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44話 そこに都合良くある

昼食後、「五人衆」達は防衛の準備をしにそれぞれの持ち場へと散り

アユミはノブヒロの作った生木の橋を渡って魔族領側の拠点にやってきた

周囲を見ると、ルードヴィッヒが兵士達に木のバリケードを配置するよう指示を出し

ジュンヤが北西の「裏切りの森」で伐採作業に精を出しているのがわかる

魔族領なので、襲撃に備えて鎧を着たまま作業しなければならないのは辛そうだ

獣人達の反発を気にする必要は無いようだが…


アユミはというと、カラドボルグと1人の一般的な男性魔法兵を連れて

鍛冶場にやってきた。実際に使える施設なのかどうか確認するように頼まれたのだ


「ではアユミ様、よろしくお願いします」

「はい、微力を尽くします」

「指示は吾輩が出すから心配は無用ニャ」


まず鞄を下ろし、アユミと魔法兵は備え付けの鍛冶用耐火エプロンを着てみた

魔法兵にはサイズは許容範囲だったが、魔族大人用なのでアユミにはブカブカである

かといって、今裸になるわけにもいかず、何とかきつく縛って折りたたんで着る

四苦八苦している間に、カラドボルグは剣形態になっていた。錆で黒ずんでいる


「よーし、あの時と同じ「折り返し鍛錬」をするのニャ。でも今回最初は

アユミのヒートハンドは使わず、魔族の残していった、魔力で動く鍛造炉を使わせるのニャ」

「これですね? この角筒の中に鉄を入れ、増幅器部分を握ることで熱を生み出すようです」

「そうニャ、金床とかは元々ここにある物を使うニャ」

「うん、わかった」


魔法兵は、太い杖先に角筒が垂直に取り付けられている装置を持ちながら言った

アイのような勇者ではなく、一般の兵士にも使えるような代物かを試すらしい

カラドボルグは浮かんで自らその中に入っていった


「準備できたよー」

「よーし、じゃあ熱する係、開始ニャ!」

「了解っ! はああっ!」


魔法兵は、杖先の角筒部分を地面につけて屈み、両手で増幅器部分に触れて

魔力を送り始めた。特に演出は無く、じっくりとカラドボルグは赤くなっていった


「…なーんかぬるまったいニャー、もうちょっと火力上げられないかニャー?」

「はっ…はいっ! ぬうぅぅぅ!」


先程よりは赤白くなってきたが、あと一歩足りない

アユミはハンマーとヤットコを握りしめながら応援する


「あと少しです! 頑張ってください!」

「はぁっ、はぁっ、オオオォォォ!」


魔法兵は疲労の色が濃い。それでもなんとか適した温度まで上げた


「今ニャ!」

「はい! 出します!」

「ぜぇっ、はぁっ、はぁっ…」


本来は素手でも掴めるが、あえてヤットコを使ってカラドボルグを挟んで

金床に置いてハンマーで力いっぱい叩き始め、そのまま一度折り返した

魔法兵は、尻を地面につけて肩で息をしていた


「あの…大丈夫ですか?」

「はぁっ…はぁーっ…まさかこんなにきついとは思わなかった…ですよ」

「おかしいですね…魔族が使った所も見ましたが、こんなに疲れるような物じゃ

なかった筈なんですが…」

「ニャ…魔族と人間の魔力は質が違うから、人間用の増幅器に替えれば

うまくいくかもニャー」


「成程…では私の杖を一時的に組み込んで…」

「待つニャ、そんなに疲れていたら効率が悪いし、正確な試験もできないニャ

アユミにはこのままヒートハンドで折り返し鍛錬を続けてもらって…疲れが取れたら

もう一度やってもらうニャ、それまで休んでいるニャー」

「わ、わかりました…フゥーッ」


魔法兵は懐からマナポーションを取り出して一服している

アユミは持久力上昇と「空気摂取」により疲労は無い

焼けた鉄の臭いでフェロモンも気にならない


***


さらに2回折り返した所で


「十分休ませていただきました、もう大丈夫です」

「よっしゃ、さっそく熱してみるニャ」


魔法兵は鍛造炉に、自分の杖についていた増幅器を組み込んで魔力を送る

すると今度は、アユミのヒートハンドの速度には劣るものの、大きな疲労もなく

適した温度まで上げることができた


「よーしよし合格ニャ!」

「はーい、出しまーす」

「よしっ…使えますね、これは」


そして魔法兵は晴れやかな笑顔になった

アユミも笑顔になり、一瞬だけジト目具合が軽減された


「アユミー、早く打つニャー」

「はいはーい」

「そっちは報告書を適当に書いておくニャー」

「えっ…良いのですか?」

「任せたニャー、どーせアユミに書かせたら自分を卑下しまくって

ヘンな報告書になっちゃうニャー」

「…むぅ」


アユミは渋い顔になりつつも打ち続ける


***


「む? まだ続けていらしたのですか」

「オーウ、そっちは報告書できたニャー?」

「はい、アユミ様は…疲れないのですか? もう2時間は打ち続けて…」

「勇者の力がありますから平気ですよ」

「はぁ…ジュンヤ様ですら休息を取られているのに…凄いですね

私はこれで失礼いたしますが、無理はなさらないで下さい」


そう言うと魔法兵は去っていった

アユミにとっては、疲れないし飽きないので、凄いと言われる覚えは無いのだが


「よーし…これで折り返しは終了ニャ。次は「素延べ」と「火造り」ニャ」

「…?」


知らない言葉が2つ出てきてアユミは首をかしげる


「難しく考えることは無いニャ、今まで折り返してたのを、ここからはせずに叩き続けて

剣の長さになるまで延ばすのが「素延べ」で、角を叩いて鋭角にして刃にしていくのが

「火造り」ニャ」

「なーるほど…」

「細かい所は、吾輩が動いて位置を教えるから、アユミは今まで通り

ガンガン叩いてくれれば良いニャ」

「うん、わかった」


それを聞いて、アユミは再び熱しながら叩き始めた。

しかし20センチ程の長さになった所で


「アユミ? まだやってたのか…もう夕食だぞ」


ルードヴィッヒが迎えに来ていた。時が経つのを忘れてしまったのか

「記憶能力強化」があるのに奇妙な話である


「今夜から偵察を始めるのだから、そのへんで切り上げてくれ」

「…はーい」

「うぅ…ま、待つニャ、形はこのままで良いから…せめて

焼き入れと焼き戻しだけはやって欲しいニャ…」

「はいはい…ルードヴィッヒさん、あと30分経ったら行きます」

「わかった、無理するなよ?」


ヒートハンドで熱して、備え付けの水桶で処理を行い、改めて出来栄えを見る

錆は取れてまた美しい棒になった


「中途半端になってごめんね…」

「気にするニャ、また機会はあるニャ」


そう言うと、猫形態になって頬をこすりつけてきた。ゴワゴワせずとても心地が良い

アユミは軽く撫でてから、夕食を摂りに向かうのだった



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