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57話 法蓮草打ち

途中で保存食を食べ、日の入り前にワンダラに到着した


「ここで解散としましょう、お疲れさまでした」

「ありがとうございました」

「バイバイニャー」


御者と別れたアユミ達は、冒険者ギルドに直行した

受付カウンターでは相変わらずリューツが傭兵達の相手を務めていた

自然に耳に入ってくる話から察するに、ヒュージリバーの防衛をする人手を

募集しているようだった。前線が川を渡った事で、偵察から守備固めに

行動指針が移ったとわかる。そう考えていると、アユミに順番が回ってきた


「ただ今戻りました」

「ニャ」

「あぁアユミさんにカラドボルグさん、お疲れ様です。首尾はどうですか?」

「ルードヴィッヒさんから兵士達の手紙と報告書を預かってて

ギュスターヴさんに直接渡すよう言われています」

「手紙も…ですか、わかりました。ギルドマスターなら2階の部屋にいます

来客もありませんからそのまま報告しにいけるでしょう」

「わかりました」


アユミはカラドボルグを連れて建物2階の「ギルドマスター部屋」に向かった

中ではギュスターヴとスーザンが話し合いをしていた


「…では、よろしくお願いします…あ! アユミさん、お帰りなさい!」

「ただ今戻りました…僕に構わず話を続けてください」

「いや、ちょうど終わったところだ。スーザンの所へは相応しい人材を送ろう」

「はい! では失礼します!」


スーザンは頭を下げて部屋を出て行った


「待たせたなアユミ」

「あ、はい。ルードヴィッヒさんから…兵士達の手紙と報告書です」


アユミは鞄からそれらを取り出してギュスターヴの前に置いた

ギュスターヴは早速報告書を開いて読み始める


「…ほぉ! 敵地の地図を描き、敵の斥候を捕らえ、戦線を川向うまで押し上げ

狙撃手も撃破するとは…大活躍だったようだな」

「吾輩の活躍も見逃しちゃダメニャ~」

「ハハッ! 夜襲での獅子奮迅ぶりはちゃんと書かれているから心配すんな」


カラドボルグは満足げな笑顔になるが、アユミは憂いを帯びた顔をしていた


「でも多くの犠牲者が出てしまいました…僕の産み出した狙撃手のせいで…」

「なんだって?」

「アユミ、その責任は問わないと結論付けたはずニャ

これ以上はさすがに怒るニャ」


言われてギュスターヴは報告書をパラパラと斜め読みする

そして得心が行ってため息をつく


「ここまで過酷な境遇は勇者でもそうそう無いぞ…それに犠牲者が出るのは

戦争の常、そう自分を責めるな」

「はい…」

「それより、さっきスーザンと何を話していたニャ?」


カラドボルグは多少強引に話題を変える


「ん? あぁ…ここから北北東の森の中に「マイフォ」という獣人達の村があるんだが

そこを訪れる女性が次々に行方不明になる怪奇事件が起きてるらしくてな

調査隊を派遣しようという話なのだが…」

「ニャ? そりゃアユミが適任じゃニャいか?」


「まぁ確かにそうだが…今帰ったばかりで疲れてるだろ?」

「勇者ですから、一晩寝れば大丈夫ですよ」

「そうか? ならスーザンとも話を通しておいてくれ。さっき出て行ったばかりだから

