38話 戦争最前線にて
南西への道中は、気休め程度に舗装された道を行く。だが荷物が多く、速く走っていないので
揺れは少なく、喋ることもできた
「そういえば…アユミ、君の得物は何だね? 剣も弓も無いようだが…」
「それは僕のヒートハンドにコールドハンド…水を凍らせたり、鉄を溶かしたりを
この手で出来ます。直接触れていないと効果は無いですけどね」
「成程…武器に頼らずとも良いわけか…」
「吾輩の事も忘れてもらっちゃ困るニャー」
「あぁ…カラドボルグも電撃で戦えるので…まだ刃が無いので
いつかは付けてあげたいですけどね」
「その言い草…鍛冶もできるのか?」
「一応は…まだ始めたばかりですけどね」
「ほぅ…多芸だな…」
「わからねぇな…そこまで色々できるなら自分を卑下する必要ねぇじゃねぇか」
「卑下…してましたかね?」
「してたぞ」
「うーん…?」
やがて舗装されていない所に出たので皆黙った。卑下するなと言われても
それを意識して喋っているわけではないし、いじめられた過去もあって
自信満々状態で喋る事はできそうにない
***
途中で魚の干物を食べながら、日の入り前に、馬車も入れる塹壕の入り口にたどり着いた
川はかなり遠くに見える、アユミが前に来た時よりもさらに東に掘り進められたようだ
到着したアユミ達を、兵士達が出迎える
「お帰りなさいませ、ルードヴィッヒ様、ジュンヤ様」
「おう!」
「うむ、留守中変わりはないか?」
「はい、魔族達に動きはありません…その子はもしや…?」
「そうだ、件の斥候兵…アユミだ」
「よ、よろしくお願いします…」
「はい! よろしくお願いします、アユミ様!」
様付けなんてこそばゆいが、ギュスターヴの言ったように
立場を考え、我慢する
「ではアユミ、司令部に案内しよう」
***
司令部は前に見た時と変わらない、深く掘られて地下室になっている場所だった
机には、同じように地図が広げられている。カラドボルグを猫形態にしたら狭くなりそうだ
「では、他の勇者達を呼んでくるから、適当に座っててくれ」
「はい」
ルードヴィッヒが呼びに行き、ジュンヤが早々と丸椅子に座ったので
アユミはその向かい側に座った
「あっ、そこは…」
ジュンヤがそう呟いたので、アユミはすぐ他の席に移った
誰かの定位置だという事は容易に想像できる
「あ、すみません」
「お、おう…」
言ってから鞄を下した。少し気まずい空気が流れた
「なぁ…ここに来るの嫌だったんじゃないのか?」
「嫌というか…僕以外に適任者はいないと言い切られてしまいましたからね
僕を必要としてくれるなら行きますよ。ついでに下水道掃除報酬の3万も超えましたしね」
「そ、そうか…」
***
ややあって、ルードヴィッヒが3人を引き連れて戻ってきた
「待たせた…アユミ、こちらが…」
「か~わいい~♪」
「へ?」
アユミは、背中まで届く後ろ髪を三つ編みワンテールに纏めている18歳位の女性に
抱き上げられ、頬ずりされる
「あ…姉貴…」
「アイちゃん…その子が困ってるでしょ?」
「あっ…ごめんね? ここって可愛いのがシズカちゃん位しか居なくってつい…」
「い、いえ…だ、大丈夫です」
ナチュラルボブの17歳位の女性に指摘され、アユミは下ろされた
その後アユミは恥ずかし気にもじもじする。いくら外見が10歳女児でも
中身は25歳男なのだ。ジェニファーの時もそうだったが、どうしても意識してしまう
「いやはや、元気ですなぁ」
ショートヘアの30歳位の男性が最後に室内に入った
***
全員着席してからルードヴィッヒが話し始める
「では、改めて自己紹介しよう。アユミは最後にやってくれ」
「はい」
「私はルードヴィッヒ、ヒュージリバーに展開している軍を束ねる
我ら「五人衆」の1人でリーダーを務めている…もっとも、最年長だからだがな
私以外の4人は、異世界から来た勇者達だ。アイから順番に自己紹介していってくれ」
「はぁい♪ 私は中村愛よ、よろしくね♪」
「…!」
この世界に来て、王族や貴族以外で苗字を聞いたのは初めてだった。察するに日本人だったのだろう
ルードヴィッヒも、その辺りは大体把握している様子だ
「私は「健康な肉体」と「留置」っていう能力を持ってて、火の魔法に適正があるみたい
戦闘になったら、遠くからフレアを撃って参加してるわ」
フレアというのが魔族で言うところのヘルファイアなのだろう
続いて、ナチュラルボブの女性が語りだす
「私は杉本静香、「健康な肉体」と「液体感知」を与えられ、回復補助魔法を主に使ってるわ
フリーズも使えるけど…基本的には衛生兵と思ってくれれば良いよ」
「僕は岡田信弘、学校の用務員をやってたんだけど、こんなことになってビックリだね
あっと…「健康な肉体」と「農耕補助」をもらって塹壕堀りに勤しんでるよ」
「…俺は中村純也だ、想像つくと思うが…中村愛の弟だ。「健康な肉体」と「怪力」を与えられ
フレアも少し使える。俺の炎を纏わせた剣で魔族共をぶった切っている」
「ではアユミ、頼む」
「はい」
アユミは立ち上がってから話し出す
「僕は…秋田歩見です。今回「透明化」を請われて参上しました。戦闘では…
透明状態でこっそり近づいて、直接触れたものを凍らせるか燃やすかする手で
相手の不意を突くのが主な戦法となります。後は…「不老不死」でもあるので
どんなに酷いことされても死にはしません」
「へぇ…いいなぁ~」
アイが呟く、普通の人間なら当然の感想だろう。そんなに良いものでもないのだが…
そう思いながら席に着こうとすると、ルードヴィッヒが口をはさむ
「アユミ、あの黒猫の紹介もやってくれないか?」
「え…ここじゃ狭くないですか?」
「問題ない、それに人並みの知恵もあるようだし、ここで暴れることもないだろう」
「…わかりました」
鞄を開いてカラドボルグを取り出すと、すぐ猫形態になって机に前足だけ乗せて顔を出した
「ニャッフッフ…吾輩、カラドボルグニャ。生きてる剣ニャ」
「かわい~い♪」
「可愛い…」
アイとシズカが黄色い声を出してカラドボルグを撫でに来た
「ニャフ…吾輩、モテモテニャー」
「…むぅ」
「…こ、こいつオスじゃねぇか! 姉貴! あんまりベタベタすんな!」
カラドボルグは大人しい、節度を持った撫で方だからだろうか
アユミが渋い顔で見ていると、前足がアイの豊満な胸に触れた
「あん♪」
ジュンヤはブチ切れて剣を抜きそうだったので
アユミはカラドボルグに抱き着いて引き離した
「…この猫は、剣の形態に自由に変化できて、電撃を放つ事もできます
今は刃が付いてなくて鉄の棒ですが、十分戦力になるでしょう」
「ニャーン…吾輩みたいなか弱い猫を戦わせようニャンて」
「そういうのはいいから」
「ハイニャ」
「ルードヴィッヒさん、これで自己紹介はいいですよね?
偵察任務の詳細を教えてください」
「う、うむ…そうだな」




