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52話 途中でも容赦は無い

朝食を食べた後、シズカは医療物資の使用状況をまとめる会議に出る為に席を外し

ジュンヤは引き続き作業に加わる。鍛冶場からなら魔族の襲撃があっても

すぐに出動できるだろうから、という理由だとシズカはクルネドから聞いていたらしい


カラドボルグが爪で、掘る場所と形を細長く地面に描き

ジュンヤがシャベルで大まかに掘り、アユミがスコップで樋に押し固めていった

細く、長く、深い穴にした後、片側は円錐状に掘り、漏斗のように使う


「…こんなもんで良いか?」

「良いニャ。それじゃアイをこっちに運んで…アユミ、出番ニャ」

「はーい」


ジュンヤが円錐状の穴の中にアイを置き、アユミが裸で覆いかぶさりヒートハンドを使う


「はぁ~♪ まるで温泉に入っているみたい…気持ちいいわ~♪」

「そうニャろそうニャろ~ここまでの気持ち良さは普通の炉じゃ味わえニャいから

今の内にじっくり堪能するといいニャ~」


またアユミには分からない金属トークが始まった。気持ち悪いと言われるよりは良いかと

深く考えないようにした。やがて鉄が表面から溶けて樋に流れていったが

途中から、アリの巣のような珍妙な白いオブジェクトが露出してきた


「な…なにコレ…?」

「フーム…骨ニャ」

「骨!? 姉貴のか!?」


粉々にしたアイの骨が溶けて冷え固まり、再び熱を加えたときに鋳鉄の方が早く溶けた為

このような形状になったようだ。それは大変脆く、手を触れただけで

ボキボキ折れたのでアユミはビクつく


「アユミ、怖気づかニャいで中まで熱を通すニャ」

「わ、わかったよ…」


中まで通すには、骨のオブジェクトを取り去る以外無いので

穴から取り出して脇に置いておく。カラドボルグに言われた通り

骨粉を混ぜないように気を付けながら、最後まで溶かして流し入れた

骨の分を取り除くと、体積が半分以下になっていた


「吾輩と同じ声の出し方ニャら…固まって取り出せるようになったら

喋れるから、それを目安に…」

「敵襲! 敵襲~!!」

「ニャ?」

「くそっ! こんな時に…」

「まー相手はこっちの事情とかおかまいなしだからニャー

さっさと行ってくるニャ」

「わかってる…姉貴を頼んだぞ!」

「はい、お気をつけて」


ジュンヤは片手剣を手に、西側へ走っていった

生木の橋側からも他の兵士達が出動していく


「…やっぱり、鍛冶だけに集中するわけにはいかないよね」

「でもここには来ないとは思うけどニャー…トラバサミはそのまま利用してるし

木のバリケードもあるから吾輩1匹でもここは守れるニャろ、アユミはアイが冷える間に

芯になるしなやかな鉄を持ってくるニャ」

「え…金属継ぎ足されるの嫌なんじゃ…?」


「…あー、吾輩みたいな短剣にムリヤリ鋳鉄を被せて使うような非常識なもんじゃないニャ

それに、ジュンヤが実際に持つ事を考えると…アイツに短剣は向かないだろうから

しなやかな鉄を加えて長剣に仕上げた方が良いはずニャ」

「実際に持つ事を考えると…かぁ…それで、どこで調達すればいい?」

「あらかじめ完成してる…余ってる剣を使うニャ、鍛造されてれば何でも良いから

東の倉庫番に頼んでもらってくるニャ。魔族の配給所を接収できたから余裕はあるはずニャ」

「わかった、行ってくるね」


アユミは鍼灸ワンピースを着て生木の橋を渡り

東側にある倉庫へと向かった


***


倉庫には兵士が2人いて見張りと管理を行っていた。魔族が襲撃してきたときも

持ち場を離れることはないようだ


「あの…ちょっとよろしいでしょうか?」

「む…子供?」

「ああいや、アユミ様だよ、勇者の…」

「この子がそうか…何か御用ですか?」


勇者という肩書は重荷だが、こういう時には役に立つ


「使われていない…余っている剣はありますか?」

「剣? 貴女が使うので?」

「いえ…ジュンヤさんの剣を今作っていて、鉄が足りないから足そうと…」

「…ああ、魔族が使っていた鍛冶場を早速使っていると…では見ていきますか?」

「はい…あ」


アユミが目にしたのは、今までジュンヤが使っていた、あの両手剣だった

片隅で折れたまま放置されている…さすがにアユミの血は拭き取られていた


「あの折れた剣は…?」

「ああ…酷いもんでしょう? ジュンヤ様が使っていましたけれどここまで破壊されるとは