すぐ捕まるだろう。報告は充分だからもう行って構わないぞ」

「わかりました、失礼します」

「ニャ」


北北東の森という事は、エルフが潜んでいるであろう領域に近付けるということで

自分から費用を負担して行くのではなく、ギルドの依頼として行くのは

アユミにとっても都合が良い


***


スーザンは1階でジェニファーと話していた。アユミが声をかけようとする前に

ジェニファーが先に気が付いて声をかける


「あら、帰ってきてたのね」

「はい、ジェニファーさん」

「スーザン、マイフォの怪奇事件に人手は足りてるかニャ?」

「全然ですよ! これから募集するんですから…あ! 行ってくれるんですか!?」

「まずは詳しい話を聞かせるニャ」

「はい!」


スーザンは隅の空いている円卓に移動して地図を広げ、アユミ達ものぞき込む


「まず、ここがワンダラ! で、ずーっと行って…ここがマイフォです!」


地図を指でなぞって位置を説明してくれた。そこは森の中というよりは

海岸線に隣接していて、漁村の可能性もある


「ここは私の故郷なんですよ~山の幸が一杯取れる良い所ですよ!」

「へぇ…観光しに来る人が居るとか?」

「あ、いえ…村の人以外には排他的で、たまに調査に行く人が数人居るくらいで

宿屋とかも無いんですよ」


そういえばギュスターヴが、獣人達の反発もあって開墾もできんと言っていた


「ニャニィ? それじゃ村人が事件の犯人じゃニャいか?」

「そんな事は! …無いと、思いたいですけど…」


カラドボルグの発言に落ち込むスーザン、堪らずアユミがつっこむ


「もう! それをこれから調べにいくんでしょ?」

「言ってみただけニャ、ところで誰かが通報してきたのかニャ?」

「それなんだけど…」


ジェニファーは少し困ったような表情になるが、スーザンが切り出す


「いえ、アユミさん達なら信用できます。あまり公にしないように言われてますが…」


スーザンはアユミとカラドボルグに近付いて小声で話す


「古物商店のバロー…私の父が、手紙でマイフォの異変を知ったそうです」


言うと、スーザンは元いた場所に戻った


「…信用できる情報だということは分かりました。でもその…ご関係を

隠さなくても良い気もしますが」

「私もそう思うんですけど…どちらかが攫われて身代金を要求されるかもしれないと」

「あぁ…」


あの店主ならそう言いそうだと納得した。同時に、あの性格でも人間の町に

出稼ぎしにやってきたのに、さらに排他的となると一体どんな偏屈な村人なのかと

想像して、少し渋い顔になった


「ま、まぁ…店主さんにも詳しい話を聞いておきますね」

「で、ジェニファー、今回の報酬はどの位になるニャ?」

「そうねぇ…まだ事件の全貌が明らかになってないから、何とも言えないけれど…」

「カラドボルグ…そんなにがっつかなくても良いんじゃ?」

「アユミ、吾輩達は慈善事業をしてるんじゃないのニャ」

「もし、犯人という存在がいるのなら…捕まえたら5万は堅いかしら」


カラドボルグはニンマリ笑う。それを見てアユミはため息をつく


「では、頑張ってきますね」

「待ちなさい、流石に今回の事件はアユミ達だけじゃ手に余ると思うわよ?」

「ニュフフ…どうせ人手を集めるのに時間がかかるニャろ?

