じゃあ次にルガイについて教えてくれ」


「ルガイ…あいつは親から村長の座をそのまま引き継いだんだが、村の連中の話を

ロクに聞かず、自分の都合のいい様に解釈してばかり…それでも最低限の仕事はしてたが

そうだな…少なくとも誰かを殺すような度胸は無かったはずだ」

「うーむ、しかしアユミを運んで崖から落とした。多数の目撃者がいるが…」


「確かに僕を運んで落としたのはルガイ村長ですが、僕がラシューに首を切られる所を

村長は目撃していませんでした。彼は、あの血で汚れた隠し部屋…その前にある部屋で

逆さ吊りにされて首から血を流している僕を見つけ、こんな状態で生きているのは

魔女に違いないから捨ててしまおうと思ったようです」


「いやおかしいだろ! そんな状態のアユミが村長の家に吊るされていた事を考えたら!」

「あいつめ…ラシューを疑わないとは、そこまで耄碌したか…溺愛からか…?」

「村長は隠し部屋が血で汚れていた事も知らなかったのかもしれません」

「それもおかしいだろう…自分の家なのにだぞ?」

「まぁ…そう…ですよね」


「アユミ、もっと自信持つニャ。当事者なんニャから」

「勿論アユミの事は疑ってはいないが…お前が訴えなきゃルガイを連行することは

できそうにない、どうする?」


アユミはしばし考える、だがこの後の事を考えると、ルガイの連行に手間取って

避難に時間が掛かってはいけないと結論付けた


「訴えません」

「む…そうか、なら俺からは以上だ、物証は確保したし明日にはラシューを連れて

引き上げる事にしよう…アユミ、バロー、助かったぜ」


そう言って席を立とうとするギュスターヴをアユミが引き止める


「待って下さい、僕もお二人に話さなければならないことがあります」

「な、何だよ改まって…」

「俺にもか…どうした?」


アユミは呼吸を整えてから言った


「結論から言います。この大陸は、遅かれ早かれ北の火山の噴火によって全てが溶岩の底に沈みます」

「「…!?」」


ギュスターヴとバローは驚愕のまなざしを向けてきた


「一から説明します。マイフォからずっと北に行ったところにエルフが隠れ住んでいる建造物があります

エルフとは、魔族のように尖った耳を持ちますが角は生えておらず、肌の色は人間と同じで

寿命は1000年を余裕で超える種族です。また魔力も強力で、ラシューに洗脳を施し

火口の圧力を封じ続ける事が出来るほどです


エルフは自分の意志でいつでも火山を噴火させることができ、あと100年溜め続ければ

魔族と人間の全ての土地を溶岩で流せて、人間の「絶対防御魔法」すらも貫通できるそうです」


「なっ!? その魔法は王家の秘術だぞ! 何で知っている!?」

「エルフの隠れ家にあった資料にそう書いてありました」

「ぬうぅ…」


ギュスターヴは特に激しく狼狽した。バローは難しい顔をしながら聞き返す


「洗脳というのがエルフとやらの仕業だと…それで、俺達にどうして欲しいんだ?」

「まず、マイフォとワンダラとジスの住人をエンゼに避難させたいです。今なら噴火しても

絶対防御魔法は貫通しないので、最悪の事態は回避できます」

「アユミ…こんな突拍子もない話…俺らも半信半疑なのに村の連中にどう説明しろと?」

「ううーん…」


アユミは頭を抱える、人間関係不得手の自分にとってはこれ以上ない難題

悩んだ結果、鞄の中から100800ゴールドを取り出した


「バローさんに依頼します。ここに10万はあります、どうにか皆を連れて避難して下さい」

「…」


バローはしばし沈黙した後、口を開く


「本来これだけでは足りないぞ…半ば強制的に立ち退かせるわけだからな」

「アユミ、無い袖は振れないニャ。その金だって持ち金全部ニャのに…」

「う…後は…体で払うしか…」


それを聞いてカラドボルグがのしかかってきた


