43話 あれよあれよという間に
アユミは朝食を摂った後、カラドボルグと「五人衆」と共に会議室に赴いた
そこではクルネドが怖い笑みを浮かべて待っていた
それを見て尻込みするアユミをカラドボルグが押す
「来たな…待っていたぞアユミ」
「ど、どうも…」
「聞いたと思うが、昨夜の戦いはお前の地図のおかげで大勝利を収めることができた」
「きょ、恐縮です…」
「今回の戦いは、ただ勝てばよいという単純な話ではなかった。拠点を落とした上で
すぐに取り戻しに来るであろう魔族の襲撃に備えなければならないのだ
過去にも、拠点を落とせた時はあった。だがその時は備えが間に合わず防衛に失敗し
すぐに奪い返されてしまった。無計画に爆弾を使ったから防壁もボロボロだったのでな」
クルネドは、さらに続ける
「しかし今回は魔族の使っていた建物が原形をとどめており、簡単な改修だけで
防壁に仕立てることが可能だ。確かにルードヴィッヒ達、実働部隊が
丁寧な仕事をしたのは大きいが、それも正確な地図があったからこそ
計画を立てることができたのだ…わかったか?」
「は、はい…」
まだ半分納得していなさそうなアユミの態度を見て、クルネドは鋭い目つきになる
「ジュンヤの声は聞こえていた、大方…自分の手柄など無いかのように話していたのだろう?
アユミは自分自身の潜在能力の良さを全く分かっていない。それを分からせる為に
うってつけの任務を用意した」
「…」
アユミは固唾を飲んで次の言葉を待つ
「ここから西へ徒歩半日の地点に、魔族の城塞都市がある事を確認している
恐らくは、そこで拠点奪還の準備をしているだろう…よって
その城塞都市へ続く道の中間地点…地図だとここだな…ここに見張り小屋を建てて
魔族の動向を探るのだ」
「わかりました」
「ま…待て待て、こんな危険な任務をそんな安請け合いするんじゃない」
ルードヴィッヒが制止してきた
「いえ…何を言われてもやるつもりでしたから、まず了承して、それから詳細を聞こうかなと」
「なんかアユミって詐欺とかに引っ掛かりやすそうだよな…」
「アユミさん…命にかかわる事なんだからもっと慎重に…」
ジュンヤとノブヒロも困惑して暗に制止してきた
「大丈夫ですよ、僕は「不老不死」ですから死にはしません」
「アユミちゃん…そういう事じゃなくてね?」
「いくら何でも命を粗末にしすぎよ…クルネドさんはそこまで望んでるの?」
「い、いや…私も「不老不死」の事は聞いていて、それをアテにした任務なのは認める
しかしこんな死ぬ気満々で…そこまでは望んでいない」
思っていることを口にしただけで、結局全員に困惑されてしまった
しかし、うつ病の歩見には見慣れた光景でもある
クルネドは咳払いをして、話を戻す
「…詳細を話そう。今夜、アユミはルードヴィッヒとノブヒロとカラドボルグを連れて
地図の地点まで赴き、まずノブヒロの能力で即席の家を建てる…できるな?」
クルネドはノブヒロに話を振る
「は、はい。木の壁や床ならできます…しかし扉とかを作るのは難しいですね」
「それなら…垂れ幕で対応すればいい、あくまでも仮の物だ。魔族に建物を見せて
警戒心を抱かせ、防衛体制が整う時間稼ぎができればそれで良いのだ
夜が明ける前までには建て終わらせ、ルードヴィッヒとノブヒロは拠点に戻り
後はアユミとカラドボルグで見張りの任務についてくれ…何か質問はあるか?」
そこまで聞いたとき、アユミには一つの考えがよぎった
あれ? これ…ゼログニと接触できるんじゃない? と
「アユミ、どうしたニャ?」
「えっ、あ、うん…見張りは承りますけど…大軍とか魔王とかがやってきたら
撤退しても良いのでしょうか?」
聞いたクルネドは訝しげにアユミを見る
「昨日言っていた魔王ゼログニが来るという話か…だがそもそも王と呼ばれる者が
こんな最前線まで出張ってくるだろうか? 来たとしても
影武者が軍の士気を上げに来るくらいか。大軍も…先の戦闘で魔族は全滅したから
再軍備にも時間がかかるはず、そのころにはこちらの防衛準備も完了して
お前に帰還指示を出す事になるだろう」
「そう、ですか…」
人間側の常識で考えれば確かにクルネドの言う通りである。だが実際にゼログニと
直接会った事のあるアユミには不安が残る
「だが、そうだな…ノブヒロ、即席の家に狼煙などを上げさせる事はできるか?」
「うーん…胞子や綿毛を飛ばす事くらいはできますが、狼煙ほど目につきやすい物は…」
「だったら、家を丸ごと燃やしちゃえばいいニャ。暗くても目に付くし
相手に利用される事も防げるニャ。簡単に建てられるんニャろ?」
「なるほど…大胆だが、悪くない。家の中心部を燃えやすい針葉樹で造れば
火薬を仕込んで爆発炎上させることも可能だ。ルードヴィッヒ、火薬に余裕はあるか?」
「うむ、魔族から収奪した物資がある、発火装置もそのまま使えるぞ」
「よし、では設置個所はノブヒロに任せる。何、使わなかったら回収すればいいだけだ
アユミの言うように大軍とか魔王とかがやってきたら発動してくれ…可能性は低いだろうがな」
「は、はい…わかりました」
アユミが魔王の事を話題にしただけで、自然に計画が定まっていった
普通なら自分の意見が採用されたと喜ぶべきなのだが、うつ病のアユミには
責任が取れない恐ろしい事と感じ、暗い顔になる
「アユミ、吾輩もついてるんニャから心配は無用ニャ」
「うん、ありがとう…」
カラドボルグだけには自分自身の計画を話しておかなければ…そう思いながら撫でる
少しゴワゴワした触り心地だった。海に入って錆びるとこうなってしまうのか
「そうそう、忘れない内にこの金を返しておこう」
クルネドはアユミに5万ゴールドを手渡し、こう続ける
「お前たちの世界では、タダより高いものはない…という言葉があるそうだな?
私も同意見だ。仕事に対しては適切な報酬を支払い、受け取ってくれてこそ
良好な信頼関係が築けるものだ。もうタダで働くなどと言うんじゃないぞ」
「はい…すみませんでした」
そう言われても、責任という名の重みを感じずにはいられないのであった
この後はそのまま、アユミが見張り役をしている間の防衛計画の話し合いが昼まで続いた