吾輩達が一足先に現地を偵察しといてやるニャ」

「もう…無理はしないようにね」


アユミは頭を下げ、カラドボルグとその場を後にした


***


続いて、バローの元へ向かった。幸い他の客は見当たらない


「いらっしゃ…アユミか」

「バローさん、マイフォの怪奇事件について詳しい話を聞かせてください」

「…どこでその話を聞いた?」

「スーザンさんから…娘さんだそうで」

「あいつめ…秘密だと言うに…」


「勿論、秘密は守ります」

「ニャフ…お前も隅に置けない奴ニャ」

「もしバラしたら鉄くずとして売りますから…」

「ニャニィ!?」

「足りないなら…僕の裸婦画でも描いて売りますか?」


「プッ…なんで俺よりお前が必死になってんだ…信用できない奴に

「エターナルボックス」を渡すわけがないだろう?」

「はぁ…」

「それより、どこまで聞いている?」


「村の人以外には排他的で、訪れる女性が次々に行方不明になってると」

「よって、村人が事件の犯人だと予想したのニャ」

「だからまだ分からないって…」

「そうか…実はな、村の女達も数人行方不明になっているらしい」

「ニャんと」


「ミミ…俺の妻の手紙によると、何の脈絡もなくご近所が

どこかへ消え失せてしまって恐怖を感じているらしい」

「犯人の痕跡とかは無いんですか?」

「あぁ…どこにも痕跡が見当たらないらしい

村人の知らないような隠し場所とか…あの狭い村にあるはずが無いのだが

手紙だけの推理じゃ、ここいらが限界だろう」


「やはり直接行かないと、ですね…明日にでもマイフォに向けて出発するつもりです」

「そうか…なら、俺の家族に手紙を書こう。そうすれば向こうも

警戒せずにお前達を迎え入れられるだろう、明日また来てくれ」

「わかりました」


そういってアユミは店を出ようと振り返る、だがカラドボルグは

まだ用事があるようで、バローの元へ寄る


「話は変わるけどニャ」

「…なんだ?」

「アユミに似合う可愛い服は無いかニャ?」

「んんっ!?」

「おお…貴族からの払い下げ品ならいくつかあるぞ、見るか?」


アユミは慌ててカラドボルグに抱きつく


「待って待って! 僕に服とか勿体ないよ!」

「何? 似合わないと謙遜する奴なら見た事あるが「勿体ない」とまで言う奴は初めてだ」

「ええと…謙遜とかじゃなくてですね…」


アユミは抱きついたまま遠い目になる


「僕も可愛い服を買って浮かれてた時もあったんですが…最初に買った紺のワンピースは

魔族に間違えられる過程で剣と短鞭でズタボロにされ…次に買った運動しやすい服も

暗殺者によって血みどろにされ…もう、自分の着た物が片っ端からダメになって

こういう鍼灸ワンピースのままで良いやって思うようになってしまいました…」


カラドボルグが首だけ向けて話す


「でも好き好んで裸になりたいワケでも無いんニャろ? 服がダメになるのを

怖がってちゃ何も着れなくなっちゃうニャ」

「いや…ちょうど良さげなのがあるぞ」

「ニャニ!? それは…」


そう言うとバローは一旦奥へ行って、それを引き出してきた


「鎖かたびらだ」

「…鎧じゃニャいか」

「知らんのか? 暗殺を恐れる貴族とかが上着と下着の間に着たりする

どちらかと言うと服に近い。そのワンピースの上から試着してみるといい」


言われるままに被ってみる…が、重い。大人用の中古品で10キロ強はある

鍛冶作業で少しは鍛えられたと思っていたが、肩に重さがのしかかり

着心地も悪い。さらに、少し動く度にジャラジャラとうるさい


「どうかな? カラドボルグ」

「ンー…可愛いって感じじゃないニャ…」

「文句が多いなぁ…でも、この位丈夫な服だったら簡単に壊れる事は無いかな」

「でもブカブカで、このまま着続けるのは無理ニャ

受注生産品の鎖かたびらとか…」


「やめとけ…ただでさえ作るのが面倒な鎖かたびらを、アユミに合わせて

可愛く作るとか…20万あっても足りんだろうな。そんな方法より

丈夫な革とかでドレスを作る方がマシだ」

「ニャーン…」


カラドボルグは珍しくうつむく。アユミは鎖かたびらを脱いで返し

カラドボルグを優しく撫でながら店を出た


***


アユミはゴブリンの巣穴跡に来た。槍がカラドボルグに刺さった時にできた穴を塞ぐとともに

刃をつける鍛冶作業を行う為だ。今回、アユミには考えていることがあった

それを話す前に、1度折り返し鍛錬をしながら先程の話を問う


「さっきは何で僕に似合う可愛い服…とか言い出したの?」

「アユミ、吾輩の主がいつまでも地味な服のままじゃ従者としても恰好が付かないニャ

前にも言ったケド、アユミは可愛いんニャから可愛い服を着るべきなのニャ

そしてゆくゆくは、美少女鍛冶師としてデビューするのニャ!」


思わず一瞬手が止まり、顔も赤くなる


「か…可愛い可愛いって…や、やめてよ…そ、それに鍛冶の時はどうせ

服を燃やさないように脱ぐんだから関係無いでしょう!?」

「ほーん、じゃあ丈夫で燃えない可愛い服ニャら喜んで着るって事で良いニャ?」

「良いけど…そんな服あるわけないでしょ? さっきの鎖かたびらだって

ヒートハンド使ったら溶けるだろうし…」


