45話 一夜小屋
夕食後、アユミとカラドボルグとルードヴィッヒとノブヒロは
西側出口に集合した。秘密裏に進めるべき任務なので見送る人はいない
また、炎上装置を使うので、アユミの鍼灸ワンピース以外の持ち物はシズカに預けてある
「よし、これを着てくれ…完全に日が沈んだら出発、明かりは付けずに進行する」
そう言うとルードヴィッヒは漆黒の外套をアユミとノブヒロに渡す。アユミにも渡したのは
「透明化」で敵だけでなく味方もアユミを見失うのは避けたかったかららしい
カラドボルグは黒猫なので必要無し。そしてアユミは3日分の自分の食糧と水筒を背負い
夜の闇を歩き出した
***
アユミは、魔族の城塞都市グルーには行ったことがあるので「記憶能力強化」により
正確な位置がわかる。対してルードヴィッヒは、他の斥候からの情報と歩数計で
位置を割り出そうとしつつ歩いていた。その時
「皆伏せるニャ」
カラドボルグが言うと、3人は反射的に伏せて先を見た。2人の魔族が歩いてくるのが見えた
相手の斥候兵だろうか? だが特に迷彩を纏っている様子はない。夜目の利く猫だから
先に発見することができたようだ
「よし…少ないからここで始末しよう…アユミとカラドボルグは向こうへ行ってくれ」
「はい」
「ニャ」
通り道をあけ、相手を挟み込むように待ち伏せ、ルードヴィッヒとノブヒロは
石弓を取り出し、アユミはそばに落ちていた手のひら大の岩を拾って待ち構え
先にルードヴィッヒとノブヒロが発射した
「グオオッ!?」
叫び声と同時にアユミも岩を投げた。胴に当たったので致命傷にはならないが
振り向かせることができ、その隙をルードヴィッヒが剣で仕留めていった
「うまくいったな…これに油断せず、引き続き進んでいこう」
死体はそのままにして、さらに先に進んだ
***
「ここが…ちょうど中間地点のようです」
アユミが「記憶能力強化」のオートマッピングで得た情報を言うと、ルードヴィッヒも
歩数計と遠眼鏡で、おおよその位置を把握する
「うむ、ここで間違いないようだ…ノブヒロ、頼む」
「わかりました」
ノブヒロが雑嚢袋から種子を取り出し、円を描くように埋めていき、作物成長促進の能力を使う
複数の針葉樹がみるみる伸びていき、地上から1~2メートルの高さで寄り集まり床を形成する
そのまま壁と屋根を形成しつつ、西側には格子状にからみついた柵でベランダを形成し
東側には階段を配置した。月明りで幻想的に見える
「ふわぁ…」
「すごいニャー」
「いつ見ても壮観だな」
「いやぁ…ハハハ」
照れながらノブヒロは階段を上って手招きし、中を案内する。東西に長い6畳ワンルーム
幹がぐるぐる巻いて一つのテーブルと四つの椅子を形成していた
「椅子とテーブルはサービスだよ…動かせないけどね、何もない空間よりは
気が紛れるんじゃないかな?」
「はい、ありがとうございます」
アユミは座り心地を確かめている。その間にルードヴィッヒは垂れ幕を取り出し
東は布製のを釘で、西は革製のを念入りに固定していった
「幕はこれで良いだろう…毛布はここに置いておく。後は肝心の爆薬と
起爆装置だが…こっちに来てくれ」
アユミ達は階段を下り、意図的に作られた木の洞に向かい、ルードヴィッヒが爆弾を
木の幹に隣接させながら積み上げ、それをまたノブヒロが針葉樹で覆い隠す
「アユミにカラドボルグ、起爆装置は階段を下りた…ここに設置しておく
うかつに触らないように注意してくれ」
「はい」
「わかったニャ」
「さて…我々は戻る。魔族が攻めてきたら臨機応変に対応してくれ。3日後には
迎えに来る予定だ」
「わかりました」
「ま、吾輩に任せれば起爆する必要もなくなるかもニャー」
「フフ…頼んだぞ」
そう言うとルードヴィッヒとノブヒロは拠点に戻っていった
***
アユミはベランダの床に座って、空が白む様をカラドボルグを撫でながら見ていた
眠いが、即席の家を発見され次第襲撃される可能性もあるので気は抜けない
「ねぇカラドボルグ…やりたいことがあるんだけど…」
「何ニャ? 藪から棒に…」
「魔王ゼログニをここにおびきよせて話がしたいんだ」
「フニャッ!?」
カラドボルグは飛び起きる、今回ばかりはアユミでも
とんでもないことを言っている認識はある
「ここで魔族に鞍替えする気ニャ!?」
「そうじゃないよ、僕は見て呉れが人間だから、人間の味方しかできない…」
「じゃあニャんでそんニャ自殺行為を言い出すニャ!」
「…ふぅー」
アユミは天を仰ぎながら大きく息をつく
「カラドボルグに出会う前…アグリーに磔台で処刑された時に、サリエルっていう天使に
出会って「不老不死」にされて、人間とも魔族とも恨みつらみを超えて手を組むように
頼まれたんだよ」
「ハァー…なんちゅう無茶ぶりをする天使ニャ…200年はいがみ合って戦争してるのを
知ってて言ってたのかニャ?」
「僕もそう言ったんだけどね…まだ200年程しか恨みは積み重なっていないって言われちゃった
「真の敵」ってのが居て、千年以上前からの企みで、人間と魔族が憎みあうのも
計算の内なんだって」
「…それがエルフって訳ニャ?」
「うーん…僕がまだ会ったことのない種族で、怪しいのがエルフってだけで
まだ確証は無いよ」
「…他に話した奴はいるニャ?」
「話せないよ…根拠が天使から聞いただけの話なんて…その点カラドボルグは200年生きてて
エルフも知ってるようだから話せたんだけどね」
「ニャーるほど…お、魔族がやって来たニャ」
「えっ、もう!?」
目を凝らすと、一個小隊がこちらへ向かっているのが見えた。人数からして
この家を調査か破壊する為に急いで編成したのだろうか
「多いけど…今撤退したら時間稼ぎの目的が果たせない…迎え撃つよ!」
「わかったニャ!」
カラドボルグはベランダから飛び降り、アユミは鍼灸ワンピースを脱ぎ「透明化」を使い
東の階段から下りて西へ走っていった




