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61話 居場所

アユミは、どこか分からない波打ち際にうつ伏せで倒れていた

縛っていた縄は、海流で緩んでどこかへ流れ去ったようだ


「ゲェッ…ゲホッ、ゲホッ、ケフッ…」


初めに感じたのは、鼻と口に入っていた海の塩分

炎症で呼吸がつらい…「呼吸省略可」と「健康な肉体」での

自然治癒に期待するしかない


「くっ…う…うぅ…?」


アユミはゆっくりと…本当にゆっくりと目を開けた

うっすらと夕日らしき明かりが見えるが、それ以外はまだ分からない

血が頭に回らず、ひどい眩暈が長く続いているようだ


「カラド…ボルグ…どこ…?」

「ニャアァ…」

「カラド…ボルグ…!」


アユミは声のする陸地側の方へ這って進む。徐々に視界が鮮明になってきたが

まだ立ち上がれそうにない。程なくカラドボルグの元へたどり着くが

海水に長く浸かっていたからか毛はゴワゴワ、所々禿げて傷だらけで倒れていた

アユミはその痛々しい姿を見て涙を流しながら、震える右手で触れる


「だい…じょう…ぶ…?」

「アユミこそ大丈夫かニャ…?」

「大丈夫ゲホッ、ゲホッ…もう…僕は「不老不死」なんだから

ほっといてゲホッ、よかったのに…」

「…吾輩、錆びだらけになっちゃったニャ」

「うぅ…精錬したく…ても道具は…マイフォに…」

「アユミの手でこねるだけでいいから熱してほしいニャ…」

「わか…った…ゲフッ…こっち…へ…」


カラドボルグは剣形態になってアユミの手に収まる。しかし赤錆まみれで

刃もボロボロ、折れてはいなかったが、錆は奥深くまで浸透しているだろう


「はぁっ…はぁっ…ヘルファイア…」


今のアユミの状態では、カラドボルグの重さで腕が上がらない

アユミは横向きに寝転がり、右手の甲を浜の砂地につけ

カラドボルグを手のひらに乗せて、震える左手をその上に乗せて挟んだ

徐々に赤熱し、付いた海水が水蒸気となって抜けていった

やがてドロりと溶け出したので左手でぎこちなく、丸に近い形にこねて熱を止めた


「ハァ~…やっぱりアユミの熱は最っ高ニャ~…」

「そう…」


ひとまずこれでカラドボルグは大丈夫だろう…そう思った途端

強烈な眠気に襲われ、アユミは右手にカラドボルグを乗せたまま意識を手放した


***


猫形態になって森の中でキノコを探して咥えるカラドボルグ


「…ほっとくもんかニャ、せっかく不老不死の生活を満喫する準備が整ったんニャから

今更アユミを手放すニャんて冗談じゃないニャ。アユミが海に投げ落とされたら

陸地で待ってた方が利口なんだろうケド…イヤだね

でもそう言ったらまーた卑下し始めちゃうだろうからニャー」


***


次に目覚めた時、朝日が昇っていた。アユミの体が移動させられた形跡はないが

傍にキノコが乱雑に積まれていた。誰が置いたのかは言うまでもない

半分は毒キノコだったが…アユミは微笑を浮かべながら、ハイハイで近寄ってから

足を投げ出して座り、食べられるキノコを取って食べる。手の震えはおさまっていたが

足は痺れていてまだ立つのは厳しい


「はふぅ…」


鼻と口の炎症は良くなり、眩暈もおさまっていた。もうしばらく休めば歩けるようになるだろう


「フニャ…」


北の森から猫形態のカラドボルグが、口にキノコを何個か咥えてやってきた

アユミの傍にキノコを置き、キノコを取って食べていたアユミに満足げな笑みを浮かべ

隣に座った。毛はもじゃもじゃしていたが、禿げや傷は無かった


「起きたニャ」

「うん、ありがとね…」


アユミはカラドボルグを、満面の笑みを浮かべながら、優しく撫でる

不器用だけどアユミの為に一生懸命キノコを採ってきたのがとても愛らしく思えて

短時間だが、悲哀のこもったジト目も直っていた


「それで、どうしてこうなっちゃったのニャ…?」

「うん…ラシューっていう村長の孫娘に、家まで連れていかれて…まず毒を盛られたよ」

「ニャんと!?」

「村の外から来た女だからって理由でね…それから多分…首の血管を切られて逆さ吊りにされて

確実に死ぬように仕向けたのかな」


「ニャんじゃそりゃ!? そいつのほうがよっぽど魔女じゃニャいか!

アユミがどうして魔女呼ばわりされるニャ!?」

「わかんない…吊られてしばらくした後、ルガイ村長がやってきて…首を切られても死なないから

魔女に違いないって言われて…崖から捨てようって話になったんだ」

「狂ってるニャ…マイフォの事件はそいつらが犯人ニャ!」

「うーん…」


普通に考えたらカラドボルグの言う通りである、しかしアユミには

ラシューの能面のような顔が印象に残っていた


「他人を殺す時って…普通どんな顔をするものなのかな?」

「ニャ、ニャに言ってるニャ…?」

「ラシューは無表情で何の躊躇いも無く切り付けてきた…あんなことが

ただの村娘に本当に可能なのか…未だに信じられないよ」

「実際にされたからこうなったんじゃニャいか! アユミは

自分を殺すような奴を庇おうって言うのかニャ!?」

「そういうわけじゃないよ、ただ…」


「あーもぅ! さっさとマイフォに戻って告発するニャ!」

「待って! スーザンさんは村の人以外には排他的だって言ってたし

魔女呼ばわりされた僕が言っても誰も信じてくれないだろうね」

「泣き寝入りする気ニャ!?」

「違うよ、言うならギルドの皆と一緒に…カラドボルグ、僕が崖から落とされてから

時間はどのくらい経った?」

「ニャ? ウーン…丸二日半てところかニャ…」

「そう…スーザンさんは人手が集まり次第向かうって言ってたけど

時間が掛かりそうな様子だったし…よし、先に西へ行こう」


「西ニャ? 海岸沿いに南西に行けばマイフォに戻れるケド…

どこへ行くつもりニャ?」

「夢の中でサリエルさんに助言をもらったんだよ、西へ行くと良い…ってね」

「例の腹黒天使かニャ…まーアユミが行くニャら吾輩もついていくニャ」

「ありがとね…西に何があるか分からないけど、そこの調査が終わる頃には

ギルドの人達もマイフォに来るだろうね…そろそろ出発しようか」


足の痺れが取れたので、アユミはゆっくりと立ち上がった

するとボロボロになっていた鍼灸ワンピースが破れて落ちた


「あー…まぁ仕方ないね」


もう破れて肌があらわになったからといって気にするアユミではなかった

脱ぐと、首にかけていた冒険者証も流されてしまっていたことがわかり

完全に全裸になったので、カラドボルグの傍で「透明化」を使って

進むことにした


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