「ニュフフ…アユミは「炎獣の革」っていう素材を知ってるかニャ?」

「え、何それ…?」

「北の火山周辺に生息している「サラマンダー」っていうトカゲの皮を

加工してできた素材ニャ。これなら丈夫で燃えないし、綺麗な光沢も出せるニャ!」

「えぇ…? 大丈夫なのそれ…」


アユミが真っ先に思い浮かべたのは、地球で健康被害の出た

悪名高い素材「アスベスト」であった


「ニャ? 200年前にはフツーに有ったし、火山の位置はマイフォと近かったし

今でも革製品として出回ってるはずニャ、ただ…ちょっと値が張るだろうけどニャー」

「そ、そう…」


とりあえず「革」と呼ばれているなら大丈夫だろうと思い直した


「それなら…鞄を売ってくれた店のアダムさんに、後で聞いてみようか…」


話している内に、折り返し鍛錬が終わった


「その代わりって言ったらなんだけど…やってみたい事があるんだ」

「何ニャ?」

「僕ね…ヒュージリバーであの投手を殺した時…「投擲」の能力が

戻ってきたみたいなんだ」

「フムフム」

「この能力を有効活用するためにも、カラドボルグを投擲に適した形に

変えたいんだ。新たに剣術とかを習うよりも良いと思う

これで罪滅ぼしになるかはわからないけど…ダメ…かな…?」


「別にかまわないニャ」

「え…本当? 変えられるの嫌じゃない?」

「神妙に言うから何かと思ったニャ…じゃあ投げナイフにすれば良いニャ

形の整え方も教えてやるニャー」

「あ…ありがとう!」


アユミは頭を下げる


「大げさだニャー、むしろ自分の意見を言ってくれてホッとしている位だニャ

じゃ、まずはたがねを使わずに頑張って折り返すのニャ」

「う、うん!」


細い棒状のカラドボルグを叩いてU字型に曲げていく。両端同士をぴたりと接合させ

再び細い棒状にする。曲げた関係で先が丸くなった


「よしよし…丸い方を叩いて尖らせていくのニャけど

四角い方を最初に叩いて持ち手を作ると共に、重心を丸い方に偏らせるのニャ」

「…なるほど」


言われた通りに叩き、持ち手側が、刃になる部分より細くなり

小さいアユミの手でも持ちやすくなる。さらに

角を弱く叩いて円柱状にして、持った時に手を切らないようにした

このままでも小さい鈍器として通用しそうだが、あくまでも投げナイフを目指す


「ここからさらに火造りするんニャけど、真っすぐ飛んで刺さるように

凸凹を極力避けて…刃は先端にちょっとだけ付ければ良いニャ」

「ふむふむ…」


丸みを維持しながらもちゃんと刺さる鋭角になるように叩く

思ったよりも速くできあがって、焼き入れと焼き戻しをして研ぐ

鍔のない幅広ナイフで、投げて使うにしては重厚感のある仕上がりとなった

元々カラドボルグについていた柄は必要なくなった


「じゃ、試し…投げといくかニャ」

「うん」


***


巣穴跡の外は森なので、的となる木は沢山ある

しかし、殺した投手の「投擲」の能力の凄まじさは目の当たりにしているので

目標は木にするが、貫通してあらぬ方へ飛ばないように

投げた先に大岩がくるような位置取りをする


「じゃあ、いくよ」

「ドンと来いニャ」


カラドボルグを持った時点から「投擲」のスイッチが入った感覚がある

習ってもいないのに自然に「それっぽい」姿勢になり、指先も自然に動く

そのまま腕を振り下ろすと…


ギュァーン!!


飛行機が飛ぶ時のような轟音が鳴り、カラドボルグが信じられない速度で飛んでいき

的に設定していた木は当然のごとく貫通し、後ろの大岩に突き刺さって止まった


「…」


言葉を失くしていると、貫通された木がメキメキと音を立てて倒れていき

その音でようやく我に返ると、カラドボルグの元へ駆け寄った


「大丈夫?」

「しゅ、しゅごい刺激的だったニャ…も、もう1回やって欲しいニャア…」

「…じゃあもう1回だけ」


今度は、直線上に3本の木が並んでいる地点を見つけ、そこから投げた


ガッガッカッ!


1本目を撃ち抜き、2本目も貫通し、3本目でようやく突き刺さって止まった

今度は、カラドボルグは自発的に猫形態になってアユミの元へ駆け寄った


「もう1回ニャア!」

「…」


犬にボールやフリスビーを投げて拾ってこさせる遊びをしている感覚だが

また貫通された木がメキメキと音を立てて倒れていくのを見て

考えが改められる


「ダーメ、これ以上やったらただの自然破壊だよ」

「ウニャー…仕方ないニャア…」


しょげるカラドボルグを撫でながら続けて言う


「でも…これは…凄いね、威力もそうだけど投げて当たっても戻って来られるなんて

ブーメランとかにも出来ない…カラドボルグだけの特権だよ」

「ニャ…ウンウンそうニャ! 投げられた先で電撃撃っても良いし

その隙にアユミが透明になって不意を突いても良いニャ…戦術の幅が広がるニャ~♪」

「そうだね…」


凄すぎて使うのを躊躇うかもしれないけれど…とは言わないでおき

アユミは道中のキノコをつまみながら、カラドボルグを連れてワンダラに戻っていった


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