58話 不気味な静けさ
アユミは、「炎獣の革」とやらの情報を得るために
ワンダラの鞄屋「アダムのアトリエ」にやってきた
今回はカラドボルグも一緒に入る
「いらっしゃ~いませぇ~♪ あらぁ…ペット同伴されると困っちゃうわ」
「ニュフフ…吾輩は大人しい猫ニャから、店を荒らしたりはしないのニャ」
「あらまぁ…♪」
「店主、「炎獣の革」で出来た品を見せて欲しいニャ」
「炎獣…? ちょっと分からないわねぇ…」
「そ、そんニャバカニャ…」
「う~ん、ちょっと待っててね?」
アダムは、本棚から資料を取り出して見せた
「あったわ…これね? 「炎獣の革」…200年前には高級な財布や鞄によく使われていた…
でも、元となるサラマンダーが火山の活動停止によって完全に姿を消した…って書いてあるわ」
「ニャアァ…一縷の望みガァ…」
「…完全に?」
カラドボルグはうなだれるが、アユミは妙な違和感を覚えた
「その資料…見せてもらってもいいですか?」
「ええ、いいわよ」
アユミは1秒に1ページの速度でパラパラと見ていく、アダムはあっけにとられていたが
程なく全てのページを見終えた。アダムが嘘を言っているわけではないと分かる
「今まで、1度も見たことも聞いたことも無いんですね?」
「え、ええ…そうよ」
「わかりました、ありがとうございます…行こう」
「力になれなくてごめんねぇ…また来てね?」
アユミは資料を返し、頭を下げてから、カラドボルグを連れて店を出た
***
アユミはワンダラの外で野宿の準備をしながら、さっきの資料内容について話し合う
「カラドボルグ、サラマンダーの事についてもっと詳しく教えて?」
「ニャア? ウーン…溶岩の中で産まれて…エサは岩石で…集団行動が多くて
火山以外で生活しようとしないってところかニャア…」
「…やっぱりおかしいね、そのサラマンダーっていうのが火山でしか生きられないとしても
どこか別の火山に移動するはず…北の火山がそこまで特別な場所なのかな?」
「…アユミ?」
「あの資料にも「完全に姿を消した」って書いてあったけど、高級な財布や鞄に
使われていた素材を完全に消滅させるわけがない…カラドボルグ、サラマンダーの
養殖とかは行われなかったのかな?」
「ウーン…吾輩が自由にしてた頃は話題にも出なかったはずニャ…」
「そう…」
つまり、養殖をする間もなく絶滅したという事になる。養殖が難しい種という可能性もあるが
その場合でも、種の保存という概念位はあるはず…アユミは何か作為的だと感じていた
「マイフォの事件が終わったら、北の火山へ確かめに行こうか、あの資料に皮のなめし方も
書いてあったことだしね」
「…よく分からニャいけど、アユミが可愛い服着るのに乗り気になったのは良い事ニャ」
「そういう訳じゃないけど…まぁいっか」
明日出発するので、話を切り上げて寝た
***
朝、「肉野菜炒め」を食べてから「ギルドマスター部屋」に向かい
そこにいたギュスターヴとスーザンに挨拶する
「おはようございます、今からマイフォへ出発しようと思います」
「そうか…気を付けてな」
「お気を付けて! 私達も人手が集まり次第向かいますから!」
「もし凶悪な犯罪だったら、すぐ引き返して安全策をとってくれ」
「吾輩に任せておくニャ」
***
次に、古物商店のバローを訪ねる
「おはようございます、今からマイフォへ出発しようと思います」
「おお、こちらも手紙を用意した、ミミか…次男のカーメルに渡してくれ
俺と同じ、ウサギ獣人だ」
「わかりました、あと…これとは別に聞きたいことができたのですが」
「なんだ?」
「炎獣の革…北の火山周辺に生息しているサラマンダーについて
何か心当たりはありませんか?」
「む……ちょっと待っていろ」
バローはしばし考え、奥から箱を取り出してきて、手袋をはめてから
中からくすんだ青色の物体を取り出して見せた
「炎獣の革を使った財布だ」
