53話 危機感を持って打つ
まず、折れた剣を取りに戻り、カラドボルグとアイの前で厚手の布を解く
「まぁ…」
「ニャんと…自分を刺した剣をわざわざ選ぶとか、意趣返しかニャ?」
「…へ?」
「もう…アユミちゃんはそんな事思ってないでしょ?」
「??? この剣はあのガンダーさんが打った自信作で、ちゃんと鍛造した鉄に
最初から成ってると思って選んだんだけど…」
「ガンダー…あの頑固オヤジかニャ、まーアユミがそれで良いって言うニャら
吾輩に文句は無いニャ。ほら、ジュンヤが来る前に打っちまうニャ」
「う、うん…」
まだ気付かないアユミは、首を傾げながらも目釘を抜いて柄を取り外して置く
目釘も今回は割れなかったので、柄と一緒に置いておき、鍼灸ワンピースを脱いで
折れた刀身と、それに繋がっていた部分を両手のひらで合わせてヒートハンドを使う
程なく、熱せられていざ打とうとハンマーを手に、折れた個所に向かい合った時
「…ハッ!?」
カラドボルグが意趣返しと言った理由がようやく分かった。自分の血が付いた剣を
打ちなおして、刺した相手に送るとは…何か怨念が込められてると取られかねない
「ち…違っ! そんなんじゃないよ!!」
「気付くのが遅いニャ! マッタク…早く打っちまうニャ!」
「アユミちゃん、私は気にしないから…ね?」
「は、はい…」
動揺しながらもアユミは打ち始める。途中で折れたりはしなかったが
ガンダーの自信作という割には不純物が多く出ている気がした
「うーん…鍛造されてはいるようだけれど…」
「フーム、これは隠れてた錆だニャ。手入れをテキトーにしてたんニャろなぁ…」
「あら…ジュンヤったら…」
「意外とものぐさだったか、まともな手入れ方法を知らニャいか…ま
姉が剣になるんだから真面目に手入れするようになるニャろ。知らんなら
吾輩が教えてやるニャ」
「ありがとう、カラドボルグちゃん」
話している間に、1回折り返した
「どうかな? カラドボルグ」
「フーム…もうちょっと打てば芯鉄や皮鉄に使えそうだニャー」
「芯鉄? 皮鉄?」
「芯鉄は一番炭素が少ない鉄で、皮鉄は二番目に炭素が少ない鉄ニャ、鍛造をし続けて
何度も折り返していくと炭素が抜けていくから、途中で焼き入れて二つに割って
芯鉄用と皮鉄用に加工して使い分けていくニャ。ちなみに刃になる部分は
刃鉄といって一番炭素が多い鉄…今回はアイがこの部分になるニャ
さ、べこべこになったアイを真っすぐ打ち直してやるニャ」
「はーい」
アユミはアイに熱を加えて打ち始める。最初は鋳造しただけだったので
不純物が火花と共にどんどん出てくるが、折り返していくうちに
火花は少なくなり、全体の質量も減っていった
「よーし、アイは一旦その辺で良いニャ」
「え? まだ3回しか折り返してないよ?」
「一番炭素が多い刃鉄だからこれで良いのニャ。じゃ次は…」
「アユミさーん! ご飯ですよー!」
「あ、ノブヒロさん…」
「オーウ、ちょうどいいから休憩にするニャ。アイは冷えるまでここに居るニャ」
「いってらっしゃーい♪」
今度は、ノブヒロが大きめのお盆をもってきた。上には昼食が置かれている
アユミは手を払って鍼灸ワンピースを着てノブヒロの元へ向かう
「ルードヴィッヒさんから、根を詰めすぎていないか見るように頼まれたんですが…
大丈夫ですか?」
「はい、勇者の力がありますから…」
「いやいや、「健康な肉体」があってもお腹がすいて仕方がなくなっちゃうですよね?」
「あー…僕も前はそうでしたが、「空気摂取」という能力で、霞を食べて飢えをしのぐ
事ができるようになったのです。味気ないので食べ物はあった方が良いですけどね」
「それは…前に言ってた天使のお陰かな?」
「えぇ…まぁ…」
「やっぱりアユミさんは勇者の中でも特別な存在なんだね」
「…どうでしょう?」
アユミは座って昼食を食べながら思う、サリエルにも追い求めた存在だと言われたが
やはり自分はただのうつ病患者だという意識が抜けない。
「僕よりも、ジュンヤさんとかの方がよっぽど勇者らしいと思うんですけどねぇ…」
「人と比べてたらダメですよ…こういう鍛冶とかアユミさんくらいしかできる人
いないんじゃないかな」
「そうですかねぇ…」
「透明になって偵察するにしろ、あの見事な地図を描くにしろ
アユミさんだけの強みは沢山あるんですから」
「あ、ありがとうございます」
照れくさくなり、以降は食べるのに集中していた
***
「では僕は戻りますが、無理はしないで下さいね」
「はい、ごちそうさまでした」
ノブヒロを見送りながら、しかしこの鍛冶場は最前線にあり素早く仕上げなければ
また魔族に邪魔されてしまうだろう、と考えていた
「おまたせ、続きをやろっか」
