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63話 必要な事は全て記してある

完全に日が沈み、普通の人なら明かり無しでは歩くこともままならなくなった頃

アユミはカラドボルグを持って再びモノリスに赴く。「記憶能力強化」のお陰で

明かり無しでも迷ったり躓くことはない


「よし、静かに…」


まずカラドボルグを背中に隠しながら入り口に近づく、すると

植物でできた魔法的な懐中電灯を持った…謎の生き物が奥からやってきた

アユミはカラドボルグを抱えてうずくまり、相手の出方をうかがう


相手の明かりがアユミの方を向く、だが明かりの動きが止まることはなく

奥へ…巡回の続きをしにいった。予想通り体でカラドボルグを覆えばバレることは無かった

心の中でガッツポーズを取ると、そのまま抱えながら匍匐前進で進んだ


***


謎の生き物達の休憩所に来た、そこには件のエルフ男が居て水槽の中に

粒状の物体をパラパラと落としていた。まるで熱帯魚に餌をあげるかのようだが

粒は溶けて謎の生き物にまとわり着き、細かい傷を修復しているようだった

アユミはそれを横目で見ながら、ゆっくりと動きを止めずに部屋を通過した


モニターのある部屋に来た。魔法的な懐中電灯が天井にあって明るい

今は誰もいないので、奥の下り階段へ行く前にエルフ男が座っていた席を

短時間覗き込んだ。透明な水晶で封をされた重厚なスイッチが1つある以外は

目立った制御装置等は見当たらない

しいて言うなら、椅子の座り心地が思ったよりも良さそうと感じた

座らないが


アユミは下り階段を指さしてから、カラドボルグを持ったまま

地下へと進んでいった。明かりの無い完全な暗闇の通路であり

壁と天井に張り付いていた明滅している植物の蔓も、この通路には無い

「記憶能力強化」を持っていても、見たことのない場所は

そのまま歩くことはできなかった


「…どう? 先…見える?」

「無理ニャ…」

「しょうがない…短時間だけ照明魔法を使って

少しずつ歩ける範囲を広げていくよ…グロウ」


アユミは、なるべく弱い光になるように調節し、モニターのある部屋に

漏れないように体で覆いながら赤い光を出し、すぐに消す。そうやって

一瞬映る通路の形を覚えて匍匐前進、これを繰り返す


「それで彼は…エルフだった?」

「200年くらい前に見たのと同じ…間違いなくエルフニャ」

「そう…分かった、ありがとね」


***


「グロウ…っ!」


しばらく匍匐で進むと、目の前に木の板が数個立てられているのを見つけた

ここだけ継続的に照明魔法を使い、よく観察してみると

板の高さは30センチ弱、簡単に倒れないように逆T字型に加工されていて

板の頂点から、紐に括りつけられた小さな木の板が数個垂らしてある

いわゆる鳴子の罠だった


「カラドボルグ、ちょっと浮かんでて…」

「ホイニャ」


アユミはカラドボルグを中空で離し、自分の髪を纏めて掴み、照明魔法を継続したまま

慎重に跨いで通過する。幸い全裸なので、衣服が擦れる心配は無い


***


鳴子の罠地帯を無事通過したアユミは、再びカラドボルグを持って匍匐前進していた

あれから罠らしい物は見当たらないが、油断して立ち上がる事はしなかった

脇道なども見当たらず、そのまま進んでいくと、突き当たった所に

僅かに光っている扉があるのを発見し、照明魔法を消した


「ここが…最奥かな?」

「そのようだニャ…開き戸かニャ?」

「うん…他ににめぼしい物は無かったし…少しだけ開けるから、先に入って罠の確認をお願い」

「わかったニャ」


アユミは慎重にドアノブを回し、押してみるが開かない。だが慌てず引いてみると開いた

キッ…と、扉が擦れる音がして怯えるが、後方に見張りの謎の生き物が来ていない事を確認し

深呼吸してから、ドアノブの下から力を加えるように両手を添え、音を立てないように少し開く

その僅かな隙間からカラドボルグが入り込む。内部からは先ほど見た明滅している植物の出す

弱い光が漏れている。夜目をもつカラドボルグなら十分見えるだろう


「扉に紐とか…付いてない?」

「フーム…大丈夫のようだニャ」

「分かった…開けるよ」


アユミは自分が入れる程度まで開けて、まず顔を入れて室内を覗き見る

室内に誰も居ない事を目で見て、アユミは入室し、扉を静かに閉めてから

照明魔法を使って目を凝らす


「立派な…地下室だね」


