47話 意図しない化かしあい
アユミは意を決して言った
「いつの日か、魔族と人間が手を取り合って戦うべき「真の敵」が現れます!」
…静寂が支配する、言わなければ良かったかと一瞬思う、しかし
これは絶対に言わなければならない事だと自分に言い聞かせて続ける
「それが10年後か20年後かはわかりませんが、天使…」
突然ゼログニがテーブルを蹴り上げる、動かせないはずのテーブルが
根元から折れて北側に吹き飛ぶ。そしてアユミの胸ぐらを掴んで立ち上がった
「ふざけるな! 一昨日の戦いで魔族を皆殺しにした貴様らが言う事か!」
「…いいえ、これは僕しか言っていません」
「な…!?」
「しかし、一昨日の結果は僕も無関係ではありません。僕を切り裂いて溜飲が下がるなら
どうぞご自由に、それでもいつか魔族と人間は手を取り合わなければなりません」
「ぬうぅ…!」
「ゼログニ様、落ち着いて下さい!」
リークルに制止され、ゼログニは手を放し、アユミは尻もちをつく
そして不機嫌そうに席に着いたので、アユミも座りなおす
「解せぬ…お前は人間側の使者か外交官なのか?」
「アユミ、言ってる事もやってる事も滅茶苦茶よ、一体何が目的なの?」
「滅茶苦茶…そうですね、何故こんな話をするか…経緯を説明しなければなりません」
アユミは、処刑…最も痛い目にあった時の事を思い返し、ものすごく渋い顔になる
だが自分の身に起きた事など言う必要は無いだろうと、言葉を選んで話し始める
「まず、天の使いがやってきて成長の願いを叶えたと言いましたが
その後さらにもう一度…合計3回天使に会って、その度に願いを叶えてもらってきました
最後に会ったのは、天使達…を束ねる…高位の天使サリエルと名乗りました」
「3回…名を持つ天使だと…!? もはや優遇という段階ではない…」
そういえば大天使も権天使も名乗ることはしなかった。名前は天使にとって
特別なものなのかもしれない…だが、それは一旦置いておこうとアユミは思った
「サリエルさんに頼まれたんですよ…真の敵の企みは千年以上前から既に始まっているから
僕が人間と魔族と協力して暴くようにと、その為に「異世界召喚」を人間にも魔族にも開放し
戦力を拮抗させて、双方の未来の為にどちらも滅ばないように取り計らったと
…それを伝えるために「不老不死」という能力と一緒に、僕が送り出されました」
「…その話が真であるという証拠は?」
「ありません、僕だって半信半疑です。でもそれが神の意思だと言われたら…」
「神か…人間だけの味方だと思っていたんだがな…」
ゼログニは懐疑的だ。アユミ自身も信じ難い話を、他者に信じてくれと言うのも
無理な話。だが必要最低限の事は言えたので胸を撫で下ろす
「で? 「真の敵」ってのは誰なんだ?」
「サリエルさんは教えてくれませんでしたが…「エルフ」という種族が一番怪しいと
僕は考えています」
「エルフ…」
ゼログニの眉が動く
「少し前、人間の国の中で誘拐事件が2回発生しました。1回目は人間に化けて
内部に入り込んでいた魔族ヴァニアによって引き起こされ、トラの獣人男と不良人間と
結託し、多くの人間の戦士が睡眠薬の罠に嵌められ、売り飛ばされようとしていました
…ヴァニアの事はご存じですか?」
「いや…リークルはどうだ?」
「…いいえ、そのような名前は…軍には登録されていないはず、おそらく
アウトローの者でしょう」
「そうですか…話を続けます」
「僕もヴァニアに捕らえられましたが、「透明化」の能力を使って何とか脱出し通報
その結果、不良人間は捕らえられ、ヴァニアは仕留められ、トラの獣人男には
逃げられましたが、これで1回目の事件は終わりました」
ゼログニは黙って聞いている、嘘を言っているかを見極めているようだ
「2回目は、人間の貴族の子息が誘拐されたのですが、首謀者は1回目の時に逃がした
トラの獣人男だったのです。ここで一つの疑問がわきました…僕は、魔族は
あなたが言っていたことと違って、実は裏で人間を誘拐して奴隷にすることを
続けていたのかと疑っていましたが
ヴァニアの死後も続いていたことによって考えが改められました」
「それでエルフ…か」
「はい、トラの獣人男を尋問した所、その単語を口に出したので
裏で糸を引くエルフが怪しい…という話になったのです
まだ決定的な証拠はありませんが…」
ここまで聞いていたゼログニが不敵な笑みを浮かべだした
「ククク…作り話にしては良くできているじゃないか…」
「…」
「だが残念だな…魔族はそのエルフと同盟関係…!」
「な…!!」
アユミは目が開き、開いた口が塞がらない
「人間の国を落とすために…そんな事はありえぬとでも思ったか?