「アユミ! そんニャ安直な方法許さないニャ!」

「むぅ…考えてみれば、僕には財産と呼べる物が鍛冶道具位しかない…

人を雇う事なんて夢のまた夢…じゃあバローさん、せめて

ご近所さんだけにでも避難を呼びかけて下さい。獣人の方達が

絶滅さえしなければいいので…」

「どうやら冗談とかではないようだな…良いだろう、その依頼受けよう

だが、あまり期待はするなよ」

「はい、ありがとうございます」


そう言うとバローは100800ゴールドを受け取った。次にアユミは

すっと怖い顔で聞いていたギュスターヴに向き直る


「ギュスターヴさんは僕と一緒に北へ向かい、エルフの企みを直に確認して欲しいのです

道中、エルフの建造した物や兵器がありますので、その都度説明します」

「…もし嘘をついていたら、ギルドマスターとして処罰しなければならないが」


ギュスターヴは真剣な表情でアユミを見ながら言った。アユミはそれを聞いてうつむく


「嘘じゃないです! …でも、これが嘘ならどんなに良いか…溶岩が来ないなら

皆を避難させる必要もなく、密かに事を終わらせられるのに…」

「アユミ…」

「お願いです、僕と一緒に来てください。僕のような突然現れた勇者よりも、

信頼を寄せられている現地人の証人が必要なんです! でも強い人じゃないと

エルフの兵器によって目的地に着く前に殺されてしまいます

そういう人はもうギュスターヴさんしかいないんですよぉっ…」


アユミもギュスターヴを見て、涙を浮かべながら訴える。しかしその涙は自分の意志に

関係なく出てきた物で、動揺させてはいけないと思い急いで袖で拭う。だが止まらない


「うっ…グスッ…ごめんなさい…泣くなんて卑怯な真似を…」


ギュスターヴは、その様子を見て大きな溜息をついて、強張っていた表情を若干緩ませていた


「ハァ…絶対防御魔法の話が出てくる以上、俺としては信じるしか無いか…よし

一晩時間をくれ、ラシューを連行する任務を誰かに引き継いでもらう

ワンダラとジスの避難も…難しいかもしれんが、せめて何時でも馬車が出られるよう準備させる」

「…あっ! ラシューにエルフの事を聞かれたら自害されてしまうので気を付けてください!」

「分かった…また明日な」


そう言って席を立ったギュスターヴを、バローは手を振り、アユミは頭を下げて見送る

そしてヒートハンドを顔に当てて涙と鼻水を蒸発させてから顔を上げた


「ンンー! ふぅー…よし、僕もちょっと出かけてきます」

「ん? どこへ行く?」

「エルフと一戦交えるでしょうから、カラドボルグを鍛えなおしてきます」

「おっ! 待ってたニャ~♪」

「こんな森の中で鍛冶だと? 何を炉にするか知らんが…森を焼くんじゃないぞ」

「もちろんです…では行ってきます」


***


日没、アユミとカラドボルグは、落ちている枝を集め束ねて火をつけて明かりとし

マイフォへの道中で見つけた、湧き水が出ている場所の下流にある小さな湖に来た


「焼き入れをするならこの辺り…後は周囲に燃え移らない場所を…」

「アユミ、湖の真ん中にどでかい岩があるニャ!」

「本当? じゃあそこまで行ってみよう…金床が置けると良いけど…」


言いながら服を脱いで鞄の中に入れ、代わりにエターナルボックスを取り出してから

鞄は木の上に隠し、湖の中央に向かって歩く。徐々に深くなり頭まで水に浸かった


「ニャフン…吾輩は浮かんで行くニャ」


そういうと剣形態になって水面に触れないように浮かんでついてくる。アユミは

火のついた枝を上げながら泳いでいく。この深さならカラドボルグを投げ入れても

底に当たって欠けるような事にはならないだろう。大岩に近付くとともに

水深は浅くなっていき、隣接する時にはひざ上くらいになっていた


「ここニャ…あ、でもどうやってよじ登るニャ…?」

