56話 勇者の帰還
「う~ん…ふぁ…」
「あ、起きた?」
アユミが目を覚ますと、個室でシズカと寝ていたと分かる
隣にはカラドボルグもいた
「急に寝られてビックリしたニャ」
「ごめん…つい」
「ずっと頑張ってたもんね…ジュンヤ君もお礼を言ってたわ」
「いえ…アイさんの力であの剣に仕上がったわけですし、あらかじめガンダーさんが
鍛え終えた剣を元に…ジュンヤさんも手伝ってくれましたし、僕は叩いてただけですよ」
「ハァー…アユミは鉄鉱石から作らニャいと自分の手柄にしないつもりかニャ?」
「その時は鉄鉱石を掘ってくれた人のお陰だね」
「…もういいニャ、さっさと朝飯食って銘入れしに行くニャ」
「はーい」
目をこすりながら朝食を食べた後、ジュンヤ達と合流したアユミは
再び鍛冶場に赴いた
***
「じゃ、一旦目釘と柄を抜いて…その中の部分に、赤くならない程度に熱してから
アユミの名前を彫るのニャ」
「あっ…僕の!?」
「ちょっ…誰の名前を彫る気だったニャ!?」
アユミはちらりとジュンヤの方を見る
「お、俺か!?」
「ちーがーうーニャ! 作者が自分の名前を彫るのを「銘入れ」というのニャ!」
「えぇ…どうしてもやらなきゃダメ…?」
自分の名を誇示する気が全く無いアユミは、とても渋い顔になった
「ホラ! 柄の中だから普段は目立たず見えないニャ!
アユミは自分が苦労して打った剣が他人に銘入れされても良いのニャ!?」
別に良いと思った。それが顔に出ていたらしく
「わ、私ー、アユミちゃんの銘が欲しいなぁ~」
「そ、そうだぜ! 他のわけわからん奴のよりアユミのが良いぜ!」
「あ…はい」
ジュンヤとアイに頼まれたら否やはない。熱して小さいたがねで慎重に彫る
この世界の住人に分からないよう「漢字」で彫ろうかとも思ったが、逆に目立つと思い直し
この世界の文字で彫った
そして柄を元通りにすると本当に見えなくなったので、胸をなでおろす
「これから作った剣には必ず銘を入れるようにするニャ、性能が良ければ
その剣を持っているだけで一目置かれるような印になるのニャ」
「ふーん…」
つまりはブランド力を意味するのだろう、今は大した意味はなくても
後々重要になってくるかもしれない
***
そしてアユミとカラドボルグが帰る時間になった
補給物資を下ろして空になった馬車に乗って行く
荷物は自分の鞄と保存食だけなので今回はスペースに余裕がある
見送りにはルードヴィッヒとジュンヤ、アイにシズカが来てくれた
ノブヒロとクルネドは所用で来れないらしい、戦場なので仕方ないが
「ではアユミ、あの時渡しそびれた報酬の5万に…こちらは兵士達の手紙と報告書だ
ギュスターヴに直接渡せば冒険者ギルドが処理してくれるはずだから、よろしく頼む」
「わかりましたルードヴィッヒさん、お届けします」
アユミは革の背負い鞄に纏めて入れておいた
「アイ、生きてる剣の先輩である吾輩が、助言を授けてやるニャ」
「なぁに?」
「今は無理でも、魔力を練ってれば元の人間の姿になれるかもしれないニャ」
「本当?」
「吾輩でもミナモに打たれて勇者の能力の影響を受けてる内に
自然になれるようになったからニャー…あともう一つ
ロクでもない使い手に会った時はサッサと見限る方が良いニャ」
「え~? ジュンヤに限ってそんな事にはならないでしょ?」
「ジュンヤはニャー、問題は子孫のほうニャ。吾輩も家宝だとか言われた時期も
あったケド、埃を被る事を大事にするとは言わないニャ。子々孫々に受け継がすニャら
しっかりした子供を作らせるニャ」
「お、おい…まだ早すぎるぜ…」
「ニャ? 猫ニャら1歳から子作りするけどニャー」
そう言うとカラドボルグはシズカに寄り
「つがいに名乗り出ニャイ?」
聞いたシズカは顔を真っ赤にし
「もう! 怒るわよ!」
「ニャッハッハ~元気でニャ~」
セクハラ発言をしてさっさと馬車の中に入っていった。
「申し訳ないです…後で言い聞かせますので…」
「いいのよ~、誰が見てもそう思うでしょうし、シズカちゃんになら
ジュンヤを任せられるしね~♪」
「姉貴まで何言ってんだよ! …ったく、もう一人の姉だと思…」
「え? ジュンヤ君今何て…」
「…何でもねぇよ! アユミ!」
ジュンヤはアユミの手を握る
「は、はひっ」
「俺達はアユミに感謝してる、ついでにカラドボルグにもな! …本当にありがとう」
「ど…どういたしまして…」
アユミははにかんだような笑顔で応え、カラドボルグは顔だけ出してにやけていた
***
アユミは御者に合図を送り、馬車がゆっくりと走り出す。戦場なので声を上げたりはしない
馬車から手を振っていたが、塹壕地帯の凸凹ですぐに見えなくなった
「はぁ…」
「何ニャ? 名残惜しいニャ?」
「少しね…異世界召喚された者同士だからかな」
「戦争が終われば、きっとまた会えるニャ」
「そうだね…それはそうとカラドボルグ」
「ニャ?」
「またあんなセクハラ発言して…シズカさん困ってたじゃん」
「セクハラ? …あー言わニャいといつまで経っても進展しそうになかったからニャー」
「全く…もうちょっと抑えてね」
そう言いつつも、カラドボルグの図々しさを羨ましく思うアユミであった
***
土と石で出来たどこかの古めかしい建物内にて、椅子に座る男の耳元に
羽の生えた小さな人工的な生命体が飛んでいく
「ふむ、戦況は人間側へ有利に傾いたか、要因…映像…なんだこの黒猫は
いや、検索…猫…雷…アーティファクトのカラドボルグ!
確か…バーン家の家宝だったか…あの家が戦争に直接介入…いや
そんな余力は無いはず…アーティファクトを売ったか? バカな…
そこまで先の見えぬ愚か者だったか…まぁ良い
今誰の命令で動いているかが重要…持ち主…! この白い髪…アユミか!
成程…バーン家に依頼されたか…この兵器を持った以上看過できぬ
アユミをマークしろ、行け」