そこは、資料室や図書室と呼べる程本が多い訳ではなく

理科室や実験室と呼べる程器具が多い訳でもない

ある程度なんでも揃っているような…大学の研究室という印象を受けた

ふと、扉の近くにあったテーブルの上を見ると、綴じ具で纏められた分厚い資料が

複数個置かれている事に気付き、何気なく内容を確認する…1秒に1ページの速度で


「なっ…あ、あっ…」


そこに書かれていた衝撃的な内容に、手から資料は落とさなかったが、腰が抜けて尻餅をつく

それを気にしてカラドボルグが寄ってきた


「ど、どうしたニャ?」

「カラドボルグ…これにはエルフの恐ろしい計画が書かれてある…ちょっと時間を頂戴

この部屋にある資料を全部見て…考えを纏めてから話すよ」

「ニャ…なら早いところ読んじまうニャ。あのエルフが来ないとも限らないからニャ」

「うん…」


そう言うとアユミは立ち上がり、部屋の奥の本棚にある資料も物色し始めた

読んだ後は痕跡を残さないように、最初に在った通りに戻していく


「それにしても、エルフがここまで残忍だなんて…ゲームやフィクションとかと違いすぎる…

これを阻止しなかったら最後、人間も魔族も全員死に絶える…!」


***


1000年前

ここより北区域の知的生命体の隔絶は完了、魔力操作に優れたインテグル博士を

担当者に任命して、南方への情報統制と監視を開始


800年前

別動隊によって北区域の知的生命体の根絶はほぼ完了

残った南区域の処理については、火口を魔力で封じて圧を溜めて

溶岩で一掃する案を了承。半知的生命体のゴブリンへの対処は継続


600年前

早くも人間と獣人がエルフの存在を忘却、愚かな種族である

火口の圧は順調に溜まっているが、これ以上は蓋が必要

そこで大量のサラマンダーと火龍を4体仮死状態にして

火口に隙間なく敷き詰めて魔力で固めた


400年前

情報収集と現状確認の為、偽装薬を使って人間の教会に潜入

エルフの知識であっさりと要職につく事ができたので

さらに愚かさを助長するために看破の水晶の製造法を伝えて

依存させ、魔族を冷遇するような教義に変更した

これが神託だと言えばあっさりと受け入れられた

そして国王に代々伝わる絶対防御魔法が存在する事も確認

打ち破る為には火口の圧をさらに溜める必要があり、再計算すべきだ

適当な理由で失踪して、人間への干渉を終了した


210年前

社会からあぶれた魔族に対して懐柔を行い囲っておく

単純な強さで階級が決まるような粗暴な社会なので

あぶれる魔族は必ず出る。しかし大勢となった魔族を御するのは

難しい、社会からあぶれた恨みからか、手当たり次第に

喧嘩を始めるようになったので、適当な金品を渡して

一旦解散することにした。だがこの攻撃的な性向は利用できる

魔王には代々伝わる広範囲破壊魔法があると知れたのも収穫だ


200年前

今年は日照りと家畜伝染病が同時に起こり、飢饉となった

だが人間、獣人、魔族ともに蓄えは残っていて

切り詰めれば生活は送れる水準であった


これを好機と捉え、「遠隔操作ユニット」を使って

魔族の蓄えの大部分を焼き払った。もちろんエルフの痕跡はない

困窮した魔族は人間に助けを求めた、だが教会への工作の甲斐あって

人間の魔族に対する印象は最悪であり、冷淡にあしらった

粗暴な魔族は怒り、人間に戦争を仕掛けた。計算通りである


魔族の力は強く、人間は領土を奪われていった。このまま行けば

魔族に対して絶対防御魔法を使うことになるだろう

魔法の効果時間は長くても2日、連発はできない事も分かっている

いつでも噴火させられるように準備して

戦況を遠隔操作ユニットに監視させた


何ということだ、「異世界召喚」という秘術を人間が持っていたとは

人間の教会に潜入した時には無かったので、最近編み出されたのだろう

勇者だかチートだか知らないが、あのような力を持つ人間は見たことがない

戦況はもはや完全に人間側に傾いた、絶対防御魔法が使われる事は無いだろう


獣人にも便乗されて、魔族は追い詰められ、遂に広範囲破壊魔法を使った

間近で様子を見ていた遠隔操作ユニット数体が逃げ遅れて消し炭になった

どうやら城一つ程の範囲に熱と衝撃圧力を密集させる効果らしい

こちらの噴火、溶岩に対抗できるものではないだろう


うかつに噴火させなくて本当に良かった

今日、魔族がオグホープなる島に首都を移していた事が判明した

