34話 猫が総仕上げ
食べ終わったアユミは、倉庫へ行ってゴールドを置いて鍛冶道具を背負い、北門から外に出た
森に入ったら「透明化」を使って鍼灸ワンピースを脱ぎ、鍛冶道具共々地面に近づけて運ぶ
途中、不届き者が見張っているのが見えたが、作戦通り気付かれないように進んだ
ゴブリンの巣穴前につくと、明かり用に多くの枝や棒を拾い集めてから
あえて「透明化」を解き、鍼灸ワンピースとバレッタを身に着けてから中に入った
これでアユミが内部にいると分からせるのだという
道中は「記憶能力強化」により、火を付けなくても歩ける。泉の傍まで歩いてから火をつけた
「ようし…精錬の続きを始めるニャ。まずは目釘を抜いて柄を取り外すのニャ」
「…目釘って?」
「持つ部分に2箇所、柄と刀身を固定する為の穴が空いてて、そこに嵌ってるニャ
道具の中に「目釘抜き」っちゅう細い棒と小さなハンマーがあるはずニャ」
「…あ、あった」
「そのまま柄に手を沿わせるニャ…そこニャ、弱めに叩いて目釘を抜くニャ」
「う、うん…」
カンカン…パキッ!
「あっ! わ、割れちゃったよ…」
「大丈夫ニャ、目釘は木製…長く手入れしてなかったら割れて当然ニャ
さ、もう1つも外すニャ」
「わ、わかった…」
カンカン…パキッ
「これで外れるはず…どうしたニャ?」
「しっかり嵌まり込んでて…」
「それじゃ、柄を熱しながら抜くニャ」
ズッ…ズズッ…
「抜けたよ」
「よくやったニャ、吾輩の本体は刀身の方ニャから、柄は道具と一緒にしまっとけば良いニャ
次は…いよいよ、この邪魔な鋳鉄を全部取り除くのニャ。吾輩の言う通りにするニャ」
「う、うん」
カラドボルグはアユミに作業工程を説明した、聞きながら全裸になっておく
***
刀身の折った方を下に向け、鋳鉄の外側からヒートハンドで熱する。カラドボルグ本体の融点が
高いので、鋳鉄だけを叩いて削ぎ落とせるらしい。じょじょに赤白く光り輝いてきた
「今ニャ!」
カラドボルグの合図で金床に、柄があった部分を天井に向けて置き、刀身に沿うように叩く
すると本来の刀身部分が露出してきたので、反対側も叩いて削ぎ、最後は
柄があった部分で持ち上げて、鋳鉄を叩いて落とした。改めて見ると
カラドボルグは本来は刃渡り25センチ程の短剣だったのだ
「フーッ♪ ようやく身軽になったニャー」
カラドボルグが剣形態のまま動き回る。今までのゆったりした動きとは雲泥の差だった
どうしてこれに鋳鉄を被せて大剣にしてしまったのか理解に苦しむところだ
「ニャフ…まだ不届き者達に動きは無いニャア…このまま精錬もやっちゃうニャ!」
「大丈夫かな…?」
「アユミみたいに洞窟丸暗記してるわけでも、ゴブリンみたいに暗視能力があるわけでも
なさそうニャ、相手が動くには明かりを持ってくるしか無いニャ」
「そう…わかった」
カラドボルグはアユミに次の作業工程を説明したが、刀身が粉々になっても叩き続けるように
言われたアユミは少し尻込みする
***
アユミはカラドボルグに両手を当ててヒートハンドを使う。刀身が小さくなったので
柄だった部分から刃の先まで満遍なく熱を加えることができていた
「ハァ~~い~い熱ニャ~~♪ これを待ってたのニャ~~♪」
なんだか風呂に浸かった親父のような事を言うカラドボルグに、アユミは苦笑した
やがて眩く光りだしたので、金床に置いてハンマーで力いっぱい叩き始める
早々に刃先部分が欠けたが、痛覚は無いと聞いているので構わず。欠けた方の刃先を
ガンガン叩く。すると黒い汚れが剥がれ落ちていったので、残った刃の部分も叩く
繰り返しハンマーを振り下ろす事で、正確性も増していく
刀身は平たく広がっていき、柄だった部分も欠けたので、平たくなった刃を金床からどかし
柄だった部分を置いてガンガン叩く
「よーしよし、いいニャ~いいニャ~」
カラドボルグは自らバラけた刀身を動かし、下から、平たくなった刃、柄だった部分
欠けた方の刃先の順で重なり、金床の上に移動した
「この状態で熱するのニャ」
アユミが手で押さえながら熱すると、ある程度一体化した
「よし、弱めに叩いて溶着させるのニャ」
言う通りにすると、細かい隙間が埋められて、完全に1つの塊になった
「よしよし…溶着したから強く叩いて空気を抜くのニャ」
叩き続けて薄く、平たくなってきた
「よーし! たがねで真ん中に切り込みを入れて折り返しの準備ニャ!」
「はーい…ふぅ」
熱が原因ではないが、厳しい作業で汗が出る…
溶けきらない所まで再び熱して裏返して切り込みを入れてから
表に戻して表面を金属ブラシで奇麗にし