「うん…ちょっと試したい方法がある…少し離れてて」


そう言うとアユミは先に、火のついた枝とエターナルボックスを上に投げて

大岩の上に載せてから、ひざを曲げて屈み、両腕を広げて手の平を水面に向けた


「エア…スラーッシュ!」


唱えながら、手を水面に叩きつけジャンプする。そうするとアユミの体は

猛烈な勢いで上空へ真っすぐ飛んでいき、雲を突き抜けた


「ニャッ!? …たまげたニャ」


カラドボルグが驚いて見ていると、アユミはゆっくりと大岩の上に降りてきた

途中、曲芸飛行の真似事をしながら


「うん…思った通り、手を向けた方とは反対側にふっとぶ

力を加減すればホバリングしたまま自由に動くこともできる

…本来のエアスラッシュとは似ても似つかぬ効果だろうけどね」


そう言うとアユミは苦笑した


「まぁ僕の事はいいから、さっさと鍛冶を終わらせよう」

「わ、分かったニャ」


幸い、大岩は平らだったのでエターナルボックスから鍛冶道具を取り出して

カラドボルグを鍛え始める。叩き伸ばして折り返し、持ち手を作って刃側を尖らせた


「スムーズにできてるニャ、まるで熟練の職人みたいだニャー」

「ほんと…1年も経ってないのに、打ち方が完全に体に染みついてる感じだよ…っと

じゃ、放り投げるよ」


アユミは焼き入れの温度までカラドボルグを熱し、水深の深い位置目掛けて投げ入れた

しばらく経つとカラドボルグは自力で浮かび上がり、アユミの元へ戻ってきたので

刃が欠けていないのを確認してから、同じ要領で焼き戻しを行って研ぐ


「よし出来た…明日は頑張ろうね」

「アユミは毎日頑張ってるじゃニャいか…程よく力を抜いて臨んだほうが良いニャ」

「あはは…」


アユミは笑ってごまかしながら道具をエターナルボックスに入れて湖を離れ

着替えてからバローの家へと帰っていった


***


アユミが出かけている間の出来事


「あなた、お話は終わったの?」

「ああ…ミミ、急で悪いがスーザンとカーメルに荷造りをするように言ってくれ

明日にはここを発ってエンゼに向かう」

「あら…ワンダラに移住する計画じゃなかったの?」

「俺もそのつもりだったが…今詳しくは言えないが、エンゼでなければならない

理由が出来たんだ…なぁに、金なら仕送りして蓄えた分もあるし、商売だって

どうとでもなる…」


ドンドンドン!


「バローさん! 今いいですか!?」

「おう…どうした、お前ら揃って…」


「私達…村の衆が集まって相談したんですが…バローさん

私達の村長になってくれませんか!?」

「今日の一件でよっく分かりました! ルガイの奴に村長を任せてはおけない!」

「俺達、バローさんの事を今まで誤解してた…ルガイにビシッと言ってくれて

胸のすく思いだったんだ!」


「フッ…俺は金では買えない家族という存在を知っている

家族の為なら何だってできる。それだけさ…お前たちもそうだろう?」

「はい…でも、なかなか出来る事じゃないですよ」

「俺を評価してくれるのには礼を言う、しかし俺はとある事情で

どうしても人間の街…エンゼに移住しなければならない

明日にはここを発つつもりだ」


「バローさん…では、我々もお供します!」

「何っ…本当か?」

「俺達ならこの腕一本でやっていけますよ!」

「バローさんの言う人間の街にも興味がありますしね!」

「……分かった! お前ら全員、俺が面倒見てやる!」


「「「オオオー!!」」」


「そうと決まれば善は急げだ、各々家に帰って荷物を纏めてくれ

今ここに居ない連中に声をかけて誘ってもいいぞ!

明日の朝飯を食ったら、ここで落ち合おう!」

「「「はい!!」」」


***


「さぁ…忙しくなるぞ」


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