北と西の2方面から攻められれば、いかに勇者を配する国といえども太刀打ちできまい
大方、魔族とエルフの分断作戦の一環だったろうが…その顔は図星か?」
「あ…う…ふぐうぅぅ…」
アユミはうつむいて泣き出した、魔族と人間の戦力は拮抗していると
どこかで油断や慢心があった。エルフ勢力の規模はわからないが
間違いなく戦力のバランスは崩れ、本当に人間が滅ぼされてしまうかもしれない
もはやサリエルの頼みも叶えられない、目の前が真っ暗になった
「…それは嘘ニャ」
「む?」
カラドボルグがゆっくりと、アユミとゼログニの間に来て床に座った
「エルフは徹底的に秘密主義…連中が自分以外の種族と手を組むとは考えにくいニャ、それに
同盟組んでるなら川で一進一退せずに、物量でゴリ押して一気に勝負を決めてるはずニャ」
「フ…その猫が、アユミのご意見番ということか」
ゼログニが自分の膝を打つ
「ハッハッハ! その通りだ! 同盟など結んではおらん! 単にエルフという種族が
北に居るという認識しか無い…安心しろ」
「う…う…グスッ」
アユミは短い袖で涙を拭う
「それに、前にも言ったが、これは不当に下げられた魔族の尊厳を高める為の戦いだ
元から同盟関係のオークとサキュバスはともかく、後から知らぬ種族を加えるなど
筋が通らん…それで勝ったところで意味は無いのだ」
「…はい」
確かにその通りである、そんなゼログニだからこそアユミがかつて
支配されてもいいかもと思ったのである。しかし、状況は前とは違う
「アユミの語った事もおそらく事実なのだろう…本当に、心は素直なままだな…
どうだ? 今からでも一緒に魔族軍へ来ないか? エルフの企みも判明しやすくなると思うぞ」
「…確かに、効率だけを考えれば、それが最適解なのでしょう、しかし
人間を魔族軍に配属させることははばかられると仰っていたではないですか」
アグリーに拷問された時の事を思い浮かべながら
「僕の肌が青く、切られれば青い血が出るのならば、迷いなく魔族軍を選ぶ所ですが…
この姿はどこからどう見ても人間そのもの…刺されても赤い血が出たし
唯一違う点があるとしたら、魔族の魔力を持っている事だけ…
人間は、人間領でしか、今は暮らせないと思います」
「アユミの決意は固いニャ、たとえ魔族に間違えられて処刑されても
人間の為に働いてるからニャー」
「あっ! 折角隠してたのに!」
「何だと? 早速矛盾したではないか」
「もう…人間側には「魔看破の水晶」という道具がありまして、魔族の魔力を感知し
水晶に近寄った魔族の魔力に干渉し、意思に関係なく赤い光を出させて
変装してても判別しやすくするのです」
「ほう、そんな装置があるとはな…それで処刑されたと、なのに人間側にいるとは
被虐嗜好なのか?」
「違いますよ…その時はたまたま偏執的な人間がいたから処刑が強行されただけで
ちゃんと分かってくれる方もいましたから…」
「ふむ、何を人間に拘る必要がある? 視野が狭くなっているのではないか?」
ドゴオォン…
「!?」
東側から低い爆発音が響き、アユミは立ち上がって垂れ幕をどけると
拠点から黒い煙が上がっているのが見えた
「こんな辺鄙なところに見張り小屋を建てる…どうせチートで建てたのだろうが
こちらの反撃を遅らせようという目論見は大体理解できる。だが森を潜行する部隊を
足止めするには至らない…お前達はここが魔族領だと言う事を忘れている
軍師の視野も狭かったようだな」
「…っ」
爆発地点ではジュンヤが伐採作業をしていた。そこにも木のバリケードを配置しているだろうが
はたしてどこまで防衛準備が整ったのかは分からない
「森には、「強化兵士量産計画」で作り上げた精鋭部隊を配している、再度奪還するのも
時間の問題だろう…どうだ? 気が変わったか?」
「…変わりません」
「フッ…強情なやつめ…無理やり連れ去っても良いのだぞ?」
ゼログニはゆっくりと立ち上がり、アユミに迫る。観念したアユミは
カラドボルグに耳打ちする
「…起爆して」
「…ニャ」
カラドボルグだけが垂れ幕から外に出る
「どうした? 今更囮の俺の事を知らせても後の祭りだと思うがな」
「魔王ゼログニ!」
アユミは決然とした表情で向き直る
「いつか必ず魔族と人間が手を取り合う時が来ます! でも、今はさらばです!」
「何っ?」
ボボオォォ!!
「うおおお!」
「キャアアア!」
仕込んでいた爆弾が起爆し、テーブルがあった場所から火柱が吹き上がりゼログニを直撃する
アユミとリークルも爆発の余波で吹き飛ばされる
「ふぐう! 痛っ…くうぅ…」
アユミは東側の垂れ幕を突き破って階段を転げ落ちた。爆発の予測はできても回避は不可能だ
「骨折無効」と「健康な肉体」で再起不能にはならないが、激痛に変わりはなく、衝撃で
鍼灸ワンピースもボロボロである。どうやらゼログニとリークルは西側に飛ばされたようだ
「アユミ、しっかりするニャ」
「ううぐっ…ダメだ…これじゃ走れない…」
「しゃーニャい、しばらく吾輩に乗るニャ」
「悪いね…この服ももうダメだ、脱いで透明で行くよ」
「わかったニャ」
鍼灸ワンピースをその場に脱ぎ捨て、カラドボルグに跨って拠点へと向かった
***
「ぐぅぅ…アユミめ…やってくれたなぁ!」
「ゼログニ様!、お怪我は!?」
「少し焦げたが大事は無い、リークルもうまく流したようだな」
「はい、すぐにアユミの後を…」
「捨て置け! 透明になったあいつに追いつける道理はない…囮の役目は果たした
グルーに戻り、報告が届くのを待つとしよう」
「…その前に、下半身をどうにかした方が良いかと」
「ん? …おおっ! フ…魔王の下着にクリティカルヒットか
こいつは一本取られたなぁ! ハッハッハ!」