「はぁ…名前から赤いと思ったら青いんですね…」
「生きてる時は赤く、革にすると青寄りの綺麗な光沢が出るらしい…もっとも
これはボロボロで見る影もないがな…何故この話をした?」
「昨日…ここで話をした後、カラドボルグが炎獣の革で可愛い服を作ろうとか言いだしまして…」
「ククッ…それはまた豪勢だな」
「ニャア…」
カラドボルグは居心地が悪そうだが、続けて話す
「それで、この革の鞄を売ってくれた店主のアダムさんなら、服とまではいかなくても
何か取り扱っているはずと思ったのですが…炎獣の事をよく知らなかったらしく
見せられた資料にも、元となるサラマンダーが火山の活動停止によって完全に姿を消した
…とだけ書いてあり何か作為的だなと感じ、古物商店になら流れているか…と考えたのです」
「そうか…あのオカマ店主は中古品はあまり置かないからな…」
バローはボロボロの財布を元通りにしまいながら、またしばし考える
「いつからだったか…俺がこの商売を始める前から炎獣の革製品の値は上昇傾向にあった
俺の所にも持ち込まれ、儲けさせてもらったが…新品が出回らないことに違和感を感じて
独自に調査した時期があった。最初は、誰かが買い占めて値を釣り上げてると思っていたが
経年劣化で値が下落を始めても市場に流れてこないのには不気味さを覚えたもんだ
やがて、サラマンダーを狩るハンター自体が残らず行方不明になっている事に気付き
俺は身の危険を感じて手を引くことにしたわけだ」
「行方不明…火山に近いですし、ひょっとして今回のマイフォの怪奇事件と関係が…?」
「可能性はなくはないが…それはもう陰謀論だ。決めつけて行動するべきじゃない」
「そうですね…では、北の火山にはうかつに近付かないようにします」
「それが賢明だな」
「…話は済んだかニャ? そろそろ出発するニャ」
「あ、うん。では失礼します」
「ああ、またな…」
***
「…あ、村長が特に偏屈なのを伝え損ねたな…まぁいいか」
***
マイフォへの馬車は出ておらず、道も全く整備されていないので、徒歩で森の中を行く
アユミには「記憶能力強化」によるオートマッピングがあるので迷うことはない
歩き続けて正午になったころ、運よく湧き水が出ている場所を発見した
下流に小さな湖ができていて、水際に食べられるキノコも生えている
「ちょっと休憩していこっか」
「わかったニャ、疲れてニャいけど…」
「気分転換だよ」
カラドボルグが小声で漏らす。実はアユミも「健康な肉体」と「空気摂取」により全く疲れていない
それでも休憩を取るのは、人間を超えた存在であると直視するのが嫌だから…何より味気ない
適当な岩に座ってキノコをつまむ
「ふぅ…おいし…ん?」
ふと見ると、1人の獣人が北側に居るのを見つける。何かを探すように周囲をキョロキョロと
見回している。最近ようやく他者とのコミュニケーションに自信が持てるようになってきたアユミは
深呼吸してから立ち上がり、声をかける
「あ、あのっ! マイフォに住んでいる方ですか!?」
「ヒッ!?」
過剰に驚く彼はウサギ獣人だった。アユミはゆっくり歩きながら問いかける
「あの…マイフォに行きたいのですが、よろしければ案内を…」
「ち、近づかないで!」
「あ、はい」
アユミは言われた通り、その場から動かない。ウサギ獣人も動かない
そんな中、カラドボルグがアユミに内緒話をする
「ニャーにやってるニャ…」
「近づかないでって言われたから止まって何もしない…もし彼がマイフォの住人で
事件の犯人が未だに特定されていない状況なら、妙な動きをしたら
犯人と間違えられるかもしれない…今回ばかりは第一印象で失敗できない…」
***
アユミとウサギ獣人が向かい合ったまま3分が経過した
この時点で既に第一印象で失敗しているのだが、待つのに慣れているアユミは気付かない
(あーもう、日が暮れるニャ!)