懐柔した魔族も、こればかりは話していなかった

たとえ人間の首都を溶岩で流せたとしても、オグホープまでは届かない

全てを溶岩で埋められるよう、さらに火口の圧を溜める必要がある


20年前

ここまで魔族は島から出ずに研鑽を積んでいたようだ。変に動かれるよりは都合が良い

人間の異世界召喚に対抗する手段ができた為、島から打って出たようだ

しかし結局、それぞれの支配する領域が元に戻っただけであった

火口の圧は順調に溜まり続けている。島を含め全てを溶岩で流すには

後100年と少し掛かるはずだ。後で計算し直す


現在

この場所を隠しつつ、それぞれの種族に対して最後の工作を行う

万が一にも種族間で一致団結されたら計画に支障が出る

噴火させる直前まで不和の種を蒔き続ける事が重要


人間のバーン家を没落させて人間の最新情報を流させる

極めて愚かなアグリーが都合よく動いてくれる


獣人のラシューを洗脳して人間との関係悪化を促す

虚栄心に満ちたルガイのお陰もあり順調に離別が進む


魔族のヴァニアを買収してスパイ活動をさせる

金さえ渡せば勝手に人間を攫ってこちらに流してくれる

人間に明かされたとしても魔族への憎悪が増すので丁度いい


送られてきた新鮮な人間は薬の材料にはなるが

別に必須ではない。多くの人間が送られた時少し悩んだが

ヴァニアが連れていたトラ男がバトルロイヤルを提案したので

採用してみた所、想像以上に良い余興になった

人間を集めて閉じ込め、最後の1人になるまで出さないと告げた時の

人間達の顔、殺し合う様子、最後の1人を私自身の手で串刺しにした時の顔

どれも刺激の少ない我が生活に潤いを与えてくれた

それも後100年程で終わるだろうが


アユミという白髪の人間女がバーン家に介入してきたが

アグリーは死の直前まで愚かなままだったので大勢に影響は無い


アユミは、バーン家のアーティファクトであるカラドボルグをもって

人間側に加担したので監視を開始


アユミは獣人のラシューに殺され、カラドボルグと共に海の藻屑となった


***


全ての資料に目を通し、モノリスを密かに脱出したアユミは

持っているカラドボルグに内容を語り掛けながら

森の中を南へ駆けていた


「溶岩で全部流すニャんて…本当に書いてあったのかニャ!?」

「うん…僕も目を疑ったけど、そう書いてあったよ…っと!?」


急に視界が開けたので、アユミは急停止した

森を抜けたのかと思ったが、足元を見ると違うことが分かった

今立っている場所は、階段状に隙間なく積み上げられた岩々の頂上部分

東西にかけて同じ様に岩が積まれており、夜明けなのもあって果てが見えない

「足元には」生い茂った森が広がっていて、数体の「遠隔操作ユニット」が

明かりをもって周囲を見回っている


「あ、アユミ…これは何ニャ…?」

「ここから北側に溶岩が流れない様にする為の…岩で作られた樋だってさ

1000年もあれば、こんな大掛かりな事も出来るんだろうね」

「不自然ニャ…こんニャ高く積まれた場所は遠くからでも丸見えニャ!」

「その答えは…下りきった所で分かるよ」


そう言いながら、カラドボルグを手放して慎重に下りていく

カラドボルグは宙に浮いてゆっくりとついて来る

「遠隔操作ユニット」はカラドボルグをただの岩と認識しているようで深追いしない

そして下りきってから改めて北側を見ると、そこには棘のついた蔓で覆われ

とても登れなさそうな「木々の壁」が目に映っていた。勿論幻である


「ニャ、ニャんじゃこりゃぁ…」

「魔法で偽装…カラドボルグと会う前にワンダラの下水道で同じ物を見たよ

ここまで広範囲なものじゃなかったけど…」

「こんなのを見せられちゃ信じるしかないニャ…これからどうしたもんかニャ…」

「…」


アユミは目を瞑り、しばし考える


「噴火は間違いなく起こる…これだけは避けられない。僕に出来ることは

できるだけ多くの人達を避難させること、何とか冒険者ギルドの職員の誰かに

この危機を伝えられれば…根絶やしという最悪の事態だけは防げるかもしれない」

「じゃあ…まずはマイフォへ寄ってみるべきニャ、そろそろスーザンが

人手を集めて出発してるかもしれないニャ」

「そうだね…うん、行こう!」


そう言うとアユミは、猫形態となったカラドボルグと一緒に

全力で駆け出した


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