「もういいのかニャ? じゃ、こっちの鉄を鍛えて、不純物が少なくなってきたら
皮鉄の分を切り離すニャ」
鍼灸ワンピースをまた脱ぎ、熱して打ち始める。少し急いで打っているが
「記憶能力強化」により打つフォームは崩れない、力もついている
「フーム、この様子ニャら5回折り返せば良いかニャ…」
「わかったー」
「アユミちゃん、急いでいるみたいだけど…大丈夫?」
「大丈夫ニャ、でたらめに打ってるんじゃニャいようだから、この速さのまま行くニャ」
「そういうことじゃないんだけど…」
アユミの体調を心配してくれているであろう事は、アユミ自身も薄々分かっているが
それでも急いで打つべきだとアユミは考えていた
***
「よーし、折り返し終わったから、3割程の位置にたがねで切り込みを入れて
焼き入れして切り離すニャ」
「はーい」
切り込みを入れ、水桶で急冷してからハンマーで割る。もう慣れたものである
その後カラドボルグの指示を受けながら、アイに合わせて形を熱しながら微調整し
皮鉄が完成した
「よーしよし、次は3割の方をさらに叩いて芯鉄に仕上げるニャ
質量が少ないからバンバン折り返せるはずニャ、これはあと10回やるのニャー」
「はーい…ふぅ、それにしてもカラドボルグみたいに一種類の鉄ってわけじゃないんだね」
「吾輩は短剣ニャから、こういう強度を持たせる加工をしなくても良いのニャ
もっとも、一般に出回ってる剣でこんニャ「造り込み」をしてるのはほとんど無いけどニャー」
「え…そうなの?」
「両手剣でも、数回折り返してそのまま素延べして仕上げるのがほとんどニャ
この方法は、ミナモが元の世界の「ニホントー」とかいう剣を参考に考えたそうニャ」
「ニホントー…日本刀かぁ…」
日本人だったので妙に納得した
「あれ…それじゃこれは片刃の剣になるのかな?」
「そうニャ、片刃の方が両刃よりも安全に使えるし、手入れも楽ニャ
ものぐさで初心者のジュンヤにはうってつけニャ」
「…ジュンヤさんが聞いたら怒りそうだけど」
「そんな弟じゃないから大丈夫よ~」
***
話している間に芯鉄も鍛え終わり、長さと厚みと幅を同じにした
刃鉄となるアイと芯鉄2つのパーツ
そして倍の幅を持つ皮鉄と、全て揃った
「じゃ、まずは芯鉄の上に硼砂をふりかけて…これが接着剤になるから
その上にアイ…刃鉄を乗せて熱するのニャ」
「うん…ここは接着剤使うんだね」
「何せ別の鉄だからニャー…熱したら上から軽く叩いて隙間を無くして…
水で溶いた粘土をかけてから、さらに熱するのニャ」
「粘土はどうして?」
「かけニャいと、熱が良く伝わらずにしっかり接着されニャいみたいなんだニャ
あ、直接粘土の中に熱した鉄入れたら爆発するから注意するニャ」
「はーい…」
言われた通りに作業をする。必然的にヒートハンドを使う手が泥だらけになるが
もはや気にしない。泥なら熱で渇き、いつでも払い落とせる
「よし! まず縦に叩いて完全にくっつけて、それから横に叩いて形を整えて…
アイー、具合はどんな感じニャー?」
「うーん…真ん中あたりがくっついてないわ~」
「だそうニャ、また縦にして真ん中を重点的に叩くニャ」
「わかったー」
繰り返し叩いて、仕損じがないように注意しながら、皮鉄と形を合わせる
「いい感じニャ、この調子で横に皮鉄をくっつけるんニャけど…その前に
表面をブラシでこすってキレイにしてから、ハンマーを水で濡らして
表面を叩くのニャ」
「ブラシは分かるけど…なんでハンマー?」
「ブラシで取れない不純物を吹き飛ばすらしいニャ」
「ふうん…」
パアン!!
「うわっぷ!?」
予想以上に大きな音が出たので驚き、ハンマーを落としそうになる
「大丈夫ニャ?」
「う、うん…なるほど…これなら吹き飛ぶのも納得だよ」
引き続いて、水で濡らしたハンマーを振り下ろし、まんべんなく綺麗になった表面に
硼砂をふりかけて、皮鉄を乗せて同じようにくっつけた
***
「いいニャーいいニャー! こういう失敗できニャい場面で物覚えがいいのは
本当に助かるニャー!」
「それはどうも、そういう勇者能力だからね…次はどうするの?」
「次は…細長く打ち延ばしていって、芯鉄と刃鉄を、皮鉄の部分で挟み込むように
1回だけ折り返すのニャ」
「ふむふむ…皮鉄が外側にくれば良いんだね」
アユミは、たがねで皮鉄側に切り込みを入れて、折り返していった
「そうニャ…おっと、完全に折り返す前に、間に硼砂をふりかけて置くニャ」
「ほいほいっと…あ、水で溶いた粘土も使う?」
「おー、その方が良いニャ。横のズレを修正する事も忘れずにニャー」
「はーい」
作業が進むごとに「記憶能力強化」で理解が深まり、カラドボルグの指示も
抵抗無く頭に入ってくる。そうして一つの整えられたインゴットが出来上がった