カラドボルグは痺れを切らし、鞄の中に頭を突っ込んで、バローからの手紙を咥えて
ウサギ獣人の元へ持っていった
「これは…手紙? …お父さんからだ!」
「ということは…あなたがカーメルさん?」
「はい、そうです!」
「よかった、あなたかミミさんに届けるようにバローさんから頼まれていたんですよ」
「そうとは知らず、ごめんなさい!」
「いえいえ…女性が次々に行方不明になる怪奇事件が起きてる中、警戒するのは当然ですよ…」
アユミ達は、マイフォに向かいながら話を続ける
カーメルは外見だけは大人びているが、内面は少年らしく
アユミへの警戒が解けたら人懐っこく接してきた
片手には、周囲に生えていた山菜を入れた籠を持ち
歩きにくい場所等ではアユミの手を取って導いた
「あ、ありがとうございます」
「ところで…どうしてマイフォに? 手紙を届けに来ただけですか?」
「いえ、ワンダラの冒険者ギルドにマイフォの事件が通報されたので
本隊が来る前に、僕らが先に現地を偵察することになったのです」
「そうですか! ギルドの方が来て下さるなら安心ですね!」
「…そうですね」
犯人が分からない以上、安心するのはまだ早いとアユミは思ったが
あえて不安にさせる必要は無いと思い、適当に相槌を打った
***
マイフォの守衛は、刺又で武装していた。怪しい人物を
すぐに捕らえられるように臨戦態勢を取っているのだろう
「何者だ?」
「どうも…ワンダラの冒険者ギルドからの使いでアユミと言います」
そう言うと、首に下げておいた青銅の冒険者証を取り出して見せる
しかし守衛は訝しげな顔でアユミとカラドボルグを見るばかりである
「僕の父からの手紙を持っていたので間違いありません!」
「そうか…だが妙な事をすればカーメルの責任だからな」
アユミ単独で来ても、まず中には入れてもらえなかったと分かる
カーメルと偶然出会えたのは幸運だった
「さぁっ! まずは僕の家に行きましょう!」
「はい」
***
マイフォ内部は静まり返っていた。店などは開いているものの、人通りは少ない
皆、何者かに誘拐されるのではないかと警戒しているのだろうか?
アユミの姿を見てひそひそ話をしている獣人もいる
「アユミさん…本当は皆良い人達なんです、悪く思わないで下さいね?」
「思いません。今の状況では余所者を警戒して当然です」
さらに歩き続けてカーメル…バローの家に着いた。他の家と同じ規模であり
古物商店で儲けている割には…とアユミは思った
カーメルは何の気なしに扉を開けた
「母さんただいま!」
「お帰り~…あら可愛らしい、ガールフレンドかしら?」
「違うよ、この人はアユミさん、父さんからの手紙を届けに来てくれたんだよ」
「どうも…」
アユミは軽くお辞儀をする。カラドボルグは黙って入って来たが
2人とも嫌がる様子はない
「あら、ごめんなさい私ったら…私はミミ、バロー…あの人からの手紙をありがとう
あの人とスーザンは元気かしら?」
「ええ、元気ですよ。それはもう…」
「バローは気難しさで評判の店主で、スーザンは一人で突っ走って先輩職員に怒られてたニャ」
「まぁ…」
いきなりカラドボルグが喋りだしたと思ったら平然と爆弾発言をされ
アユミは焦った
「ちょっとカラドボルグ! もう少し言い方があるでしょう!?」
「いずれバレる事ニャ」
「もう…すみませんこんな猫で…」
2人は一瞬驚くが、カーメルは目を輝かせ、ミミは上品に笑う
「しゃべったぁ! 可愛い~」
「ニャ、ニャア~もみくちゃにするニャア~」
カーメルはカラドボルグの事を考えて…と言うより、興味本位で撫でたいから撫でている感じだ
かつては自分もそうだったと、アユミは苦笑した
「あらあら…ご迷惑をおかけして…」
「いいですよ…カラドボルグ、少し遊ばれててね」
「そんニャ殺生ニャ~」
しかし本気で嫌がってはいないと、アユミは分かっていた。その様子を見ながら
鞄を降ろすと、外からノックする音が聞こえてきたので
ミミが応対しに向かう
「はい、どちらさま…あ、ラシューさん」
そこにいたのは、犬獣人の女性だった
「こんにちは、こちらに冒険者ギルドからの使いが来ていると連絡があったのだけど」
「ええ、アユミさんの事ね?」
「こ…こんにちは」
「アユミ…あなたには私の祖父であり村長でもあるルガイの家に赴き
情報交換をしてもらいます。きっと泊まりになるでしょう」
ラシューは威圧的に告げる。嫌な印象を受けたが、現地を偵察するのが目的の
アユミが村長の家からの招待を断ることはできない
「わかりました」
「事態は逼迫しています、すぐに来てもらいます」
そう言うとラシューはアユミの手を引いて強引に連れ出した
カラドボルグと鞄を置いたままだが、ミミなら悪いようにはしないだろう