思いませんでしたよ…ワンダラのガンダーが打った自信作だったらしいですが

こうなってしまっては、ただの鉄くずですね…」

「あのガンダーさんが…では、それをもらっていきます」

「えっ!? あれでよろしいのですか!?」

「そうか…鍛冶に使うなら問題無い…か、では布に巻いてお渡しします

こちらとしても、あれを引き取ってくれるのは助かります」

「ありがとうございます」


そして、折れた刀身は厚手の布にくるまれ、柄の部分はそのまま渡された


***


鍛冶場に戻ってくると、カラドボルグと赤熱した鉄の棒…アイが魔族達と戦っていた

魔族は一個小隊程の人数はいるが、カラドボルグの素早さについていけず

アイに至っては熱くて触れず、この状態でも「フレア」を使えていたので

電撃と火炎が支配する一方的な戦いとなっていた


「ああいうのを一騎当千っていうんだろうなぁ…」


アユミが遠くで見ていると、見張り任務の時に伝言を頼んで見逃した隊長が指示を出し

扱うのに2人必要な程の巨大な金網を数枚持った部隊を引き連れて

カラドボルグとアイを捕らえにかかるのが分かった


「あっ…これはマズいかも」


アユミは折れた剣を地面に置き、ジュンヤに助けを求めに駆け出した


***


拠点西側のバリケードの外で戦っているジュンヤを発見した

魔族の人数が明らかに少ない、どうやらこちらは囮部隊のようだ

ジュンヤが魔族と相対していない瞬間を見計らって声をかける


「ジュンヤさーん!!」

「アユミ!? どうした!」

「鍛冶場が襲撃を受けています! こちらの倍は居ます!」

「なんだと!? くそっ…だがここを抜けるわけには…」


「ジュンヤ様、ここは我らにお任せを!」

「おそらくそちらが本隊のはず、一組を連れて先に行って下さい!」

「すまねぇ…ここは頼んだ! 行くぞ!!」

「「「おおっ!!」」」


ジュンヤとアユミは兵士数人を連れて鍛冶場へ急行した


***


鍛冶場では、ちょうど戦闘が終わった所だった

カラドボルグは白濁液まみれで金網の下敷きになってぐったりしていた

アイの姿が見えないが、代わりに不自然に積みあがっている岩が見える


「うおおお! 好きにさせるかー!」

「なっ!? もう気付かれたか! 退却だ!」


ジュンヤと兵士達が剣を構えて突撃すると、魔族は驚くほどあっさり引き下がり

森の中に逃げ込んだ…どうやらゲリラ的な破壊工作で人間の消耗を狙っているようだ

深追いはせず、見張りの兵を配置してジュンヤとアユミはカラドボルグの元へ駆け寄る


「大丈夫?」

「アユミニャ…あ! ジュンヤは触れるニャ! 高温の液体が掛かってるのニャ!」

「うっ…そうだ、姉貴は!?」

「アイはその岩の下敷きになってるニャ…」

「なんだと!? うおおお!!」


ジュンヤは奮起して岩をどかしに掛かり、アユミはカラドボルグの金網を外し

へばりついている、半分固まった白濁液を見る


「これをかけられると電撃が出なくなっちゃったのニャア…」

「これは…シリコン? いやゴムかな…?」

「どっちでもいいから早く取ってニャア…」

「う、うん…じゃ剣になって」


アユミがそう言うとカラドボルグはすぐに棒状になり、アユミの元へ寄る

それにヒートハンドで熱を加えながら慎重にペリペリと剥がしていく


「…きれいに取れたよ」

「アリガトニャ~」

「そうだ、アイさんは…」


カラドボルグは猫形態に戻る、「怪力」を持つジュンヤはもう岩をどかし終わり

アイの熱が伝わって熱くなった金網もかまわず投げ飛ばした


「姉貴! 大丈夫か!?」

「うん、一応大丈夫…なのかな?」


金網が外れて浮遊できるようになったアイだが、岩に押しつぶされたからか

あちこちひん曲がっていた


「そうか! 良かった…」

「鍛造しなおせばいいだけニャ、それよりジュンヤ…」

「なんだよ…うっ」


近くで見張りをしていた兵士が訝し気にジュンヤを見ていた

浮き上がった鉄の棒に「姉貴」と声をかけていたのだから

無理もないのだが…


「あー…ゴホン、この鉄の棒が何なのかは追って説明の機会を設けるから

今はクルネドに報告するのが先だ…行くぞ!」

「は…はっ!」


ジュンヤは兵士2人を引き連れて生木の橋を渡っていった

アユミは安全を確認しつつ鍛冶作業に戻った


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