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32話 猫が腹黒い

カラドボルグは小さくなったとはいえ、まだ体長2メートル弱

そんなデカい猫がアユミの背を押しているのは人の視線を大いに集め、居心地が悪い

そんな中、ギルドまで戻ってきた


「う、うわ…」


アユミを見たリューツは露骨に嫌な顔をした、受付としてあるまじき行いだが今回は正しい


「リューツさん、落とし物を届けに来ました」

「…それも、不届きな連中とやらの持ち物ですか?」

「では似顔絵を描きます」


背負ってきた9人分の荷物を受付カウンターに置き

新たに見た6人の男の顔を「記憶能力強化」で覚えた内容を元に描いた

リューツはカウンターに両肘をついて、両手で自らの額を押さえ、わざとらしい溜息をつく


「ハァ~~……やめてくださいよ…こんな事繰り返されたら倉庫がパンパンになってしまいます」

「ニャーに、どうせ不届き者のニャ、そこらのテーブルに持ち主書いて適当に置いとけば良いニャ」

「そういうわけにもいきません…ネコババする欲が無いのがここまで罪深くなるとは…」

「まぁそう言うニャ、これで親玉が我慢できなくなってアユミを襲いにくれば万々歳ニャ」

「…ハァ~~……」


リューツは放置して、ジェニファーの元へ向かう

カラドボルグは剣形態になった


***


しばし待つと、ジェニファーが長いロープとバスローブとブラシと依頼書を持ってやってきた


「おまたせアユミ、井戸さらいをあなたへの直接の依頼としてまとめたわ。内容を確認してね」

「はい」


***


 ワンダラ井戸3箇所の清掃、紛失物捜索


(飲料用2箇所)(洗濯用)の計3箇所に潜水し

清掃、捜索を行う


報酬 3万ゴールド


備考 アユミへの直接指名依頼

道具はギルドが貸し出し、職員が補佐する

紛失物の内容によって報酬増額あり

風呂あり


***


「ディーン王子の特訓とやらで30分潜水しても平気だと確認されたそうね? 高温を出せることも

だから直接潜って汚れや落とし物を釣瓶に入れてもらい、私が引き揚げます

細かい砂とかは自然沈殿を待つから無理に取る必要はないわ。そして去り際に水を煮沸消毒ね」


「そういえば…飲料用の井戸まで掃除して良いんですか?」

「大丈夫、あらかじめ自然沈殿が終わっている2箇所と交代するから

飲み水が汲めなくなる事態にはならないわ」

「わかりました」

「頑張ってくるニャ、吾輩はちょっと別行動するニャ」

「そう? じゃあ昼にギルドに集合ね」


***


ギルドを出て飲料用の井戸に向かう。石造りの井戸に木の屋根と鶴瓶が取り付けられた

何の変哲もない井戸だった。柱にロープを結び、全裸になってブラシだけ持って

井戸内へゆっくり降りていく。水面についた時には、周囲は暗闇だった


「では、これから始めまーす」

「はーい、気を付けてねー」

「グロウ!」


指先に豆電球程度の小さな明かりが灯る、狭い井戸の中ならこれで十分だった

壁を伝って深く潜っていく、壁面はぬるついていたが、後で煮沸消毒すればいいだろう

底につくと、早速捜索を開始する。掲示板に貼られていた落し物は大体見つかるが

装飾品は錆び、瓶や食器は欠けたものが大半…使えそうなのは少ないが

アユミはそれらを拾い集め、釣瓶に入れた


「釣瓶を上げて下さーい」

「はーい」


ジェニファーに回収してもらい、アユミは再び潜る。何回か繰り返した後

ヒートハンドで熱湯に変えながら、ブラシで壁面をこすり

出た汚れを釣瓶で回収し、井戸から出た


「釣瓶は、後で新しい物に交換しておくから外して…っと、次に行きましょう」

「はい、わかりました」


バスローブを着せられてロープを解き、釣瓶を外してアユミが持ち

次の飲料用の井戸に向かう。作業内容は同じだった


***


そして最後は洗濯用の井戸にたどりつく。ジェニファーは自前のマスクをした


「ここは、今までより多くの汚れが沈殿してると思うから、気をしっかり持ってね」

「…はーい」


潜水すると、浅いところはまだ透明度があるが、沈殿してる汚れで急に視界が悪くなっていき

底につくと足元からグニャッとした感触が伝わる…ヘドロだった

そのまま腕で抱えるように、粘つくヘドロを水面まで出し、釣瓶に入れた


「釣瓶を上げて下さーい、ヘドロですから気を付けてー」

「はーい」


汚れてはいるが、水底との往復回数が増えただけで、掃除自体は問題無く終わった


「上がりまーす、多分臭いから気を付けてくださーい」

「はーい」


ロープを伝って出てきたアユミは、全身…特に髪の毛にヘドロがついて

モップのお化けのようになっていた。コールドハンドを全身に行き渡らせることで

ヘドロを凍らせて払ったが、髪の毛の汚れはなかなか落ちそうにない


***


ジェニファーと、井戸から回収した落とし物を洗って選別しながら話す


「想像以上に汚れていたようね…風呂ありにして正解だったわ、この後公衆浴場に行きましょう」

「こんな、何も無い真昼間から営業してるんですか…?」

「普通にやってるわよ? 冒険者は昼夜逆転が日常茶飯事だから、それに合わせた営業ね」

「なるほど…」


選別し終えた物で、形をとどめている物は飲料用に使っていた比較的きれいな釣瓶に入れ

割れたビンや食器は別の釣瓶に入れた


「それじゃ透明になってついていくので先導して下さい。全裸を晒すのはなるべく避けたいので」

「それもそうね…じゃ、ちゃんとついてきてね」


ジェニファーは長いロープとバスローブだけでなく、アユミの服等も一緒に持ってくれた

割れたビンや食器の入った釣瓶は一旦その場に置いて

「透明化」を使ったアユミがきれいな釣瓶を持った

遠目からは、ジェニファーが全部持っているように見える


***


2人はまずギルドに向かい、リューツに報告することにした


「お疲れ様です…アユミさんは?」

「あぁ…見えないだけで、ちゃんと居るわよ」


宙に浮いた釣瓶がゆっくりと受付カウンターに置かれ、リューツは察した


「なるほど…お疲れ様です、お陰で今月の井戸さらい費用が浮きました

後ほど、拾えた物に応じた報酬を計算してお渡しいたします」

「はい、では…僕らは公衆浴場に行ってきます」


ジェニファーはロープを片付け終えていた


「アユミ、手をつないで行きましょうか」

「あ、はい」


ジェニファーの手が一瞬わずかに下がる。そのままスイングドアから外に出た

その様子を見ながらリューツは溜息をつく


「アユミさん…こういう普通の事だけしてくださっていれば良いのに…やはり、あの黒猫…

一度きっちりお話させていただく必要がありそうですね…」


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