39話 不可視の斥候兵
机に広げられている地図を指さしながら、ルードヴィッヒが任務内容を語りだした
「我々が今いる地点はここ…魔族の拠点は西…川を挟んでこの位置だ。前に威力偵察した時は
塹壕の代わりに岩を積み上げて射線を切っていた、外から見た限りでは拠点の規模は大きく
小さな村と言っても差し支えない。そのせいで武器庫の位置の目星を付ける事もできない」
「なるほど…武器庫を見つけ出せば良いのですね?」
「それは最低限必要な情報だ…他に有益な情報があればあるほど良いが…」
「ではせっかくなので正確な地図でも書きましょうか? 僕には「記憶能力強化」という
能力もあるので、かの地の様子を全部覚えてきますよ」
アユミがそう言うと、5人は驚く
「覚えられんのかよ!? あのデカさを!?」
「…それを今証明するのは難しいでしょう、できた地図を見でもしない限りは」
「うむ…信じよう、その能力を買って君を呼んだのだからな」
「では、早速偵察に向かいます」
「えっ、もう?」
「ここに来たばかりで疲れているでしょうに…」
アイとシズカがそう言うが、偵察するなら早い方が良いだろう
「大丈夫ですよ、いざとなれば透明のまま寝られますから…じゃ、カラドボルグ
ここに残って荷物を預かっててね」
「わかったニャ」
透明になってから全裸になり、着ていたものを鞄の中に入れた
「気をつけてな、成果が無くても72時間経つまでには戻ってきてくれ」
「はい、では行ってきます」
***
日没、アユミは拠点から20分北へ走った所…川の水面から数々の大きな岩の頭が出ている
個所に着き、渡っていく。ここまでは前に見ているから問題なく進行できる
そのまま川岸に沿って南下し、岩が積み上げられているのが見えた所で歩く速度を落とす
拠点の北側に岩が積みあがっていない箇所がある…見ているとタヌキが現れ、近付いていく
ガキンッ!
「ギャン!」
「…!?」
北側に近付いたタヌキは、金属音と共に悲鳴を上げて苦しみだした。よく見ると
トラバサミが仕掛けられていたと分かる。間も無く武器を持った魔族が2人やってきて
掛かったタヌキを武器で突き刺し、トラバサミを再び仕掛けてから戻っていった
「今日はタヌキ鍋だな!」
「…」
あのまま進んでいたら危なかった…アユミは心の中でタヌキに感謝し
北側は避け、川岸に沿ってさらに南下していった
***
人間領に対しているだけあって、拠点の東側は特に多くの岩が波状に積まれ
一つの岩の山を越えている間に、奥の山から狙い撃ちされるような構造になっていた
篝火に照らされている魔族の兵士を見ると、小型の槍を複数本用意しているのが見える
川を渡る人間を見つけたら、槍を投げるのだろう。槍が無くなっても岩を投げられる
「弓矢じゃないのか…」
幸いカタパルトなどの攻城兵器は見られない、今の所は塹壕を崩す事はできないだろう
岩の波の形を覚え、南側に向かう
***
南側にも岩が波状に積まれていたが、見張りは最小限という印象を受けた
東は川だが南は海なので、わざわざ南からは来ないだろうとの考えか
「まぁこの近距離じゃ船は意味がないだろうしね…」
今はアユミ単独なので南からも拠点内に入れるが、部隊規模となるとそうはいかない
***
最後に西側に回り込んで見たが、積まれている岩は少なく、建物の壁が見えていた
南側に沿って馬車の轍が多く見える、ここからさらに西にある城塞都市グルーからの
輸送物資を受け入れる為だろうか?
「トラバサミは…暗くてよくわからないか」
明るくなってからまた確認しに来ようと考え、南側まで引き返し
そこから拠点内に入っていった
***
南側の岩を乗り越えると、右手には何か建設途中の物見櫓らしき建造物が見え
左手には手前から西側出口への道、配給所、仮眠室、司令部、食堂の順で立ち並び
建築様式からオグホープ島での生活を想起させる。さらに北側へ行くと右手に…
「うわ…なんでここに…」
そこには小規模の鍛冶場が設けられていた。溶鉱炉こそ無かったものの
魔力で動く鍛造炉なら有り、職人が壊れた武具やトラバサミを直し、小型の槍を作り出していた
…オグホープ島で「川岸の拠点は捨てるかどうかの瀬戸際に立たされている」と
聞いていたのだが…こんなに腰を据えられる程に持ち直した、という事だろうか?
「…ん…あれ?」
これ以外に建物が無い、ルードヴィッヒから言われた肝心の「武器庫」が無いのである
いや、今は夜で暗いから見つからないだけかもしれない
「朝にもう一度だね…」
アユミは南から拠点を出て、北西に広がる「裏切りの森」の中で
キノコをつまみ、仮眠を取ることにした
***
「おいでー♪ カラドボルグちゃーん♪」
「ニャーン♪ あーでも荷物番がニャー」
「私達が見ててあげるよ…お話しよ?」
「じゃー吾輩の身の上話でもしようかニャー」
「ぐぬぬ…あの猫ォ…!」
「ジュ、ジュンヤ君…覗きは良くないって…!」