金床に残った細かいゴミを払い飛ばしてから表の面を金床に当てて
切り込みから叩いて折り曲げていく
鋭角になった所でひっくり返しそのまま完全に折りたたみ
横を叩いて揃え、さらに上から叩く
「よくやったニャー!! これが「折り返し鍛錬」ニャー!! 広げてもう一回やるニャー!!」
カラドボルグはテンションが上がりすぎておかしな言動になりつつあった
そこまで精錬を熱望していたという事だろうか…もう一度折り返し、細い棒状にした
「最後に焼き入れと焼き戻しニャー!!」
再び全力のヒートハンドで熱して輝かせ、前と同じように泉の中心へ投げ入れて伏せた
水が蒸発する音は聞こえるが、今回は爆発は起こらなかった。アンモニアは抜けきったのだろう
「フーッ♪ 焼き戻しは200度…色が赤くならない程度を目指すニャ」
「わかった、やってみる」
カラドボルグを回収したアユミは、再び熱し始め、今度は赤くならない程度までにして
持ったまま水の中に入れた
「焼き戻しをすれば、簡単に折れないようになるのニャ。これが吾輩の知る精錬の基礎ニャ」
「ねぇ…本当に刃はつけないでよかったの?」
「ぼちぼち不届き者達が動き出すニャ…それに、刃はもうちょっと折り返してからが良いニャー」
「そう…わかったよ」
振り返ると、入り口付近に明かりが複数個灯って動いているのが見えた
このまま行けば決着をつけることになるだろう…そう考えながらアユミは鍛冶道具を隅に隠し
コールドハンドで水分を払い、鍼灸ワンピースとバレッタとストラップを身に着けた
焼き戻しをして冷えたカラドボルグは、銀かと見紛う程に美しい延べ棒になっていた
***
アユミは明かりを持って巣穴から出た、間もなく不届き者達が木陰から現れて行く手を塞ぐ
見える範囲では30人はいるだろうか? その中から親分らしき男と…スーザンが現れた
「アユミ! 貴女は強盗傷害の罪により指名手配されました! 大人しく捕まりなさい!」
「えぇ…やっぱりダメだったんじゃない…」
「ギルド職員まで釣れちゃったニャ」
社会的に死んだのにカラドボルグは飄々としている、アユミが投降しようとすると
カラドボルグが延べ棒の側面でアユミを巣穴の方へ押し出した
「ぐえぇ」
「ニャーに捕まろうとしてるニャ! 奥へ逃げるニャ!」
「逃がすな! 撃てー!」
ガスッ
「うっく…」
走り出した時、矢が複数本飛んできて、1本がアユミのバレッタに命中して破壊した
残りはカラドボルグが猫形態になり庇って跳ね返した
「大丈夫ニャ? はやく泉まで走るニャ」
「う、うん…」
火に照らされたカラドボルグは、体長1メートルの黒猫であった
毛が切り揃えられてスマートで美しい…精錬でここまで変わるとは思わなかった
見惚れそうになったが、今の状況を思い出し、再び走り出す
「ニャ…やっぱり連中は暗闇で全力疾走はできないみたいニャ
明かりを持ったまま、付かず離れずを維持するニャ」
「それは良いけど…ギルドに指名手配されて…どうするのさ」
「…とりあえず全員気絶させてから考えるニャ」
「全くもう…」
美しくなってもカラドボルグは変わらない…アユミは溜息をつく
***
泉まで集団を釣ったアユミは、明かりを掲げたまま水の中を進む
今の所カラドボルグの企みに感づいた者は居ないように思えるが…
「無駄な抵抗はやめて、大人しく投降しなさーい!!」
洞窟内なのでスーザンの声がよく響く…
アユミが泉を横断し終わり、連中の明かりの多くが泉の中に入ったのを見計らって
「フーッ!!」
カラドボルグが泉に電撃を放つ、短い悲鳴の後、大部分の明かりが一斉に消える
気絶して手に持っていた松明を泉の中に落としたからだ。このままだと窒息してしまうので
アユミは泉の中に入った連中を救出して回り、カラドボルグは泉の中にいなかった連中を
電撃ネコパンチで気絶させて回る。松明が良い目印になっていた
「どうしたもんかなぁ…」
泉の中には当然気絶したスーザンも居た。とりあえず彼女だけでも担ぎ上げ
他に顔を水面に浸けている者がいないかを確認してから
カラドボルグと合流して巣穴から出た
***
少し前、巣穴入り口にて
「ハァッ…ハァッ…最後尾で助かったぜ…」
「…誰が助かったって?」
「ゲッ! い、いやぁ~指名手配のアユミをこの洞窟まで追い詰めたんでさぁ!
ギルドマスターのあんたが来てくれりゃ百人力だ!」
「…当のお前が既に指名手配されてるなんて、笑えないぜ!」
「覚えてやがったか! くそぉおお!! ガフッ…」
「全く…アユミ達の計画は劇薬だぜ…どう言い聞かせたものか…」




