59話 魔女とは
村長の家は村の中央にあり、周囲の家の3倍は大きく
中からはお香の匂いが漂っていて、家の中に入ると少しむせた
「どうぞ、お掛け下さい」
「はい」
客間らしき部屋でアユミが椅子に座ると、ラシューは赤い茶の入った
陶器のカップを差し出した
「祖父はじき戻って来るので、茶でも飲みながらお待ちください」
「はい、いただきます」
アユミが口をつけると、酸っぱい味がした。そういう味なのかと飲み進めていくと
急に気分が悪くなっていき…
「あの…一体何のお茶…げぼぉ」
ついに血を吐き、机に突っ伏す。まさか村長の孫娘という高い立場の者が
いきなり毒を盛るとか夢にも思わなかった
「私はこれからお前を殺す」
「な、なんで…」
「お前が村の外から来た女だからだ」
そう言うとラシューはナイフを取り出し、アユミの髪を鷲掴みにして
返り血を浴びない角度にして、頸動脈を正確に何の躊躇いも無く切り裂いた
「く、狂って…る…」
勢いよく噴き出す自分の血を見ながら、アユミは意識を手放した
その様子をラシューは、顔色一つ変えず無表情で黙って見ていた
***
気絶してからどのくらい時間が経っただろうか…?
「う…ぁ…」
当然「不老不死」なのだから生きている。周囲にラシューは居ないが
アユミは両腕と両足首を縄で頑丈に縛られて逆さ吊りの状態で放置されていた
真下には、大きなバケツの中に、アユミの血液が受け止められ大量に溜まっている
どうやら血抜きをされていたらしい、「健康な肉体」の効果で、頸動脈の出血は止まっていたが
頭以外に血が巡っていない、首を動かして周囲を観察するくらいしかできないだろう
「うぅ…」
周囲を見ると、屋内に居るとわかる。内壁とお香の匂いから察するに
村長の家からは移動させられていないようだ
さらによく見ると、床に複数本のナイフに研ぎ石、
壁には赤い血で汚れた2着の女性服が掛けられており
机の上には予備の縄と何かの本が置かれていた
アユミの今の角度からは本の内容は知ることができない
ガチャ
その時、ラシューが部屋に入ってきた。彼女は、アユミがまだ生きているのを見て
一瞬動きが止まったが、すぐ考え、アユミを担いで隣の部屋に移動した
***
隣の部屋は、先程毒を盛られた客間だった。ラシューはアユミを部屋の中央
机の上に来るように天井に吊り、今まで吊られていた部屋への扉を本棚で隠し
アユミの頸動脈の同じ個所を再び切ってから部屋を出て行った
「ぐっ、うぅ…」
再び血が噴き出て、意識混濁となるが、今度は気絶はしなかった
…外からラシューの叫び声が聞こえる
「キャアァ!! 誰か来てェ!!」
「どうしたラシュー!? うっ…こ、こいつは!?」
1人の犬獣人の老人が入ってきた。
「お爺様! 私が来たときにはこのような事に! く、首が!」
「首!? おおっ! この深手で生きておる! こいつは魔女に違いない!!」
「う…あ…」
ラシューのお爺様…つまり村長であるルガイ、彼は
何故アユミが縛られ、吊り上げられて血を出しているのかを気に留めず
頸動脈を切られても死なない事に意識が向いているようだった
告発したくても、意識混濁のアユミには無理だった
「こんな恐ろしい魔女は崖から捨ててしまおう! 手伝っておくれラシュー!」
「はい、お爺様」
ルガイはアユミを下ろして背中に担ぎ、ラシューが外への扉を開けた
外は日が沈んでおり、ラシューは松明を手に取って誘導した
***
村人達はアユミを見て悲鳴を上げて一旦は逃げるものの、すぐに他の村人を呼んで戻ってきて
最終的には村内にいる殆どの村人が、松明を持って集まってきた
「村長! これは一体!?」
「んっ? おお! ワシが魔女を成敗してやったのだ!」
「ひょっとしてそいつが女達が行方不明になった犯人ですかい!?」
「うむっ! そうに違いない!」
「ち…が…う…」
村人達は犯人が捕まったと思って、一部は安堵して歓声を上げていた。アユミはそれを聞き
真犯人が捕まっていないのに喜ばせて申し訳なく思っていた
***
やがて東の崖へとたどり着いた。ここは海食で出来た断崖絶壁であり
村人の中で知らない者はいなかった。そしてここに来た以上何をするかも
村人は全員分かっていた
「今から村を騒がせた魔女に鉄槌を下す! これで村に平穏が戻るだろう!」
「ま、待ってください!」
少し遅れて、カーメルとミミとカラドボルグがやってきた
だがルガイは意に介さず、アユミを投げ落とした
大きな音と水しぶきが上がり、衝撃で再びアユミは気絶した
「アユミィー!!」
カラドボルグも後を追って崖から海に飛び込んだ
その様子を見てルガイはさらに叫ぶ
「ぬおっ! 不吉な黒い猫! やはり邪悪な魔女だったのだ!
カーメル! お前が呼び込んだそうだな! どう責任を取ってくれる!?」
「そ、そんな…僕は…」
「我が子の責任は私が取ります。どうか寛大なお裁きを」
「ミミよ、責任は重いぞ…」
ルガイはそう言って薄ら笑いをミミに向ける
ラシュー以外、真実を知るものは誰もいない中、同調圧力でその場は収められた
一方カラドボルグは、アユミを縛る縄に食らいつく事には成功したものの
そのまま泳いで戻ることはできず、海流で沖へと流されていった
***
「…なんだ? …おおっ! アユミが死んでいるではないか!? なんとあっけない…
カラドボルグは…進んで共に海の藻屑になりにいくとは…なんと愚かな…
マークしていたというに…拍子抜けだ、お前は戦線に戻って良い、行け」




